恐怖の理由
しずか・・・。本当に静かだ。だが、頭の中を整理するにはもってこいの環境だ。とは言うものの、静かすぎて今は余計なことまで脳内イメージの中で映画のように再生され続けている。。
ちなみに今、頭の中で流れているイメージは、どういうわけかいつもよく見る夢の一部。あの例の大きな海坊主の姿だ。恐らくだが、やつのこととは全く関係ないはずなのになぜだろうか、現実のやつのうしろ姿を、海坊主と重ねている。
やつの後ろ姿はすぐに見えなくなった。危機はひとまず去ったと言っても良いだろう。今は、夢のこと以外に、考えなければいけないことだらけだ。しなければいけないことも・・・。
そして、今第一優先でしなければならないことに気がついた。視線をレジの裏に向けると、店員の彼女はさっきよりは落ち着いていたが、まだ恐怖の余韻は残っているようだ。
自分が歩く足音一つ一つが、はっきりと耳に入ってくる。レジの音に関しては、ライブ会場くらいの爆音に感じる。
すぐに彼女をレジ裏から解放してあげた。しかし、彼女はレジカウンターの下から、動こうとはしなかった。それどころかさらに奥に身体を埋め始めた。1ミリでも外に出たくないと言う気持ちが、伝わってくる。
「もう大丈夫ですから、落ち着いてください。」
彼女はまるで、痴漢でもされたかのようなまなざしでこちらを見ながら、カウンターの暗い影に顔を押し沈めた。
よっぽどこの状況になる前に恐ろしいことがあったのか、やつのせいで男性恐怖症になったのか、はたまた自分が嫌われているだけか。どちらにせよこれ以上深入りすることはできなさそうだ。
「あのー電気は?」
なぜかこちらが恐る恐る話しかけた。これ以上彼女にトラウマを植え付けられない。すると彼女は顔を埋めながら首を横に数回振った。
「分からない?」
まだ、首を横に振っている。
「停まってるってことですか?」
今度は縦に振った。
「何があったんですか?」
ここまで上手く意思疎通が出来たことで、慎重さが欠けてしまった。彼女は先ほどとは比べ物にならなくらい首を大きく横に振った。
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
必死に謝った。これは潔く何があったか聞くのは諦めたほうが良さそうだ。とはいえ、そうなるとここに長居する必要がなくなる。ここ以外にもどこかに誰かがいるかもしれない。だが、この状況だといる確率は限りなく低い。唯一確実に今人がいるのはここ以外だと、首相官邸になる。
地図アプリによると、ここからだと普段であれば、一時間もあれば着くであろう。しかし、この調子では電車やバスなどの公共交通機関に期待することはできない。となれば、今の自分が使えるものとしたら、自転車しかない。自動車の免許は持っていたが、保険だの駐車場代だの色々考えると、ペーパードライバーとして、免許証は顔写真付きの身分証としての用途さえあれば良かった。
どちらにしても、ここでうだうだしていたら、日が暮れてしまう。
「あのー」
またもや恐る恐る話しかけていた。
「今朝テレビで、首相官邸に人がいると言っていたので、助けを呼びに行こうと思うのですが・・・。」
言葉が途絶えた。この後に及んで言うことでないのは重々承知しているが、女性を誘うということに対して、戸惑ってしまった。
彼女は不思議そうにこちらを見ている気がした。
「もしよかったら一緒に行きますか?」
彼女は激しく首を横に振った。正直・・・・傷ついた。もちろん、理由は他にあるであろうが、これがもしイケメン俳優や、ハリウッドスターからの誘いだとしたら、果たして彼女は首を横に振っただろうか?
「そうですよね・・・。」
無意識に気持ちを込めてしまっていたのか、彼女も怯えながら少し気まずそうな顔をしていた。とはいえ、無理に連れて行くわけにもいかない。でも、ここに一人で残すのも心配だ。
いろいろ思考をめぐらせた結果、自分の連絡先を残すことにした。もちろん、これも抵抗はあったが、レジの横に置いてある不要のレシート入れにあった、短いレシートの裏に電話番号を書いて、それを彼女に渡した。
「もし、何かあったら、ここに連絡してください。」
彼女がそっと受け取るのを確認すると、そのあとはまっすぐに、脇目も振らずコンビニの出口へと向かった。鏡を見ていたわけではないが、恐らくドヤ顔だったに違いない。
外の静寂な景色が見えてきたところで、急激な空腹感が襲った。緊張が解けたからなのか?しかも、これからかなりの距離を自転車で進まなければならない。さらに、心なしか今日は陽射しが強い気がした。
ダサい。ダサいのは分かっているが、命の方が大事だ。
「あのーおにぎり買ってもいいですか?」
彼女は頷いていた。
「ありがとうございまーす。」
消え入りそうな声で彼女を視界に入れないように、おにぎりコーナーでシャケおにぎりと、その隣のコーナーのカニカマスティック、そして500mlの緑茶のペットボトルを持って、レジへ向かった。すると、彼女はレジの下から出て、立ち上がっていた。
謎の期待をした。
「袋に入れますね。」
彼女はそういうと、バーコードを読み取らずに、商品を袋に入れ始めた。
「お金は?」
彼女は首を横に振っていた。
「ありがとうございます。」
普通の返答をしてしまった。彼女は三つの商品を袋に入れると、持ちやすいように持ち手を捻ってまとめて渡してくれた。そして、それと一緒に何かを手渡してくれた。
「外にあるスクーターの鍵です。使ってください。」
弱々しい声でそう言うと、またレジの下に隠れてしまった。とても乗れないですとはいえず、人生初めてのスクーターデビューを飾ることになった。
だが、やはり彼女が怯えている理由は気になる。スクーターが彼女のなら、今止まっている二台の乗用車の持ち主はどこにいるのであろうか?
エンジン音を轟かせると、ヘルメットもせず彼女のスクーターを不慣れな手付きで走らせた。
昔スクーター2ケツして騒いでるのに、ちゃんとヘルメットしてる若い二人組に轢かれそうになったことがあります。ヘルメットはつけましょう!
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




