野獣
ワインセラーから来る熱波が、顔のあたりに温かさを運んできた。
とりあえずあの地獄のような状況から、誰も欠けることなく三人とも無事に外へ脱出することができた。
外に出れたが、まだジメジメとした地下は続く。
後ろを振り返ってみたが、ドリゼラは追ってこない。
「死んだのか?」
「いや、まだ追ってくるはず。早いところ地上へ行かないと。」
最後に彼女が火に巻かれているところを見たが、かなりの勢いの火柱が彼女を包んでいたようにみえた。
彼女がたとえ不死身だったとしても復活に時間がかかるとかあるのだろうか?
「ところでさっきの火は?」
カイがメイジーに、尋問のような口調で尋ねた。
「さっきの火?ああ、あなたマッチって知ってる?」
もちろん皮肉だ。
「いやぁ、あんな火の勢いがすごいマッチは初めて見ました。まるで・・・火炎放射みたいでしたけど?」
「でも、ワインがいっぱいあったんだし、ワインに引火したんじゃないか?」
気づいたら、彼女の弁護をしている。本当に無意識だ。だが、カイはそうは思っていないようで、ふくんだような笑みをこちらに向けてきた。
「それに、あのゾンビ達からは、メタンガスのにおいがしたわ。だから、マッチに火をつけて引火させたのよ。」
「だとしても・・・。」
「助けたんだから礼ぐらい言ったらどうなの?」
カイの勢いが止まり、若干しどろもどろしている。そう、メイジーがカイを押しているのだ。あんな姿のカイを見たのは初めてだった。てか、ああなるんだ。やっぱり女ってすげー。
結局、カイの感謝の言葉は聞けることなく、我々は外を目指した。
所々に、ワインの樽やら、移動用の滑車が残されている。
「ここで作業していた人たちはどこへ行ったんだろう?」
「みんな殺されたに違いないさ。」
メイジーは険しい顔をしていた。
「だが、その割には随分と綺麗だな。」
今度はカイがつぶやいた。
確かに言われてみれば、荒らされた形跡とでもいうのか、物が散乱しているわけではなく、どちらかといえば放置されていると言うべきか?
そんな地下の通路の途中に階段があった。カイが懐に手を入れたのがわかった。多分、メガホンレーザーを出そうとしたに違いない。
「この先は葡萄畑よ。そこにモンスターハンターがいるはず。」
「もう一人いるのか?」
なんだろう?この胸を締め付ける感覚は。
「え?ええ、彼は私の仲間よ。」
彼ということは、男じゃないか!いや、別に男だろうがなんだろうが構わないではないか。むしろ戦力がまた一人増え、戦いが有利になる・・・。
良いことだ!良いことだ!
メイジーは、足早に階段を駆け上がった。
メイジーのすぐ後ろについて行こうとした時、カイに行手を阻まれた。
「今度僕が懐に手を入れたら、君は彼女にキスしろ。」
メガホンレーザーなしの調査は、カイにとってかなりのストレスのようだ。
「うるさいなぁ・・・。」
また行手を阻まれた。
「それと彼女にのぼせるのはいいが、あまり入れ込むなよ。」
「なぜ?あの子に似てるからか?もしかしたら先祖かもしれないじゃないか。」
そういえば、そもそもカイもあの子に似ていると思っているのだろうか?もしかしたらそう思っているのは自分だけなのかもしれない。
「ああ、確かにこの時代に日本人の女性がいたかもしれない。それは否定できない。」
どうやら、カイもちゃんとコンビニ店員の彼女の顔に見えているようだ。
「だったら何を警戒するんだ?スポーツ年間を盗むとか?」
カイに今の皮肉は理解出来なかった。
「この時代にそもそもモンスターハンターなんていないっことだよ。」
思っていたところとは違う位置から飛んできた弾丸のような真実だ。
「でもバチカンから派遣されたって・・・。」
「この時代にバチカンが、アジア人の女性を雇うとは思えない。たとえあの子の先祖だったとしてもな。」
確かにそれはそうだ。だとしたら・・・。
ああ見えて、実は男なのか?確かに少し男勝りな一面もあったが・・・。
「とにかく、彼女は何か隠してる。用心しろよ。」
それよりも、今カイは彼女と言った。それはただ単にそう言っているだけなのか、それともメガホンレーザーか何かで調べた結果、女だったから彼女と言ったのか?そっちの方が気になってしまった。
「早くしないと、ベルをガストンに取られちゃうぞ野獣。」
「妨害してきたのはそっちでしょうよ。」
気づいたらカイがさきに階段を登ってしまった。登り切ると土と葉の香りが一気に外へ出た事を実感させてくれる。
さっきまでジメジメとした地下に居たせいか、空気がおいしい。
屋敷に囲まれた葡萄畑は、葡萄の苗木が規則正しく並べられている。見る限りつい最近まで手入れが施されていたようだ。
彼女らはまだワインの製造をしているのだろうか?
その時、苗木が微かに音を立てた。明らかに何かが近くを通った音だ。
「まだ気を抜けないみたいね。」
葉と葉の間から黄色い丸が二つ見えた。心臓が逃げ出そうと、胸を小刻みに叩いているのがわかる。
すると、黄色い二つの丸の中に、黒い点がこちらを向いた。
本当に恐怖を感じると、人は声が出なくなるのは真実のようだ。
そして黄色い丸は、だんだん上へ浮かんでいく。時々、血のにおいが混じった獣臭がする生暖かい風が顔に吹きつけてくる。
黄色い丸が、苗木の上に到達した時、月明かりに照らされその姿が明らかになった。
目の前にいる狼人間は、鋭い牙を剥き出しにしながら、こちらを睨みつけている。
想像を超えるデカさに、後ろにたじろいでしまった。
「狼人間だ・・・。」
「見りゃ分かるよ。」
だが、カイが見ているのは、別の狼人間だった。
「囲まれたわ。」
どうやら今度は狼人間から逃げなければならなくなってしまった。
「おい、またマッチで曲芸を見せてくれよ。」
「何を言ってるの?正気?」
だが、確かにあの技をもう一度使えるのなら、今がその時だと思う。
その時、遠くから銃声が聞こえた。この音は果たして、我々の救いの音なのか?
実際の狼の口って臭いのでしょうか?それを確かめる勇気はありません。
評価、ブックマーク等もしていただけるとかなり嬉しいです!
よろしくお願いします。
感想も待ってます。




