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ミスター・ブルーズ 〜命運を握る背中のあざ〜  作者: マフィン
竹林と月とかぐや姫

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樫太郎と造

 月が西の空へ沈んで行くと同時に、東の空がだんだんと賑やかになってきた頃、富士山のふもとから「キン!」という無機質な高い音が鳴り響いた。その音は、富士の山肌を反射して、国中に轟いたのではないかと思うくらいに、夜の空気を震わせた。


 樫太郎は、造の刀を全身で受け止めている。


 造の見た目は、60代から70代。一方の樫太郎は僕と同じくらいか少し上ぐらい。20代後半から30代前半に見えた。力の差は歴然のはず。だがしかし、実際は逆の歴然の差を見せつけられている。


 樫太郎もさすがは帝の近衛だけあって、一歩も引くことはない。だが、造の刀の刃はじわじわと確実に樫太郎を圧倒している。


 やっとの思いで樫太郎は、造の力を逃し、刃先を弾いた。


 「頼む。早くしてくれぬか?」


 ティランが飲んでいた薬・・・体を変異させる薬を樫太郎は欲しがっているようだ。


 だが、もちろんブルターは首を横に振った。そりゃそうだ。


 刀を弾かれた造は体制をすぐに整えると、脇構えの動作から樫太郎の右の胴を狙った。樫太郎はそれをひらりと身をかわすと、地面に着地した衝撃をバネにそのまま勢いよく踏み込み、真っ向から造に切り掛かる。


 また、無機質な金属がぶつかり合う音が轟く。


 「造様。正気を取り戻してください。こんなことをしていては、かぐや姫は守れませぬぞ」


 樫太郎は必死に造に語りかける。だが、彼には届いていない。


 「何を申すか!貴様がかぐや姫を攫うために、帝の近衛になって近づいたのは知っておるぞ!」


 造は怒りに任せて、刀を振り回している。まるで、剣豪のような振る舞いに、樫太郎はただ受け流すことしかしなかった。


 「そなたにはしっかり忠告しておいたではないか!かぐや姫に近づいたら、そなたの命をもらうと!なのに、なぜまた戻ってきたのだ」


 造の怒号とともに、二人の太刀打ちはさらに激しくなっていった。


 樫太郎は手も足も出ていない。だが、ただただ、必死に造の攻撃を受け流している刀が、一層大きな音を立てると、動きが止まった。


 「彼女を愛しているからです」


 力強くそう言うと、造は樫太郎に吹き飛ばされた。


 「まだか?まだ許しが出ないのか?」


 「ブルターさん!どうしてもダメですか?」


 息がかなり上がっている樫太郎を見て、僕もついブルターに懇願してしまった。


 「申し訳ないけど、たとえ、あなたにブルちゃんと呼ばれても、あの薬を彼に飲ませることはできないわ。でもそれは、純粋に彼の危険を考えてのことよ。わかってちょうだい」


 「でもこのままなら、どちらにしても彼は死んでしまうかもしれません」


 彼の足元はフラフラとしている。一方の造は、皮膚を強化されているせいか、起き上がっても、ピンピンしている。


 すると、珍しくブルターは声を荒げた。


 「ティランがああなったのよ!これ以上彼の二の舞をつくるわけにはいかないの!」


 ティランはデルが救出をしにいっている。


 「だから、このまま異星人の使用を認めるわけにはいかない」


 「でも・・・」


 「あいわかった!」


 返事をしたのは樫太郎だった。


 「急に彼女たちの言葉が聞こえてきて、気持ちがよくわかった」


 「ごめんなさい」


 ブルターがそういうと、樫太郎は一層険し顔をした。


 「案ずるな。どんなに偽りの力を使っても、私を倒せることはいない」


 すると、対峙している造も鋭い眼光を樫太郎に向けている。


 「かかってこい!小童が!」


 「望むところです!ご老体!」


 二人は一斉に飛びかかり、ぶつかり合った。造は頭ごなしに樫太郎に切り掛かる。一方の樫太郎はまだまだそれを交わしながら、攻撃のチャンスを窺っているようだ。


 「どうやら、体力を消耗させるという策は、愚策のようですね」


 造はあれだけ、全力の攻撃を仕掛けているにも関わらず、呼吸一つ乱すことなく、日本刀を振り回している。


 「どういうカラクリかはわからぬが、あっぱれな動きだ。だが、残念ながら、そなたは所詮は素人、技がない。それでは私を斬ることはできぬ」


 「だが、貴様もわしを斬ることができぬのじゃろう?」


 造は余裕の表情を浮かべている。すると、樫太郎も笑みを浮かべていた。


 「ある意味ではそうだが、私は斬れないのではない。斬りたくないのです。かぐや姫の大事な人であるあなたを」


 「何を寝ぼけたことをほざいておるのだ!貴様ごときに情けをかけられる筋合いはないわ!」


 造は容赦無く、再び樫太郎に斬りかかる。


 「貴様にその気がないのなら、さっさとこの勝負を終わらせてやろうではないか!」


 すると、造の真っ向に振り下ろされる刀を上にあげると、腹に蹴りを入れ、造の首のあたりに刀を走らせた。

 

 あまりの速さに造は、全く対応することができていない。


 「貴様!」


 どうやら、樫太郎は造に峰打ちをしたようだ。


 「あなたでは、私に勝てないんです!どんなに力があっても、私に技では勝てないのです。ですが、あなたは私に勝つ必要はない。私とあなたの気持ちは同じはずだ」


 造は黙っている。ようやく、樫太郎の言葉が心に届いているようだ。


 「あなたも、他のものと同じく、かぐや姫に心を奪われてしまっている。だから、あなたの奥様は、あなたの心が自分にないと気づいてしまい、その心の隙をトキにつかれてしまった。彼女はかぐや姫の暗殺を企てておりました。ですが、あなたはそれを気づくことはできなかった」


 「黙れ!」


 どうやら造は、自分がしてしまったことに気がついたようだ。


 「もし、彼女を守りたいのであれば、今すぐ屋敷にお戻りください。それがあなたが・・・」


 「黙れえええええ!」


 造は躍起になって樫太郎に斬りかかった。少し高めのガバガバな八相の構えの造が樫太郎の方へと近づいてくる。


 そしてことが起きたのは一瞬だった。


 「申し訳ございません。もし私がもう少し、鍛錬を怠っていなければ・・・」


 造は地面に倒れた。


 「私は、あなたを斬ることはありませんでした」


 造の倒れたうつ伏せのお腹のあたりから、じわじわと地面が赤く染まり始めた。

評価、ブックマーク等もしていただけるとかなり嬉しいです!

よろしくお願いします。


感想も待ってます。


記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1

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