ハンター
突如中庭に響き渡った銃声はしばらくの間、夜のじめっとした空気を震わせた。
振動のせいか木々も少し騒がしい音を立てながら揺れ動いている。
すると狼人間達の尖った耳がまっすぐと上に向いたと思うと、すぐに全員同じ方向に向かって走り始めた。
一斉に奴らが動いたことで地面は大きく揺れ動いた。だが一匹だけその場に留まり、こちらを睨みつけている狼人間がいる。
まるで恨みでもあるかのような顔でこちらを見ている。
「まったく、あなたが仕事を放棄したから、全然この子だけ言う事を聞いてくれないじゃないの。」
どこからともかくカミーラの声が聞こえてきた。最初は漠然とどこかにいる感じだったが次の瞬間、背後に気配を感じた。
「ごめんね、ご飯はここよ。」
腕をカミーラにしっかり固められていた。なんという力なのか?それともただ自分がひ弱なだけなのか?全く身動きが取れない。
「まずい・・・。」
カイがまた懐に手を置いたのが見える。多分メイジーがいるせいでメガホンレーザーを使えない葛藤と戦っているのだろう。
「君、あの火の技を使いたまえ。」
「無理だって。彼にあたっちゃう。」
「違う。狼人間に向けるんだよ。」
「逆効果だよ。火を見ると狼人間は強くなるのよ。」
「そんな事聞いた事ないぞ。」
二人が言い争っている間に狼人間はこちらに飛び掛かる体制になっている。
「さぁおいで。お腹空いたでしょ?」
カミーラの呼びかけに応えるように、狼人間が走り込んできた。
迫り来る鋭い目と鋭い牙。あの牙に体を貫かれた時の痛みを想像すると、目を開けてはいられなかった。見なければ痛みも緩和されるだろう。
何かに食べられるとはどういう感覚なのだろうか?この自然界では頻繁に行われている捕食被捕食の関係。その頂点に君臨している人間は、被捕食の気持ちなんか知る由もないはずだった。
痛みを痛みと感じる間もなくあっちへ行けるのか?それとも痛みを感じながら人生の終わりを噛み締めて死んでいくのか?
もちろん、前者が良いが後者の可能性が高そうだ。
疑問の答えはあと数秒で分かるだろう。恐らくカイもメイジーも間に合わない。
だがどんなに待ってもその瞬間は来ない。どうやら前者だったようだ。意外とあっさりしている。
そんなわけはない。
恐る恐る目を開けてみると、さっきまでこちらに牙を剥いていた狼人間が目の前でのたうちまわっている。
どうやら耳を塞いでいるようだ。
すると今度は、銃声に釣られて茂みに入っていった狼人間達が、逃げるようにこちらに戻ってきた。そして目の前でのたうちまわっている狼人間も一緒に、どこかへ走り去ってしまった。
一体何があったのだろうか?ただただぼーっと狼人間たちを見送ることしかできなかった。
特にこちらにはなんの影響もない。もしかしたら、狼人間だけに起こることなのか?
しかし、ふと振り返ってみると、カミーラも同じように耳を塞いでのたうちまわっている。
「いた〜い。頭が割れそうよ〜。」
なんだかかわいそうに思えてきた。
「お姉様に言いつけてやる。」
半べそをかいたカミーラも屋敷の方へと逃げていってしまった。
「なんだったんだ・・・。」
緊張から一気に解放されて、疲労感で腰が砕けそうだ。
「カイ?」
カイは自分は何もしていない事を、全身全霊で表した。となると、再び緊張しなければいけなさそうだ。
あの屈強な狼人間達が逃げていくようなものが、あの茂みの奥にいるということだ。味方なら良いが、万が一に敵だった場合・・・。
我々は茂みの方に視線を向けた。すると、茂みが一人でにガサガサと動き始めた。どうやら向こうからこちらに出向いてくれるようだ。
茂みからうっすらと人影が見え始め、白いシャツに麻色のベストに茶色いハンチング帽を被った年配の男が現れた。
両手でライフルを持ち、首に笛のようなものをぶら下げている。きっとあれで奴らを追い払ったに違いない。
「ちょっと来てくれ。人手が欲しい。」
罠かもしれない。ひとまずカイと二人で様子を見にいくことにした。別に格好つけているわけではないのに、カイが冷やかしの表情を浮かべている。
だが警戒するにしても、カイのメガホンレーザーはもちろんこのおっさんの前で使えるわけではない。
まぁ気を抜かないようにすることくらいしかできないが。
茂みに入って間もなくして、奥で人が倒れているのが見えた。
着ている衣服はボロボロで、肩の辺りから血が出ていた。意識は朦朧としているようで、悪夢にうなされている。
「こいつを運ぶのを手伝ってくれ。」
「彼も狼人間に?」
そう言いながら、彼の肩の部分を動かした。
「違う、彼だよ。」
「彼が?」
「彼が狼人間だったんだよ。」
どうやら肩の出血は、さっきの銃声が原因のようだ。
カイがまた懐に手を運んだのが見えた。
「彼は何者なんですか?」
カイが負傷した男の足元に手をかけながら尋ねた。
「元々この男は、この屋敷の従者だったが、あの魔女に狼人間に変えられちまったのさ。」
おっさんはそういうと、行くべき方向に首を振った。どうやら、おっさんは彼を持つつもりがないようだ。
「ここの屋敷の連中は、みんな変えられちまった。だが、こいつはもう大丈夫だ。あとは適切な処置で銀の弾を取り出せばだけどな。」
恐らく、今の時代はそれが難しいのだろう。
茂みを抜けると、メイジーがいる場所にたどり着いた。その瞬間、急におっさんがメイジーの方に向かって、ライフルを構え出した。
「おいおい、おっさん。」
思わず手を離して彼を地面に落としてしまった。悪いとは思っている。だが、それよりもおっさんはなぜメイジーに銃を向けたのか?
狙いはメイジーの後ろなのか?どちらにしろおっさんの銃の腕を信用していない。
その時、背後に気配を感じた。
「くっそ。」
ひと足先に後ろを振り返ったおっさんが、銃口を背後に向け始めた。
背後にいたのは、血走った目をした狼人間だった。
「どうやら、相当虫の居どころが悪そうだぞ・・・。」
カイがつぶやいた。
狼人間はおっさんを片手で軽々と掴むと、顔の近くに運んだ。その表情はさっきの恨みがこもった、憎しみ溢れる顔をしているように見えた。
「エレナ。お前なのか?」
ただ、どうやらおっさんにはそうは見えていなかったようだ。すると、狼人間は月に向かって遠吠えをした。まるで、その声は嘆き悲しんでいるように聞こえた。
狼人間はおっさんを掴んだままどこかへ消えてしまった。
「待て!」
すかさずメイジーは狼人間を追いかけた。そのメイジーの腕をかろうじて捕まえることしかできなかった。
「彼は私の相棒なのよ。」
彼女の顔を見た瞬間、握力が急に緩んでいった。
彼女の腕が手からすり抜けていった。
屋敷の方で、再び狼の遠吠えが聞こえている。
だが、カイは満遍の笑みを浮かべている。
「ようやく、心置きなくこいつが使えるぜ。」
カイは嬉しそうに、メガホンレーザーを懐から取り出した。
このハンターのおっさんのモデルは家の近所の八百屋のおじさんです。
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




