弔い
月が西の空へと完全に沈み、東の空が紫色から、オレンジ色になり始めた頃、富士山のふもとにある、大きな湖の周りには、多くの近衛たちが地面に横たわり、対岸では恐竜が四匹と、近衛が一人、貴族の女が一人と、謎の未来人が佇んでいる。
恐竜が持つカラクリから放たれる紫の閃光は、まるで何かを包み隠しているように、空中を浮いている。
「かぐや姫、そなたは一体何をされたのだ?」
樫太郎が自分の胸へ倒れ込んできた、かぐや姫に尋ねる。するとかぐや姫は、静かに答えた。
「彼女の心に私の歌をお聞かせしただけですわ」
一体、どんな歌だったのだろうか?
「でも、なぜ最初に彼女に高音を轟かせた時、彼とかぐや姫は、同じようなことが起きなかったのですか?」
アルがブルターに問いかけた。
「我々もそうだったように、変異というのはこの星に肉体が対応しきれていないための言わば副作用みたいなもので、肉体への影響が敏感に作用してしまっている状態なの」
「ということは、肉体がその副作用に耐えられなくなったということですか?」
デルの言葉に、ブルターは頷いた。
「ならあの時の君は?君も肉体が耐えきれなくなったのか?」
今度は樫太郎が、あの夜の情景を頭に浮かべながら、尋ねた。
「私はあの夜、この辺りを歩いていた時に、記憶の淵へと誘われたのです。恐らく、この近くに眠っているレチウムが反応して、私の本来あるべき姿を思い出させようと、していたのかもしれないですね。ですが、それを私が拒んだ。それであの姿になってしまったのではないかと、私は思っております」
「なぜ、そなたは本来のあるべき姿を拒んだのだ?」
樫太郎はどこか心配そうな表情に見える。
「それは、私が私ではなくなる気がしたからです。私は地球に住むかぐや姫という存在がいなくなってしまうのではと。今の私は本当に幸せです。それがなくなってしまうのが、怖かった」
すると彼女はこちらに目線を向けてきた。
「でも、実際はそんなことはありませんでした。何があっても今の自分は消えませんでした。私はあなたにそのことを伝えたかった」
「ありがとうございます。おかげで、僕も自分を見失わずに済みました」
樫太郎は不思議そうに僕らを見ている。
「でも、どうして僕は、本来の姿にはならなかったのですか?」
気付かぬうちになっていたのかもしれなかったが、もしそうだとしたら、樫太郎や、ブルターたちが見ていたに違いない。
すると彼女は、また樫太郎を見ると、少し微笑んだ。
「今の私にまだわかりませんが、答えはもうすぐわかるのかもしれませんね」
かぐや姫の顔が少し、赤みかかっていた。
「あとはこいつをどうにかするだけですね」
ティランは、メガホンレーザーの紫の光に包まれている発光体になったメイジーを指差した。
「何かツボのようなものがあれば、良いのだがな・・・」
樫太郎はそう言いながら、自分の身に着けているものを漁った。
「これにでも入れておくか?」
樫太郎は懐から一本の竹筒を取り出した。
「これに入れて、富士の山に投げ込めば、奴はもう二度と悪さをすることはないだろう」
樫太郎はそう言うと、竹筒の栓を抜いた。そしてティランがメガホンレーザーを操作すると、発光体は光にいざなわれるように、竹筒の中へと入っていった。
「メガホンレーザーってあんなことができるんですか?」
「ええ、我々の技術に不可能はないわよ」
僕の問いをブルターが自信たっぷりに答えた。確かに彼らに出会ってからメガホンレーザーには驚かされてばかりだ。
「それで、これをこの火山の火口に投げ込んだらいいわけね。相変わらず、ジーブスは惨いことを・・・」
「でも、これでケイさんの仇を」
ティランがそう言うと、恐竜たちは各々うなずいていた。
「そういえばさっきから思ってたんだけど、ケイと何の関係があるの?」
「そういえば君も、彼のことを知っていたんだったね。あのゲルダファは、ケイの奥さんなのよ。そして、彼女がケイの居所の情報や、発明の情報を外部に流していた張本人よ」
ブルターから告げられた真実を聞いて、僕はまだどういうことか完全に理解できていない。
「でも奥さんもあのとき・・・」
「ええ、私たちもついさっきまでそう思っていた。まさかゲルダファだったなんて・・・」
確かに、あの時は防護服を着ていたせいで、顔が見ていない。カイはこの事を知っているのだろうか?
「もしかしたら、今ここで彼女を火山に投げ込んでも、帰ってくるかもしれないわね」
どこまで、執念深いのだろうか?
「だから、さっさとこれを火山に投げ込んで、こんな時代から脱出するわよ」
そうと決まれば、恐竜たちはすぐに船に戻り、出発準備を始めた。だが、かぐや姫と樫太郎は動こうとはしなかった。
まさかここに置いていくわけにもいかない。
「お二人とも!行きますよ!」
二人は湖に向かって手を合わせている
だが、僕の声を聞いて二人はゆっくりとこちらに視線を向けた。
「何をしていたのですか?」
「弔いを」
かぐや姫がしずかに答えた。
「どうやら、さっきの爆発で、ほかの者たちは跡形もなく消えたみたいで」
樫太郎はそう言いながら、湖の周りをぐるっと見回した。
「私の父もどうやら、天に召されたようです」
その言葉に応えるかのように、風が少し強めに僕たち三人に吹き付けた。
「それで、あなたに折り入ってお願いがございます」
「なんですか?」
「私は父も母も、もうこの世にいません。母は私に手をかけたという自責の念に駆られ、自ら命を絶ってしまわれました。もう私はこの星に未練はありません」
「でも、樫太郎さんが・・・」
樫太郎の方を見ると、樫太郎もかぐや姫が今から話そうとしていることを知っているようだった。
「彼は恐らく、帝への反逆罪でこのままいけば、打ち首になってしまわれるでしょう。そこでお願いです!どうか、私たちも、そなたの旅にご一緒させていただけないでしょうか?」
そういうとかぐや姫はゆっくりと膝をつき、頭を地面に伏せ始めた。
「私からもお願いしたい。ようやく彼女と二人になれたのだ。私は彼女とともに生きたいのだ!」
樫太郎も地面に頭を付けていた。
だが、僕にその決定権はない。
「何してんの!準備できたわよ!」
そう、できれば彼女に言ってほしいのだが・・・。
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