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ミスター・ブルーズ 〜目覚めたら誰もいなかった〜  作者: マフィン
美女と野獣とモンスターハンター

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ヴァインズ家

 ドリゼラの黄色くて真ん中の縦に長い黒目が、まるで獲物を狙う蛇のように我々を見ている。


 「この部屋に何かようかしら?子羊ちゃん?」


 上の犬歯はまだ普通だった。


 「あら、あんたいい男じゃない。」


 カイを一目見たドリゼラの目が、蛇から虎に変わったような気がする。


 「人は見た目で判断しないほうがいいと思うよ。」


 「だが、残念ながら、人は見た目に翻弄されるものよ。」


 「ということは君はその見た目に反して、中身は聖人ってことかい?」


 カイの言葉にドリゼラは不敵な笑みを浮かべる。カイはゆっくりと後ろに下がり、銀装飾の扉から距離を取った。


 「だが、君の本当の姿は・・・、コウモリだ!」


 カイはメガホンレーザーをドリゼラに向けた。ドロゼラは奇声を上げながら耳を塞ぎ苦しみ始めた。


 「今だ。」


 銀装飾の扉は引き戸だった。


 「くそ!覚えてなさいドブネズミどもめ。絶対この屋敷から生きて帰さないからね!」


 ドリゼラの悪態がドアの外から聞こえてきた。今までの出来事の中で一番怖い出来事だったかもしれない。


 「うっわ!口臭いババアだぜ。」


 カイの暴言の知能指数の低さに驚いた。


 「なんで入ってこないんだ?」


 「銀に弱いとかか?ああいう類って大体銀に弱いだろ?」


 まさかの当てずっぽうだった。


 「あの混乱の中、咄嗟に?」


 「いや?下見してたからな。まぁ実際にはトイレを探してたんだけど。」


 いつものような軽い口調で、辺りを見回していた。


 「じゃあ、ワンチャン入って来たかもしれないってことか?」


 「人聞き悪いなぁ!ちゃんと確信あっての行動だって!そもそも銀はダイナー星の物質だからなぁ。」


 またもや初耳情報だ。本当にこの世界のことなんてこれっぽっちも分かっていないのかもしれない。


 「入ってこなかった時点で、奴らが地球外の何かであることはほぼ確実だろう。問題はなぜ自分の根城に弱点なんかを置くのかってことだ。」


 「元から、あったとか?それか、これを作った時はまだ自分たちの弱点が銀とは知らなかったか?」


 そうとしか考えられない。


 「それか、弱点が銀ではなく、この部屋にある他の何かなのか?」


 カイは部屋を物色し始めた。そもそもこの部屋は一体なんの部屋なのだろうか?大それたことができるほど、そこまで広くない部屋だ。真ん中にテーブルと椅子が三つ置かれている。この上流階級の屋敷には似合わない、一般家庭の食卓のようだ。


 そして部屋の四隅には、大きめの樽が置かれその上にはワインのボトルがあった。


 「ワインセラーか何かか?」


 正直、アルコールは苦手だ。一口ビールを飲んだだけで顔を真っ赤にして倒れてしまう、母親の遺伝子を継いだというのもあるが、そもそも味があまり好きではない。それはワインも同じで、あの鼻が焼けるような感じが得意ではない。


 「そんなに汚くないんだな。」


 カイが部屋中に溜まっている埃を指ですくいあげながらつぶやいた。


 ワインセラーの近くの縁を人差し指で一拭きしてみる。人差し指についた埃はうっすらと指紋を浮かび上がらせた。


 「でも綺麗ってほどでもないな。」


 「ああ、だがこの汚れはせいぜい一ヶ月二ヶ月掃除してないくらいだろう。」


 カイは、部屋のあちこちを舐め回すように眺めている。


 「つまり何が言いたいわけ?」


 「ここはつい二ヶ月前まで、少なくとも誰かの出入りがあったということだ。掃除をする誰か。」


 「そういえば使用人とかもいないけど、ヴァンパイアならそんなの要らないのか?それとも食っちまったのか・・・。あのウェイター達みたいに。」


 「確かに、刑務所に服役していた人間を好んで雇っていたみたいだし、その辺りも気になるなぁ。」


 自分が刑務所にぶち込まれた理由が今わかった。


 カイは何かを探している。恐らく、ここからの脱出口なのだろう。メガホンレーザーの光を適宜当てたり、軽く壁を叩いている。


 すると突然、ムクっとカイが顔を上げた。


 「やっぱり、どうも何かが引っ掛かる。なぜ妹達は姉を売ったんだ?」


 「どういうこと?」


 カイは何かを考えていると、大きな独り言を話続ける。まるで、サッカーでボールを持ち続けて一人でシュートをしてゴールを決めるかのように、結論を出すのだ。僕は、カイのドリブル発作と呼んでいる。


 こちらの役目としては、彼に迫る解読不能な既成事実という名の相手選手をクリアのするために、こちらの疑問を口にすることだ。正直この役割は得意な方だ。


 「あの姉妹達を見ただろ?」


 確かに彼女らはカサンドラに虐げられている印象はない。むしろお互いを信頼しているように見えた。


 「売っていないのかも?」


 「僕は正直、彼女は妹達を殺したと思っていた。だが、それも考えずらい。だが、売っていない、殺してもいないとなれば、なぜ妹たちは、あの能力を使って彼女を助けなかったんだ?」


 狼人間を操っていたのも恐らく彼女の誰かだろう。だとすれば、なおさらたかが人間ごときに負けるわけがないはずだ。


 「まぁ考えたところで仕方がない。彼女達の問題なのかもしれないしな。」


 カイはそう言うが、気になり始めたら頭から離れない性格なのだろう。真ん中にある椅子に座りながら、まだ何かを考えているようだ。

 

 「でもそれを知りたい?」


 「当たり前だろ!だって怪しい部分しかないのに、何も分かってないんだぞ!」


 時々カイは、感情を爆発させる時がある。その時は大抵見守っていればいつかは収まる。


 カイは、追い詰められた犯罪者のようにこちらに訴えかけて来た。


 「彼女らは普通なんだよ!何世紀もずっと生きているわけじゃない。半世紀前にここにいたのは、

エドワード・ヴァインズ。同じくワインをつくってた。さらに半世紀前は、ここには何にもなかったんだ!」


 カイが両手を広げながら、軽く半周している。


 多分それは工場で働いていたときに得た情報だろう。確かにヴァインズ家に関しては、良くも悪くも全くおかしな噂は何もなかった。


 本当に、ただただ事実が一人歩きしている。それよりもそもそも、我々がこの事件を追う理由はちゃんとあるのだろうか?


 「あーわかんねぇ。」


 カイが癇癪を起こしながらテーブルの辺りをジタバタと動かし始めた。その瞬間、何かのカラクリが作動したかのような、歯車と歯車が合わさり動き出したような音が聞こえて来た。


 「おう!こりゃまた偶然だ。」


 ワインセラーの一つがカラクリ扉になっていたようで、気がついたら地下へと続く石造の階段が、目の前に現れた。


 「背中痒くないか?」


 もちろん痒くはない。だが確かに背中のあざに初めてかゆみが起きた時と、どこか既視感を感じた。

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