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ミスター・ブルーズ   作者: マフィン
地球と日本と総理大臣
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有事の時

 家に到着し、すぐにから揚げ弁当を電子レンジに突っ込むと、風呂の準備を始めた。テレビをつけるといつも通り、夜のニュース番組で総理大臣が囲み取材を受けていた。

 

 「こいつまたなんかしたのか?」


 その独り言に答えてくれるのは、テレビの中のアナウンサーだけだった。どうやらまた、海外に軍事的な理由で金をばらまいているようだ。フランス、イギリス、イタリア、ドイツ、ロシアにまで。

 

 「そんなんでアメリカは怒らないのかねぇ・・・。」


 テレビの奥の話し相手もそこまでは分からないようだ。まぁどう考えても裏があるような話だ。ニュースに飽きるのはいつものことだ。何もすることがなくなったので、そのまま唐揚げの出来上がりを待たずに、風呂へと向かった。


 一日着古した、よれよれの服を洗濯機の中に放り込みながら、ふと、さっきのコンビニでの出来事が脳裏によみがえった。


 「君にも同じようなあざがあるね。それはいつから?」


 サングラスをかけていたが、確かに見た目は外国人だった。身長も185センチぐらいで、妙に革ジャンが似合う。顔はブラットピットといったところか?なのに、自分の頭の中では彼が喋っている言語が、しっかりとした流暢な日本語で再生されている。まるで、映画の吹き替え版を見ているようだ。だが今、彼の見た目や話していた言語についてはどうでもよかった。


 なんでわかったんだろう。


 そう思いながら、鏡越しに自分の背中を眺めた。そう、彼の言う通り。自分の背中全体に、コンビニ店員の彼女と同じようなあざがある。


 このあざはある時ふと現れた。正直、いつからという明確な時期は分からないし、怪我で出来たものでもないはずだ。見つけたのも母親だった。脱衣所で体をふいているときに、洗濯物か何かをとりに来た母親が見つけて悲鳴を上げていた。たくさんの医者にも診てもらった。しかし、皮膚科、外科、内科、口腔外科、整形外科、ありとあらゆる科に見てもらっても、唯一得られたのは、精神科からの「ストレスからくる何か。」という非常にあいまいな答えだけだった。


 だが、時々このあざは本当にあざなのか分からなくなる。できた当初も特別思いっきり背中をぶつけたり、殴られたり、何か変なものを食べたりしたわけではないし、そのあざのせいで背中が痒かったり痛かったりしたこともない。


 言うなれば背中の模様・・・、刺青みたいなものだ。


 あのコンビニ店員の彼女の腕にあったあざもこの背中のものと同じなのか?痛くも痒くもなく、ある日突然出来たものなのか?


 湯船に浸かりながら、彼女のこと、あざのこと、変な外国人のことを考えていた。


 体も洗いさっぱりした気持ちで風呂場を後にすると、唐揚げのいい香りが居間へと誘った。だが、電子レンジの蓋を開けると、あっつあつの容器が容赦なく親指と人差し指の先に牙を向いた。


 「やり過ぎた・・・。」


 すぐに鍋つかみで容器を電子レンジから取り出し、蓋を開けてしばらく置いておくことにした。湯気と共に香ばしい香りが食欲をそそったが、いかんせん極度の猫舌のせいで、すぐに食べることができないのは明白だった。


 思いがけず出来てしまった時間を仕方なくテレビを観て過ごすことにした。とはいえ、深夜のバラエティが始まるまでまだ30分以上はある。ニュースもいつものことながら、総理大臣の囲み取材の映像だ。


 「有事の際、我が国や同盟国の軍事力だけではこの国を守り切ることができない。そのため、万が一その時が来た際に、先ほど申し上げました国々のお力添えをいただくために、そのような決断をさせていただきました。」


 歴代の総理大臣でも最年少の42歳なだけあって、語気には力強いものを感じた。


 「その有事の際とは具体的にどういったものを指すのでしょうか?」


 記者の質問は的確だと思った。


 「我が国に対する攻撃行為や侵略行為、その他、国民生活に甚大な被害を被る可能性のある事象をさします。」


 回答は淡白なものだった。


 「今の内容を各国首脳との緊急電話会議にて先ほど決定されたとのことでしたが、そのような有事の出来事が今後起こりうる可能性が高いということなのでしょうか?」


 首相の発言になお一層の注目が集まる。


 「いつ起こるか分かりませんが、わずかな可能性でも起こりうるのであれば、それに備えるのが国防だと考えております。」


 なんとも肩透かしな回答だ。


 気づけば唐揚げ弁当も福神漬け以外は跡形も無くなっていた。そのまま弁当容器を片付け洗面所で歯を磨き始めた。


 テレビでは薄い色のスーツに身を包んだコメンテーターが、今の首相の発言についていろいろ喋っていたが、残念ながらもう興味はなかった。


 このまま布団に入ったら、すぐに明日になっていそうなくらいの睡魔に襲われていたが、どうしてももったいないという感情が睡眠を妨害する。だが、結局その勿体無いもテレビを観て無駄に過ごすなら、睡眠時間を確保した方がよっぽど良いはずだ。


 そんな考えを頭に巡らせている自覚を残しつつ、気がつけば朝を迎えていた。


 どうやら昨日の睡魔は相当強敵だったようだ!いつもの夢は見なかった・・・。

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