ヒーロー
薄暗いコンビニ。視界は不良。そんな状況下で正体不明の男と対峙している。しかも、唯一頼れるとしても完全に怯えきっている人間だけだ。
つまりこの状況を打破出来るのは自分しかいない。
そう思えば思うほど、膝から崩れ落ちそうなくらい、恐怖と緊張が押し寄せてきた。そう、夢の中に出てきた海坊主のようだ。
「なにしてんだって言われてもなぁ・・・。」
やつの軽い口調にイライラした。
「これはあんたがやったんだろ?」
彼女の腕を縛るロープを指差した。
「そりゃ、俺だってこんなことしたくはなかったけど、なんせ暴れるし大声あげるしで大変だったんだよ。」
「そりゃあんたがなんかしようとしたからだろ?」
「いや?ただ・・・。」
やつは発言をしぶった。すかさず問い詰めた。
「身体を調べようとはした。」
「はぁ?」
正直彼女とは昨日レジ打ちされた客と店員の関係だ。だが、なぜか身内が何かされたかのように、腹の底から込み上げてくる怒りの感情で大声が出た。
「いや、でもそりゃこっちだって仕事で・・・。」
やつも少したじろいでいた。もしかしたら、案外大声で押し切れるかもしれない。そう思うと、体が勝手にやつに向かって歩き始めた。
「おうおう、それはやめておこうぜ!」
気づいたらやつの胸ぐらを両手で掴み上げていた。
「お前、絶対こういうの慣れてないだろ?」
やつの言う通り、喧嘩なんて一度もしたことなんてなかった。それに小さい頃から男の子によくある戦いごっこみたいな遊びもしないまま大人になった。
だが、喧嘩ができないからと言って引き下がるわけにはいかない。というか慣れていなさすぎて、ここからどうしていいか分からないというのもある。
「わかった、わかった。」
やつは手のひらを向け、降参の合図を向けた。
「この娘のことは調べないよ。だから降ろしてくれ。」
どうやら、面目は保たれたようだ。なぜだか分からないが、とにかく危機は去ったと思いながら、やつを胸ぐらから両腕を撤退させた。
「ありがと。」
やつは襟元を整えながら、ジャケットの内ポケットに手を入れた。
「その代わりに君の身体を調べることにするよ。ヒーローさん。」
ため息混じりにそう言うと、ポケットから出てきたやつの手にはおかしな装置が握られていた。
全体的に銀色のメガホンのように、先端に向けて大きく広がるような形をしており、ところどころが青く光っている。その先端部分をやつはこちらに向けていた。
正直言うと逃げたい。なんなら逃げることは容易だ。だが、体が動かない。怖いからなのか?確かに恐怖を感じる。あの装置の先端からは何が出てくるのか?レーザー?だとしたら痛いのか?痛いならどれだけの時間その痛みに耐えなければいけないのか?その痛みに耐えた先に、何が分かるのか?
やつの指が装置の引き金のような部分に伸びても、やはり足は動かなかった。動かしたくなかったのかもしれない。
「大丈夫、すぐ終わるから。」
やつがそういうと、先端から青い光がこちらに向かって、まるで体を包み込む牢獄のように伸びてきた。思わず目をつむりながら、声を上げた。
しばらくすると、やつの装置から音がした。電子レンジの温め終わりの音と少し近い感じがした。
終わったのか?
目をつむっているせいで、周りの状況が分からない。だが確かに、瞼の外は先ほどより暗くなった気がした。
とりあえずゆっくりと目を開けることにした。瞼を震わせながら目を開けると、やつの持っている装置の液晶から発せられてる青い光で、ぼんやりと装置を眺めているやつと、不思議そうな表情でこちらを見ている店員の彼女がいた。
「大げさな奴だなぁ・・・。」
間違いなくやつはそうつぶやいた。確かに声を上げていたのは事実。でも・・・。
あれ?
確かに大げさだったかもしれない。なんとも情けないポーズをとっている自分を見て、さっきの装置からレーザーが出て、自分の存在を丸ごと消してほしいと思った。そして何よりも、彼女がこの暗闇で今のポーズが見えていなかったことを、心底願った。
「それで、何か分かったのかよ。」
恥ずかしさを紛らわすために、とりあえず身なりを整えた。
「ああ、君たちがなぜここに移動させられたのかは分かった。」
やつの頬から笑みがこぼれていた。
「だが、いったい君たちをどうするつもりなんだ。見つけるだけなら、そんなに時間はかからないはずなのに・・・。なぜだ?なぜ奴らは今・・・。」
やつは一人で何かを言いながら、コンビニの外を眺めた。
「なるほど、そういうことか?いや、待てよ。だとしたら、なぜここまでのことをしたんだ?」
「ちょっと待ってくれよ。どういうことか説明してくれよ。」
やつの自分自身との会話に割って入った。
「君には関係ないことだ。さっさとガールフレンドとおうちに帰りなさい。」
「関係ないことないだろ。あんな装置をこっちに向けておいて。」
「ああ、そうだな。ご協力に感謝する。君のおかげで真相に一歩近づいたよ。それじゃ、ごきげんよう。」
そういうと、やつはコンビニの出口へと向かった。
「念のため警告しておくが・・・。」
急に足を止めた。もう体の半分はコンビニから出ている。
「あの首相は何か隠してるぞ。」
明らかに口調が変わった。だがそれ以上何も言わずに、今度こそ奴はコンビニを去った。
本当になんだったんだ?
あれ?総理大臣の話ってやつにしたのかなぁ?
ガールフレンドじゃない人をガールフレンドって言われると意識しちゃいますよね。それで私は二組のカップルをくっつけたデリカシー無し男です。
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




