嘘と真実
アメリカでも秋の夜には虫の声が聞こえてくるとは知らなかった。まるで、真剣にラジオに耳を傾けている我々を嘲笑うかのようにコオロギが独唱している。
どうやらまだ時刻も午後9時前で、ところどころ家の明かりがついている。彼らもこのラジオ放送を聞いているのだろうか?もしかしたら、このメガホンレーザーから流れているラジオ放送を聞いているかもしれないが。
ラジオ中継はまだ続いていた。専門家が隕石と火星での爆発の話を、どうにか関係あるものと捉えられるかのような説明をしている。
カイはそれを聴きながら、要所要所鼻で笑っていた。
「全く・・・。いったい誰がこんなこと考えるんだかねぇ・・・。」
「じゃあ、彼らが言っていることは嘘ってことかい?」
「まぁもちろん、良い線いってるところもあるけど、ほとんどがでたらめだよ。」
すると今度は、視聴者と電話をするようだ。相手はなんと隕石が落ちた近所の住人だという。つまり、この辺りの誰かが相手というわけだ。
あたりに家は数えるほどはないが、どこも明かりが窓からしっかり漏れている。まぁ少なくとも空き巣は、侵入を諦めるだろう。
「もしもし、バクスターさん?聞こえますか?」
アナウンサーが呼びかけるが、音声は雑音だけしか聞こえてこない。
「どうされました?何かあったんですか?」
我々も固唾を飲んで、ラジオ放送に耳を傾けた。いや、カイはちょっと呆れていたかもしれない。
すると、ようやく電話の相手と思われる女性の声が聞こえてきた。大号泣中だ。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
アナウンサーが再び呼びかける。
「そちらではいったい何が起こっているのですか?」
恐らく若干アナウンサーもくどく思っているのだろうことが口調で分かった。
すると、ようやく電話越しから言葉が聞こえてきた。
「主人が・・・。」
「ご主人がどうされましたか?」
「主人が、殺されました。」
その言葉を封切りに電話越しからパニックに陥っている群衆の声が聞こえて来た。
「アホくさい!」
カイが言い放った。確かにカイの言う通りだと思った。
「そちらはどんな状況ですか?」
アナウンサーは諦めていなかった。すると、たった今未亡人になった女性は、さっきまでとは打って変わって、はっきりと状況の説明をし始めた。
「宇宙人みたいなのが、地面からたくさん出てきて、町を攻撃しています。人々が光線みたいなやつで次々と殺されています。この町はもう壊滅状態です。」
だんだん、胡散臭くなってきた。
「黒い球体で、足みたいなのが4本あります・・・。」
その後、女性の悲鳴とともに、電話が切れた。
「なぁ?これってニュージャージー州の人が相手だよな?」
「うん。」
カイは呆れている。
「ニュージャージー州っていうのは、今僕らがいるまさにこの町ってことだよな?」
「そう。」
「その町が今火星人に攻撃されてるってこと?」
「そういうこと!」
もちろん、本気ではない。ただ、ラジオだけの情報を得ている人間からすると、そういうことになる。それ以上の解釈もできないし、それ以下の解釈ももちろんない。
「ということは・・・。」
カイがそう呟いた途端、静寂な夜にけたたましいサイレン音が響きわたった。どうやら、メガホンレーザーがその音を傍受してしまったようで、今度は我々の鼓膜が攻撃を受けている。
すると今度は、あちらこちらから、勢いよく開いたドアが壁にぶつかる低く鈍い音が聞こえたかと思うと、なんとところどころに見える民家から、次々と即席で詰め込んだであろうスーツケースを持った人々がワラワラと姿を現した。
さらに今度はさっきまで真っ暗だった交差点を車のヘッドライトが数台照らしていた。
乗っている人の服装を見る限り、この辺りでは裕福な人間なのだろう。
それにしても昔の車はどうも排気ガスくさい。
「どうなってんだ?」
一瞬にして我々がいた交差点は、人と車で埋め尽くされた。それをさらに助長するかのように、メガホンレーザーから再びニュース速報が流れ始めた。
どうやら、宇宙人の攻撃はアメリカ全土にとどまらず、世界中に広がっているとの事だった。
アナウンサーの哀しげな声が地球の終わりを宣言するとラジオ番組も終わりを告げた。
待てよ!1938年・・・。思い出した!
「何?」
どうやら言葉でもしっかりとそう言っていたようだ。
「これは嘘だ!」
「嘘ってどういうこと?」
珍しくカイの困惑している顔が見れて少し嬉しい気分だ。
そう、このラジオ放送自体が嘘なのだ。
「この放送は、SF小説の宇宙戦争が題材のラジオドラマなんだよ。」
「ラジオドラマ?」
「そう!ラジオニュース風に演出したただのドラマなんだよ!」
逃げ惑う住人たちの雑踏で思わず大声を上げてしまった。すると、カイがメガホンレーザーを手に持ち、いつもの青い光を放ちながら、あちらこちらを照らし始めた。
「それでこんな大パニックになってるのか?それともこれも嘘か?」
「いや?これは本当というか、本気で信じてるからこんなことになってるんじゃないかなぁ?」
とは言ったものの自信はない。
「本当に地球人っておもっしろいなぁ。だって明日はハロウィンでどんちゃんするんでしょ?こんなこと二日連チャンでできる種族そうないぞ?」
馬鹿にしているのか褒めているのか分からないが、この話には続きがあった。
「実はこの話、僕が好きだった海外ドラマでやってて知ったんだけど、この出来事自体は都市伝説らしいんだよ。」
「でも、今確かに目の前で繰り広げられているけどなぁ。」
カイの言う通りだ。なんなら住民どころか、警察まで出動して避難活動を手伝っているしまつだ。たかが一本のラジオドラマで、ここまでパニックに陥るなんて。確かにこれじゃあ、エイリアンに馬鹿にされても仕方がないかもしれない。
「だが、時に都市伝説というのは、現実に起こることもある。」
そう言いながら、カイがメガホンレーザーのつまみをいじり始めると、目の前の景色が少し揺らいだ。
「そして嘘も同じく、真実へと変貌する時があるのだよ。」
揺らいだ景色が再び安定すると、そこにはさっきのラジオで言っていた、球体に足が4本の物体が姿を現した。
「火星人だ!」
カイがようやく楽しそうな笑みを浮かべた。
カイがようやく楽しそうな笑みを浮かべたらしいけどいつも楽しそうだよね。
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




