覚醒
富士山のふもとにある大きな湖。確か富士山の周りには5つの湖があるのは知っているが、これがどこの湖なのかは知らない。そこにまさかこんな人数の帝の軍勢が押し寄せてくるとは、どの歴史書を見ても載っていないだろう。
ましては、それをむかえ討つ相手が恐竜だなんて、もってのほかだろう。
帝の軍勢はざっと見ても100程度だろうか?そこまで多いイメージはなかったが、たった二人と四匹で迎え撃つには莫大な数だろう。
「ティラン、大丈夫か?何か身体に影響はないか?」
アルが心配そうにティランの体を隅から隅まで観察している。
だが、当の本人はあまりピンと来ていないようだ。
「それよりも、この穴を塞ぎましょう」
ブルターがそういうと、デルが穴に向かって、メガホンレーザーをかざした。すると山肌に空いた穴は跡形もなく、元に戻ってしまった。
「どうなっているんだ?でも、これで思う存分奴らを向かい討てるぞ」
樫太郎は驚きはしたものの、目の前の敵に集中しているようだ。
すると、湖の対岸からメイジーの大声がこだましてきた。
「あれよ!あれを奪えれば、奴らは何もできないわ」
あれとは恐らく恐竜たちが持っているメガホンレーザーのことだろう。
「まずい!我々に向かってくるでしょう」
「いざとなれば自爆装置があります」
「でも、そしたら、レチウムを手に入れる事ができず、僕たちはここで足止めです」
僕はそう言いながら、自分を恨んだ。つべこべ言わずに背中の痒みなんて我慢して、穴の中に入ってさっさとレチウムを持って出ていけば、こんなややこしいことにはならなかったのに。
すると、不吉な予兆を知らせるかのように、突風が一瞬だけ僕の体にふきつけた。
その時、とうとうティランの体に異変が現れた。
「ティラン!大丈夫?」
ティランはお腹の辺りを抑えて、うずくまっている。
「アル!離れて!」
デルが叫んだのとほぼ同じタイミングで、ティランはアルを手で払いのけた。そのせいで、アルは数メートル吹き飛ばされ、山肌に体を強く打ち付けてしまった。
「アル!」
デルはアルの元へ駆け寄って行った。
「おいおい!こいつさっきより明らかにデカくなってないか?」
みるみる大きくなるティランの体の変化を眺めながら、樫太郎がつぶやいた。
ティランがどデカい咆哮を轟かすと、それに共鳴するように、富士山からも地響きに似た音が轟き、地面を深く震わせた。
湖の対岸にうじゃうじゃと動いていた兵たちも、この地響きには流石に動きを止めた。
どうやら、あまり時間は残っていない。富士山は多くの歴史書で、平安時代に噴火している記述が残されている。まさかそれが今日ではあるまいな?
どちらにしても、その時は刻一刻と迫っているのだろう。
すると、覚醒しているティランは、そんな地響きをもろともせずに、湖を横切って対岸の兵たちへ向かって真っ直ぐ走って行く。
「おー!あいつ!威勢がええのう!」
樫太郎が関心の声をあげている。すると、彼も帯刀していた刀をスッと抜き、その刃を眺めた。
「私がここで刀を抜けば、帝への反逆と見なされ打首になるであろう。だが、それでも私に悔いはない。もし、私が、ここで志半ばで散る事があれば、かぐや姫に私からの愛を伝えてくれると約束してくれ」
僕は今、樫太郎の背中しか見えていない。だが、それでも彼の清々しく、覚悟に満ちた表情が見えた気がする。
「わかった。なら代わりに、僕の約束を守ってください。必ず生きて帰ってくると」
すると、樫太郎の顔の半分がこちらを向く。
「ああ、」
樫太郎は風のように走り去っていった。
湖の対岸へ辿り着いているティランは、完全には理性を失っているわけではなく、力は皮膚の硬さのおかげで、次々と帝の近衛たちをなぎ払っていた。
その間にデルとブルターでアルの手当てにあたった。衝突の衝撃で、アルは完全に意識を失っているが、命に別状はないようだ。
またこれだ。この冒険で何度も何度も直面しているこの心理状態。
僕はまたしても役立たずだ。武器もなければ戦う能力もない。それに加えて頭も悪いし、知識もない。
でも今回はそれで終わらせるつもりはない。
僕は帝の近衛たちには負けてしまうかもしれない。だが、僕には何度も対峙して、カイがいたとはいえ、一度勝っている相手がいる。
逆にこの中で僕しか彼女に・・・メイジーに勝てる者はいない。
僕は、彼女を倒すための作戦に頭の中を巡らせた。バンブーネットワークは、かぐや姫しか使うことができないと言っていた。それなのに、なぜ彼女はかぐや姫を殺そうとしたのか?
彼女も愚かではない。それも分かった上での行動なのだろう。つまり彼女がいなくても、メイジーならバンブーネットワークを使えるということなのか?
だが、今まであのシステムを使っている段階で、そんな特殊技術を使っている場面に遭遇した事がない。
つまり、システムを使えるというよりは、そのシステムを使用するのに、必要なエネルギーを扱える者、つまりレチウムを使える者であればいい。
そして、レチウムに近づいたときに生じたあの背中の痒み。
すべてのことを考慮にいれ、僕はそれらの点を頭の中で線で結んでいく。そして、思いついた。
「ブルターさん。もう一度山肌に穴を開けてください!」
その時、湖の方でティランの苦痛に悶えるような叫び声が聞こえてきた。
我々は、すぐにティランの方へ視線を向けると、ちょうどティランが倒れようとしているところだった。
「ティラン!」
「ティラン!」
僕も湖の方へ向かった。すると倒れたティランのそばに、一人の男の影が立っているにが見える。
知らないうちに、ほとんどの近衛は、追い払われたり地面で伸ばされている。
そしてその影よりも手前で、対岸を見据えている樫太郎がいた。
「そなた、怪物のお友達に伝えて欲しい事があるのだが・・・」
その影はこちらに向かって走ってきている。
「あのお友達が飲んでいた薬と同じものを、私も欲しいと」
その瞬間、人力を越える速さで、樫太郎に切り掛かってきたのは、かぐや姫の父親の造だった。
彼の老体からは明らかにあり得ない動きだ。恐らくこれもメイジーの仕業だろう。
評価、ブックマーク等もしていただけるとかなり嬉しいです!
よろしくお願いします。
感想も待ってます。
記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




