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ミスター・ブルーズ 〜目覚めたら誰もいなかった〜  作者: マフィン
美女と野獣とモンスターハンター

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狼人間

 いよいよ「催し」とやらが始まった。各窓にはなぜかウェイターたちが、なんともいえない面持ちで立たされている。


 これには何か目的があるのだろうか?そんな疑問を抱きながら、自分自身も立っている。


 パーティー会場は照明が薄暗く、逆に窓から差し込まれる月明かりのおかげで、雰囲気満点の状況に客人たちの期待の笑みがうっすらと見える。


 三姉妹もその反応に満足げな笑みをこぼしている。どうやら思惑通りに事が運んでいるようだ。


 手に汗が吹き出しているのがわかった。緊張しているに違いない。それとは裏腹に反対側にいるウェイターたちは、退屈そうな表情を浮かべている。


 もしかしたら、自分たちは高貴な催しには相応しくないから、爪弾きにされたとでも思っているのかもしれない。


 「この時間は、月が一番美しく輝き、私たちにパワーをくれる時間なのです。」


 カミーラは月を崇拝しているのだろうか?またしても虚な視線を窓越しに輝く月へ送っていた。


 それを他の姉妹は嬉しそうに見つめている。末っ子の楽しそうな表情をなんとも微笑ましく見守っているように映っている。


 カミーラはさらに続けた。


 「こんなに魅惑的な夜なのですから、せっかくですし怪談話でもして楽しみませんか?」


 今の提案にどんなつながりがあったのかは知らないが、客人たちは満更でもない反応を示した。


 まぁ確かにこの人たちは、日常の刺激が足りない人種なのだろう。だから、人の粗探ししかできないのだ。


 三姉妹はその反応を見て、さらに満足げな笑みをこぼしている。だんだんと、嫌な予感が募っていく。


 やはりこの窓のそばに立つべきではないのか?カイの様子を見たが、あまり動きはない。


 その時、やはり窓の外で何かが動いているのを感じた。気のせいではないのか?それとも、さっきより恐怖心が増していることによる錯覚現象なのか?


 周りのウェイターたちは相変わらず退屈そうだ。


 「素晴らしいですわ皆さん。」


 カミーラは無邪気な笑顔で喜んでいる。それを客人の紳士たちは嬉しそうに眺めている。


 「では、早速私が父からよく聞かされていた、お話を皆さんに披露しますね。」


 カミーラは軽く咳払いをした。すると、シャンデリアの灯りは完全に落ちた。真っ暗な中、カミーラの声が会場中に響き渡った。


 「皆さんは、この土地に伝わる狼人間の伝説をご存知ですか?」


 純粋な語りはじめに、客人たちは笑みをこぼした。恐らく子供に聞かせるお伽話なのだろう。それを怪談話として、大人の社交界で披露するその純真無垢な姿に、紳士たちは完全に心を奪われている。


 カミーラの純粋な語りは、さらに続いた。


 「満月の夜になると、どんなに毎晩祈りを捧げているような聖人だったとしても、内なる獣が呼び覚まされ、狼に変身してしまうのです。」


 狼人間の伝説はかなり有名で、誰でも知っている話だろう。本当に昔からその言い伝えがあったことに少し驚いた。


 正直今日まで、現代の映画の脚本が、あたかも昔からの伝説として語り継がれてきたものとして、作り上げたものだと思っていた。


 「実は、この話に続きがあることを皆さんはご存知ですか?」


 カミーラが客人に問いかけた。客人たちは、目新しい情報が得られるのではと、期待の眼差しをカミーラに向けた。


 ふとウェイター達を見てみても、一人を除いて全員が聞き耳を立てているのが分かる。


 カミーラはその期待に堂々と応えようとしていた。


 「狼人間は意味もなく虐殺を行為をしていると思っていませんか?ですが、実は彼らにも人を襲う目的があるのです。」


 初めて聞く内容だ。むしろ狼人間の恐怖というのは、普段は普通の人間だったのが、狼人間になってしまうと制御が効かず、愛する人も分け隔てなく殺戮をしてしまうというところにあると思っている。


 「猟犬は獲物を見つけたら、主人に知らせますよね?それは獣と化した狼人間も同じなのです。」


 窓の外が騒がしく感じる。


 「彼らも主人に仕える身なのです。まぁ、本人達はそう思っていないかもしれませんが。」


 話が少し不穏になってきた。これは演出なのか?客人達の顔からも笑顔が少しずつ消えている。


 「彼らは、主人のために獲物を探す。そして見つければ、遠吠えで主人に知らせるのです。」


 いろいろとツッコミたいところだったが、突如鳴り響いた狼の遠吠えにそれどころではなくなってしまった。


 「どうやら今宵も獲物を見つけ、主人に知らせているのでしょうか?」


 どうやら聞こえているのは自分だけではないようだ。現代なら素晴らしいサウンドシステムだとかなんとか理由をつけて、恐怖から目を逸らすだろう。


 しかし、残念ながら現代ではない。この声は本物以外に考えるのは困難だ。


 客人達は何を考えているのか?これを果たして演出だと思っているのだろうか?


 その時、今いる場所とは反対側から悲鳴が聞こえた。太く情けない男の声だ。


 反対側の窓のそばに立っていた船乗りの二人のうちの一人だ。


 この時代のあんな屈強な男が、とんでもなく情けない声を出したからには、相当な恐怖に見舞われたに違いない。


 しかし、客人達は声のする方に視線を送っているにもかかわらず、なんの反応もせずすぐに三姉妹の方に視線を戻した。


 そして、カミーラは構わず話をし続けている。


 「復讐に駆られた主人の声は、獣の魂に響き渡る。彼らの目的は復讐を果たすこと。そのため今宵も血を流す。」


 なんだか背後が騒がしい気がする。すると、カイがこちらに近づいて何かしているのが見えた。


 カイはこちらに人差し指を向けると、そのまま下に向けた。


 下に降りろという事なのだろうか?だが、ここから一階に飛び降りるとなると、無事では済まなそうだ。


 なら、そのリスクを負うに相応しい理由が欲しいものだが、カミーラの口上に他の二人も参加し始めた事で、カイの表情に余裕の文字が消えていった。


 危険を犯して飛び降りるに相応しい理由を得た。


 「我が家に集いし子羊達よ。我らの血肉となり、我らの復讐を助けたまえ。」


 その言葉を全て聞く前に、目の前の柵を飛び越え、そのまま一階へと飛び降りた。


 客人達も不穏な空気にたじろいでいる。


 地面がどんどんこちらに近づいてくる。その間にガラスが割れる音、客人達の悲鳴、狼の遠吠え、そして女性の高笑いが、鼓膜を震わせていた。

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