決断
「さぁ、僕らのするべきことをしよう!」
カイはどこか肩の荷が降りたように、清々しい顔をしていた。
「ちょっと待ってくれ、どういうことか説明してくれよ。」
「したところで理解できないだろ?」
確かにその通りだが、少なくとも人が一人拉致されている可能性が高いのに、それを差し置いて別のことを優先する為の説明は欲しい。
「まぁとにかく、強奪か回収かは回収っていう決断は出せた。だが、どちらにしてもこの地球にとって、このままタガニウムを取られるわけにはいかない。奴らが動き出している以上、僕らも動きださないことには、この星を守れないと思わないかい?」
カイの口調からも一刻を争う事態なのは伝わってきた。しかし、こればかりは譲ることができない。
「奴らがなぜ、危害を加えないと言い切れるんだ?だって地球を軽視しているような連中だろ?だったら、タガニウムを見つけたら、その場で殺される可能性だったあるだろ?」
「いーや!僕は奴らとの付き合いは長い。あまり知識量や知能が高いとは言えないが、他の種の命を奪うような奴は、宇宙じゃなかなかいないもんだ。」
「そうなのか?」
カニカマは興味津々だった。
「ああ、この星と命の考え方が違うんだ。」
遠回しに侮辱されてる?
「それにカテリエルといって、非常に頑丈だが希少な物質がこの宇宙に存在していて、それを使用できるの奴らしかない。奴らはこの宇宙の・・・いや、銀河の秩序を管理している。だから、その星に干渉するような行為や、命を奪うような行為は絶対にしない。こちらから攻撃さえしなければな。」
「本当に、その話を信用していいんだな?」
実は、今のカイの話が難しすぎて、これ以上聞いたところで無駄だと思った。悔しいがカイの言う通り、理解ができない。
カイは、話をしながらも色々とタガニウム捜索の準備を進め、狭いワンボックスカーの中を行ったり来たりしている。
「そんなこと嘘ついても仕方がないじゃないか!」
「そりゃ・・・。」
「僕が第三勢力と言いたいんだろ?もういい加減にしてくれ!しつこいぞ!」
さすがのカイも声を荒げた。大人になってから、人に怒鳴られた経験がない自分からすると、かなり動揺する瞬間だった。
「わかった!そこまで言うなら、あとは君たちに任せるよ。ただ、あの留守電の時間を考えても、残り数分で奴らはこの辺りにくるだろう。そしてトンネルから入って、タガニウムを回収する。それが、果たして君たちのためになるのか、もう一度よく考えろ。」
カイは、こちらを睨みつけている。怖い。だが危害を加えられそうという怖さではない。
「君が地球の運命を決めろ!」
タガニウムを抑止力として保有する。確かに、今回のことで、地球外に生命体が存在していることがわかってしまった。となれば、どんな奴が宇宙にいて、いつ攻めてくるかわからない。
だが、仮にそのタガニウムを地球として保持したとしても、誰が・・・それこそどの国が、それを保持し管理するのか?
そもそもどうやって使用するかもわからない。それなら、有識者でそれこそ宇宙の秩序を守っているような組織に渡した方が、結果的に地球にとって良かったと言える可能性もあると思う。
「おい!これ見ろよ!」
カニカマが急に声を上げた。ワンボックスカーのモニターを指差している。詳しいことはわからなかったが、多分やつらがこちらに近づいているのであろう。
さぁ、どうすればいい。こんな決断、今までしてきたことなんてない。
その時、カニカマが肩を軽く叩いてきた。
「まだ悩んでんのか?ミスターブルーズ!」
何かを言い返そうと思ったが、なにも思い浮かばない。そんなこととはつゆ知らず、カニカマは間髪入れずに続けてきた。
「まだ見つかってもないのにか?」
「え?」
「だってあんたが悩んでるのって、タガニウムをどうするかって事だろ?でも、どちらの決断を下したとしても、そもそも見つかってないんだし、なんなら誰も見つけられない可能性だってあるんだぜ?」
確かにその通りだ。
「それに、ガールフレンドを助ける時の取引に使えるかもしれないしな?
このカニカマって男は、何者なのだろうか?もしかしたら、実は、かなりすごい組織で働いているやばい奴なのかもしれない。
ただたとえすごいやつだったとしても、奴のガールフレンドという時の、巻き舌を使う言い方はイラッとする。
認めたくはないが、今ので決心がついた。
「わかった、行くよ。」
カイのしかめ面が、一気に笑顔に変わった。
「よし!じゃあ、早速出発だ!」
カイは、まるで、返答を予想していたかのように、すぐにワンボックスカーの扉を開けた。
すると、何やら特殊な音がかなり遠くの方から聞こえてきた。
「急いだほうが良さそうだ!」
カイは楽しそうな笑みを浮かべていた。
「カニカマ、いい子にしてろよ!」
「了解、とりあえず奴らのデータを、ベリングキャットのダチに送信しておくわ!」
果たして、それが届くのかどうかはわからんが、カニカマを残して我々は急いでトンネルへと向かった。
辺りはもうすっかり陽が落ちきり、真っ暗闇になっていた。
湿気の多い夏の夜の空気のように、どんよりとし、お日様の匂いや、草の葉脈の匂いを漂わせている。
「総理!」
長いこと話していなかったせいで、すっかり忘れていた。しかし、センチュリーには誰も乗っていなかった。
「どこへいったんだろう?」
やはり途中で聞こえたあの音は、総理が車から降りた音だったのかもしれない。
その原因はセンチュリーであろう。よく見ると、湯気のようなものが、立ち上っている。オーバーヒートだ。
だとしても、彼はどこへいってしまったのか?
「探している時間はない。とりあえず中へ!」
我々はトンネルへと走った。また、あそこに入ることになるとは・・・。
近づけば近づくほど、背中が痒くなってきた。




