勝機
ドラゴンになったカサンドラが、天井に届きそうなくらいの大きな口を開けると、口の中が太陽のような光を発し始めていた。
いやな予感しかない。
「どこかに隠れるわよ!」
ドリゼㇻの掛け声で皆が何かの後ろに隠れた。しかし、カイだけは慌てることなく、その場に留まっていた。
「ちょっと、だれかあの色男どうにかしなさいよ。」
しかし、カミーラもほかの狼人間たちも行きたがらない。
「そこのお兄さん!早くこっちに来た方がいいわよ!」
カサンドラの口から熱々の炎が見え始めていた。
「そんなことをしても、今の彼女の炎だったら、全員丸焦げだな。」
カイは陽気な口調でまるで酔っ払いのように、千鳥足でがれきの上に登り始めた。
「お!ちょうどいいところにいいお酒があるじゃないかぁ!」
カイはワインの瓶を一瓶つかんだ。だんだんとカサンドラの口の炎の熱気が、こちらにも伝わってきた。
「ちょっと!それは・・・。」
「そう!君たちの救世主さ!」
カイはそう言うと、手に持っていたワインの瓶をカサンドラに投げつけ、メガホンレーザーで狙いを定めた。メガホンレーザーの青い光がワインの瓶に当たると、手榴弾のように爆発した。
カサンドラの叫び声が空気を揺らし、我々の鼓膜に襲い掛かってくる。
「効いてる!」
「でも苦しんでるわ!」
二人の妹は、心配そうに姉を見つめながら、憎悪の視線をカイに向けようとしているのが分かった。
「大丈夫!よく聞く薬は苦いっていうだろ?」
だが、カサンドラが口に含んでいた炎は、飲み込むわけにもいかず、勢いよく放たれてしまった。
「ちょっと待って!」
カイの情けない一言とともに全員が目を瞑り、灼熱の炎を全身に感じる心構えをしていた。しかし、ある一定の温度まで上がると、その先の熱を感じない。もしかして、もう死んだからなのか?目を開けたら、家族が出迎えてくれるのか?
だが実際はよくも悪くも、黒い影が迫りくる炎を受け止め、我々を守っていた。よく見ると、炎を明りに照らされ不気味な顔がこちらを見ていた。
「ジキル爺さん!」
影の正体は、あのおっさん怪物だった。
「皆さん、ご無事ですか?」
聞き慣れない若い女性の声が聞こえてきた。これの正体は、さっき矢で射抜かれた恐らくジキルの娘のエレナだった。狼人間だったころとは打って変わって、小柄で華奢な年ごろの女の子だ。髪の毛が銀髪なのは生まれつきなのか?
「無事だけど・・・。」
やはり、みなジキルのことを心配した。だが、ジキルはびくともしていない様子だった。
「早く娘を外へ逃がしてくれ!」
どうやら声帯まで大きくなったせいか、ジキルの声が、全身の骨まで震わせ、体の中から彼の声を感じた。
「そういうわけにはいかない。君たちには手伝ってもらいたい。」
ジキルはカイをにらみつけた。
「わかったわ!」
「おい!エレナ!」
またもやジキルの声が骨に響いている。重低音のせいで、若干胸が苦しい。
「ジキル爺さん、少しボリュームを抑えてくれる?これじゃあ、姉さん助けるころには、みんな難聴よ。」
「すまん、だがしかし・・・。」
ボリュームが変わらず、皆胸や耳を抑えて苦しんだ。
「分かってる。でも私、みんなを助けてからって言ったでしょ?だから、ヴァインズさんも助けないと・・・。」
エレナの言葉にジキルはやるせない表情を浮かべて、すっかり黙ってしまった。その彼の背後にいるカサンドラの叫び声は収まったが、まだ大きく呼吸が乱れている様子だ。
「で、どうしたらいいの?」
「そこが問題なんだよ!今のじゃまだ足りないんだ!」
カイのドリブルモードが始まった。
「そういえば、何で姉さんにワイン瓶なんか投げたのよ!」
ドリゼㇻは常に怒鳴っているような口調だ。
「彼女を落ち着かせるためさ。正確には彼女の身体を?」
「でも、あれじゃ逆効果じゃない?ほら、苦しんでいるわ!」
カミーラがカサンドラを指さしながら訴えた。
「恐らく急に血圧が変わったかなんかでだろう。今の彼女の皮膚はなんでも吸収してしまう。つまり、いろんな部分がいろんなものの影響を受けやすい。それが逆にチャンスなんだよ。」
「結局、どうしたらいいのよ!何をしようとしているの?」
「ドリゼラ様、落ち着いてください。」
よくエレナはこんな怖い人に物言いができるなと思った。
「ワインってことはアルコール?」
「残念ながら、その逆だ。アルコールのせいで完全に沈めることができなかった。」
「どういう事よ?」
ドリゼラの一言に、カイの顔が驚きの表情へと様変わりした。
「気づいてないのか?」
「何が?」
「君たちがなぜ血を吸うと、力を得られるのかだよ。」
「確かに、考えたこともなかったわね!」
カミーラの能天気な言葉にエレナもうなずいて賛同した。
「アドレナリンだ。」
「アドレナリン?」
「そう、アドレナリンが敏感に体が反応して、身体能力を高めたんだ。恐らくあの魔女のさじ加減で、君たちは怪物・・・いや、生物兵器にさせられていたんだ。」
血を吸うために人々を追いかけ、そして血を吸う・・・つまり、人殺しをする。確かに、そうだ。
「だから、素面の連中よりも、酒飲みの貴族の方が力の入り方が全然違ったのかー。」
カミーラの発言が少し怖かった。
カイの話はこれだけでは終わらなかった。
「だが、彼女が用いたその科学の予定では、君たちが自我を保っているのは想定外だった。」
「やっぱり、私たちも今の姉さんみたいにするつもりだったってこと?」
「だが、ならなかった。なぜなのか?僕はてっきり、このワインのポリフェノールが、アドレナリンの分泌を抑える働きをしていたと、思ったんだけどなぁ・・・。」
「じゃあ、狼人間たちは何で私たちの言うことを聞いてくれていたのよ?別にワインなんて飲んでなかったわよ?」
「確かに私が狼の時、断片的に記憶があるんですよね。でもいつも血まみれなんです。」
かなり残虐な光景を眼にしていたはずだが、あまりそこに関しては鈍感のようだ。というよりも鈍感になってしまっているのかもしれない。
「肉にもポリフェノールが多少含まれてるからな。でもそこまで多くないから、潜在意識の中にある主人のために働いていると言う自覚だけが、その結果に結びついたのかもしれないな。」
「だから、餌をあげないと言うこと聞かなかったのか!」
「じゃあ、私たちは?」
カイは考え込んだ。
「そうだ!ヴァインズさんたちは、ワインを飲んでいないじゃないですか!」
急にエレナが大きな声を出した。
全然関係ないんですけど肉とポリフェノールって単語が並ぶと高級ステーキが頭に浮かぶのは私だけでしょうか?
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




