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ミスター・ブルーズ   作者: マフィン
地球と日本と総理大臣
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そして誰も・・・

 「有事の際、我が国や同盟国の軍事力だけではこの国を守り切ることができない。」


 守れない?守る気がない?

  

 「その有事の際とは具体的にどういったものを指すのでしょうか?」


 戦争?侵略?核攻撃?

  

 「いつ起こるか分かりませんが、わずかな可能性でも起こるのであれば、それに備えるのが国防だと考えております。」 

 

 いつかは分からないけど何かが起こる?


 「君にも同じようなあざがあるね。それはいつから?」


 あんたは一体何者なんだ?なぜあざのことを知ってる?


この言葉は誰かに届いているのか?


 聞こえてくる声がだんだんと、鮮明になってくる。ぼんやり浮かんでいた、あのサングラスの外国人も次第に姿が見えなくなり、辺りに薄い光が広がり始めた。


 どうやらテレビをつけたまま寝てしまったようだ。そのせいでいつもとは違う夢を見たが、今日の目覚めも絶不調だ。部屋に差し込む朝日は、誰もがうらやむ日当たりがいい部屋を存分に発揮してくれている。すぐにレースのカーテンを閉めて、ようやく部屋のほかの部分を見る余裕が出た。


 テレビにはまだ、総理大臣が映っていた。もしかしたら、テレビに焼き付いてしまっているのではないかとも思えるくらい、昨日と全く同じ画面だ。


 とりあえず、まだ下まぶたに引っ付こうとしている上まぶたを引き離すために、冷えっ冷えの冷水を顔にぶっかける。すると一気に脳、目、筋肉が再起動されたような気分になる。


 朝ごはんはもちろん食べない。食べている時間も

睡眠時間に充てたい人種である。


 それにしても今日はやけに外が静かだ。いつもは通学中の小学生やら、朝から爆音を轟かせながら失踪するランボルギーニ、ごみ収集車の後ろの部分から出る無駄にでかいなんかの音などなど。普段は気にもしない雑音だが、無きゃ無いでかなり違和感だった。


 まさか!


 急いで時計を見た。しかし、嫌な予感は的中していなかった。時計はいつも起きなければいけない時間、8時30分を12分ほど過ぎた時を刻んでいる。まぁ考えようによっては不吉な分数であるが、朝のルーティン的にはかすり傷だ。


 だとしたら・・・。まぁいっか!


 なおさらこの静けさは違和感だが、そんなことを考えている余裕はなかった。なにせ、12分寝坊している事実は変わらない。


 歯を磨く、服を着る、家を出る、忘れ物をとりに戻る、玄関で靴を履く、テレビの消し忘れに気づく。そろそろこの無駄な時間を削減したいところだ。靴の裏がフローリングを傷つける音を響かせながら、テレビを消しに行った。どうやら総理大臣は、うちのテレビに住んでいるようだ。


 「はいはい、行ってきます。」


 テレビに向かってリモコンを向けた時、恐らくだが、テレビに住んでる総理大臣が、あろうことかこちらに話しかけてきた。


 「もし、誰かいるなら聞いてください。」


 いま、彼は自分に話しかけてきたのか?確かによく観ると、明らかにニュース番組ではなかった。場所はニュース番組とかでよく見たことがある、永田町のどこか政治に由来する場所に違いなかったが、雰囲気が違う。

 

 「日暮までに首相官邸の正面玄関まで来てください。私はそこで生存者を待ちたいと思います。」


 生存者?首相官邸までは電車で大体1時間もあれば着くが、それ以上に気になるワードが耳に残った。 


 「大丈夫です。あなたは一人ではありません。」


 42歳の若手首相のまっすぐな視線は、画面越しでも、ことの重大さを物語っていた。


 「私もそう信じて、ここで待ちます。」


 首相がそういうと、テレビ画面はカラフルな色の画面に切り替わり、目の網膜を激しく刺激した。


 すぐにテレビを消したが、目にまだ少しカラフルな色が残った。


 どんな状況なのか分からないまま、とりあえず外の様子を見ることにした。軽く服を着替え、履き古した靴の踵を踏みながら、玄関のドアを開けた。


 目がまだ慣れていないのか、眩しすぎてすぐには外の様子が分からない。わずかに目を開け、まぶたを小刻みに動かしながら目を慣らすと、ようやく外の様子が目に入ってきた。


 静かだ。静かすぎる。


 今耳に入ってくるのは、風の音と自分が動くたびに響く足音や、服の繊維が擦れる音だけだった。


 住んでいるアパートから飛び出す。パッと見た感じは、そこまで変わった感じはしない。車は走ってはいないが、いつものようにアパートの専用駐車場には、動いているところを見たことがない軽自動車が停めてあるし、駐輪場もいつもと同じように空いている場所と自転車が停められている場所とまちまちだ。


 だが、いかんせん人の姿がない。通学中の小学生、疲れきったサラリーマン、隣のパチンコ屋の開店を待つ中年女性、猫に餌をやる髭もじゃのおっさんの姿さえなかった。


 「え・・・。」


 こういう時に気の利いたジョークを言える人って本当にすごいと思う。強いて言えるとすれば「いつもより空気がおいしく感じる」とかくらいか?


 いつもはパチンコ屋の前に灰皿があるせいで、毎日副流煙を摂取しながら通勤する必要があるが、今日はその必要はなさそうだ。


 というより、そもそも今日仕事あるのか?


 本当に俺しかいないのか?総理大臣はテレビで複数人に語りかけていた。ということは他に誰かいるのか?


 その時、微かだが何かの音が聞こえた。些細な音でも今はかなり響いて聞こえるようだ。


 「あれ?昨日の外国人か?」


 その人影は足早に、移動していた。気づいたらそのまま、その人影を追いかけていた。

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