ぶどうジュース
ドラゴンになったカサンドラは、苦痛の叫びを轟かせながら、大きな翼を上下に揺らし始めた。
そのせいで、屋敷の中は嵐のような突風が吹きつけ、あちこちに散らばった机や破壊された建物の瓦礫を舞い上げた。
「ワインを飲んでいない?ワイン作ってんのに?」
吹き飛ばされないように身体を地面に固定させるのがやっとな状況にも関わらず、カイは話を続けた。
「そうなんです。ヴァインズさんたちお三方ともアルコールを嗜まないんです。」
エレナは叫んでいた。小柄な身体は徐々に後ろへ押しやられていた。
カサンドラが翼を動かせば動かすほど、突風は激しくなり、屋敷の窓ガラスが耳を刺す音を上げて、粉々に砕け散った。
「でも、さっきのパーティーではあなたたちも・・・。」
ウェイター業務をしていた時に、確かに彼女たちの手に握られていたワイングラスの中には、赤紫色のワインが注がれていた。
「あれは・・・。」
カミーラが何かを言いかけた時、カサンドラの巨体が、ようやく地面から離れた。
あの巨体を浮かせるほどの突風に、ただの人間が太刀打ち出来るわけがない。
風が鼓膜を振動させ周りの音は一切遮断されている。
だが不思議なことに、我々は先ほどから一ミリもずれることなくその場で突風に耐え忍んでいる。
ドラゴンは宙に舞い上がると、屋敷の屋根の上に着陸し、再び口から大量の炎をまるで嘔吐するように撒き散らした。
炎は吹きつけていた突風のせいで舞い上がり、太陽に照らされたように、屋敷が一瞬だけ明るくなった。
「みんな無事か?」
怪物ジキルの声は誰よりも身体を震わせた。
突風が収まるとようやく周りの状況とお互いの無事を改めて確認することができた。
ただ、そもそも最初から荒れに荒れ狂っていたせいか、周りの状況は、あまり違いは分からなかった。逆に瓦礫やらなんやらが風に運ばれて、さっきよりも綺麗に見えた。
「それで?あれは何?」
今度はカイが強くエレナに迫ると、それを見ていた怪物ジキルがカイを睨みつけたのが見えた。
だが、なかなかエレナは口を開こうとはしなかった。
「ただのブドウジュースよ。」
ドリゼラの声だ。
「ヴァインズ家は代々ワインを作っているのに、当の本人たちはお酒を一滴も飲めないのよ。でもそれってマイナスプロモーションじゃない?それで私たちは、アルコールが入ってないただのブドウジュースを飲んでいたってこと。」
「これはヴァインズ家にお仕えする者の絶対に破ってはいけない秘密だったので・・・。」
エレナはカイに弁解した。
「エレナ、よく誓いを守ってくれました。ありがとう。」
するとカイは、今まで何回か見たことがあるとてつもない笑みを浮かべていた。
「ファンタスティック!本当にこの言葉大好きだ!」
もちろん、その場にいた人々はまるで思考が停止したかのように、目を見開いた状態で、カイを眺めていた。だがそんなことはお構いなしにカイは、ドリブルを再開した。
「ということは、この屋敷にはアルコールが入っていない、ぶどうジュースがあるということですか?」
「ええ、調理場の奥に。」
エレナが答えた。
「どのくらい?」
「どのくらいと言われても・・・。」
すると今度はカミーラが答えた。
「地下に行けばいくらでも。」
「残念ながら、それは叶わないわ。」
ドリゼラが答えた。
「彼女が燃やしてしまったからな。」
メイジーがあのゾンビ軍団を追い払った時の事を言っているのだろう。確かにあそこには大量の樽やら、ワインセラーがあった。
「とにかく、ぶどうジュースを集めてきたら良いってことですか?」
エレナが話を戻した。
「ああ。アルコールが入っていない方がいいが、最悪ワインでも構わない。ありったけのぶどうジュースをここに集めてくれ。」
「それをどうするのですか?」
エレナの質問の答えを自分を含め、みんなが知りたがった。
「カサンドラに浴びせてあげるのさ。」
「なぜ?」
その時、屋根の上にいるカサンドラが、まるで自分の存在を主張するかのように、ミサイルのような雄叫びを発し始めた。
「まずいぞ・・・。」
カイは屋敷の外の村の方角に視線を向けた。
「このままだと、野次馬たちがぞろぞろとここに集まってくる。そうなったら、君たちもかなりめんどうなことになるぞ。」
村はずれにある屋敷ではあるが、あの声は確実に村どころか、国中に響き渡っていそうだ。それにこの火柱は何でもないですよとはいかないだろう。
もしかしたら、それがこの歴史の結果につながるのかもしれない。
「分かったわ。とにかくありったけのぶどうジュースね。」
ドリゼラがそう言うと、エレナは調理場へ、ドリゼラとカミーラはそれぞれ屋敷の中をくまなく動き回った。
何かを察したのかカサンドラが、ドリゼラやカミーラに向けて炎を吐き始めた。
「姉さん、もう少しで楽になるから我慢してね。」
カミーラはそう呟きながら、ひらりと身をかわしているのが見えた。
「私が請け負う。」
胸に突き刺さる重低音がそう言うと、怪物ジキルがカサンドラの方に向かった。
「よし、では我々はその間にもう一つ仕事だ。」
カイはそう言うと瓦礫の山の方へと向かっていった。我々と言うことは自分も頭数に入っているということなのだろうか?
とりあえずカイについていきながらも、聞きたいことが山のようにある。
「任せておいて大丈夫なのか?」
「我々はあのドラゴンの倒し方を知っていても、この屋敷のことは何も知らない。足手纏いになるだけだ。」
「それで?どういうカラクリなんだ?」
「カラクリというのは?」
なぜかカイは、一回はぐらかす癖があるようだ。
「なぜ、ぶどうジュース?」
「ああ、そっちか!」
また、カイから意味深な発言が出たが、今は一旦置いておくことにした。
「ポリフェノールだよ。」
確かにさっきその話をしていた。だがそれがなぜ解決策になるのかが分からなかった。すると、それを察したのか、カイの説明が始まった。
「彼らはメイジーによって体組織を改造されてしまっている。つまりDNA書き換えられている。それによって彼らはアドレナリンが過剰に分泌され、代謝が上がり超人的な能力を得ていた。いや、超人的な能力のおかげで代謝が活発だったのか?だから傷もすぐに治るし、力も強いし、オオカミに形態変更できた?まぁそんなところだ!」
「それが狼人間やヴァンパイアの正体・・・?」
「そう。恐らくこの事象はメイジーも想定外・・・、というより実験段階だったのだろうが、代謝が上がり超人的な力を得れば得るほど、知能が下がってしまったのだろう。それが恐らく地下にいたあのゾンビたちだろう。元は工場の作業員か何かだ。」
「でも。あの三姉妹はちゃんと自我を保っていたじゃないか。」
「そう!それがぶどうジュース。ポリフェノールのおかげというわけだ。」
再び、カサンドラの雄叫びが聞こえた。
カイは今から一体何をしようとしているのだろうか?
なんかカイだったらいつか「僕だよ!ポリフェノールだよ!」ってネタ言いそう。
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




