面影
目をとれるのではないかと思うほど、何度も擦ったし、目を瞑ったり開けたりも何度も繰り返した。だが、それでも自分の目に映っているメイジーは、あのコンビニ店員の彼女の顔のままだった。
コンビニ店員の彼女は、目鼻立ちの整った綺麗な顔をしてはいたが、誰が見ても彼女が日本人だと疑わない顔立ちだった。これは、十九世紀ヨーロッパのこの辺りの地域において、出会うことがない顔立ちをしているのだ。
もしかしたら、カイがメガホンレーザーで何かしているのか?
「見ない顔だけど、この辺りの人間ではないな。」
その言葉、そっくりそのまま返したいものだ。こちらも何ヶ月も潜入している。その間一度たりとも、アジア人顔の人間は見たことがなかった。
「まぁ、そんなところだ。」
カイは適当に返した。
「あなたたちもモンスターハンターなの?」
「なぜ?」
カイが何か探りを入れているようだ。こういうときは、余計なことを言わないに尽きる。だが、メイジーはカイと目を合わせることはなく、むしろこちらをずっと見てくる。まるで、「あなたに質問をしています。」と言わんばかりの表情だ。
正直、恥ずかしい。
メイジーはカイの質問をこちらを見ながら答えた。
「それはもちらん銀の矢を見て、自分たちを銀以外で傷つけられることを証明しようとしたからよ?そんな知識、銀の第一人者を名乗るような学者ですら、知らないことよ?」
全部自分に向けて答えている。
昔から知らない人に話しかけられると、人見知りのコミュ障のくせに無視できずに会話を試みて、墓穴を掘って恥ずかしい思いをしてきている。
今もメイジーの質問になんて答えて良いのかも分かっていないのに答えてしまいそうだった。
「いや、残念ながら、君の推理はハズレだ。僕はパーティーに招待された客で、彼はただのウェイターだ。」
カイが代わりに答えた。それに頷くことで、答えなければいけないという脅迫感情を抑えられた。
「なるほど。」
なんとも言えない返事が返ってきた。
「君こそ、モンスターハンターさんがこんなところで何しているのさ。ワインにでも溺れちまったのか?」
メイジーがカイを睨みつけた。初めて会話中にメイジーがカイを見た瞬間かもしれない。
「奴らが手強くて・・・。ヘマをしてここに捕まったのよ。」
「なるほど。」
カイも、なんとも言えない返事で返した。
「それで、あんたたちはなんの用でここへ来たわけ?あの三姉妹の美貌にまんまと引っかかって、ひょこひょこ食べられに来たの?」
メイジーはワインセラーの壁をじろじろと見ている。まるで何かを探しているようなそぶりに見える。
「いや、実はこの辺りに魔女がいるっていう噂があってね。」
「あの三姉妹がそうだと?」
「いや?疑いをかけているのは、カサンドラ・ヴァインズだけだ。」
カイも何かを探している様子だった。それはメイジーに影響されてのことなのか?それとも、カイ自身の意思なのか?それは果たして、お互いに共通しているものなのか?
だがやはり、彼女の素性がどうしても気になる。気がついたら、彼女への探究心がくすぐられていた。
とりあえず、質問できるタイミングを待つことにしよう。
二人の腹を探り合うような会話はまだまだ続いた。
「だが、残念ながら彼女も、彼女の妹たちも魔女ではなかったわね。」
「ああ、彼女ではなかったな。」
「それで、あなたはなぜ私をじろじろと見ているの?何かついてる?」
メイジーは自分の髪を気にし始めた。
それの対して急に会話の弾が再びこちらに飛んできたことで、しどろもどろとコミュ障全開な反応をしてしまった。
「いっいや?何だろう?」
急ピッチで何を知りたいか頭の中で整理した。
素性という言葉は抽象的だ。その言葉の中にいろんな意味が含まれている。だが、急に「あなたの素性を知りたい」と言ったところで、彼女もなんて答えて良いかわからないし、そもそも気持ち悪い質問だ。
「出身は?」
結局気持ち悪い質問をした。
「北の方だけど?」
普通に答えてくれた。
「それで?」
「ん?」
「君は?私は答えたんだから、今度は君の番。」
そう来るとは予想していなかった。そもそも、返答なんて考えていない。だが、これで即答できないとなると、ますます怪しい。
出身は東北だ。でも東北なんて言えない。
「北の方。」
「え?君も?北のどの辺?君のこと見たことないけどなぁ?」
そうだった・・・。彼女の返答を聞いていなかったのが、致命的なミスを誘発した。
でも、もし彼女が自分と同じ理由でそう言っていたとしたら?
それに見たことがないということは、やはりあのコンビニ店員とは違う人物なのか?
「そっか、でも君ここのウェイターってことは、つい最近まで刑務所にいたってことだもんね。」
とりあえずうなずいて事なきを得た・・・と思う。
なんか茶化された。だがなぜだろう?嫌な気持ちはしない。カイはこちらを見て、メイジーを指さしながらにやにやしている。
「違うよ!」
思わず声に出てしまった。
「何が?」
「何って?」
「何が違うの?」
こちらに問いかけているのに、なぜか彼女はカイを睨みつけた。
「なんでもない!あ・・・え・・・そういえば何を探してるの?」
恥ずかしすぎて自分を殺したくなる。
「出口、だってここを出たいでしょ?確かこの辺りにワインの輸送に使ってた出入口があるはずなのよ。」
誤魔化せたのか?それとも彼女の優しさなのか、普通に返答が返ってきた。
「ほかにも出入口があるのか?」
カイの表情が急に引きつり始めた。
「ええ。ヴァインズ家は海外との交易ネットワークが太かったみたいだしね。」
カイの凍りついた表情を見て、メイジーの表情も伝染した。
「もしかしてなんだけどあんたたち、この部屋に入ったところを、誰かに見られてないよね?」
「いや・・・その・・・。」
「ばっちり見られました。」
隠そうとした自分とは打って変わって、カイは潔く正直に答えた。
「は?」
「みーつけた。」
メイジーの怒った声と、ドリゼラの嬉しそうな声はほぼ同時に聞こえた。
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




