僕は僕
僕は確かにここにいる。平安時代の富士山のふもとで、今まで一緒に行動してきた恐竜たちと、この時代に知り合った近衛の樫太郎が僕を取り囲んでいるのも認識できている。
だが今僕は、意識を失い潜在意識の中に入っている時よりも、現実の世界から遠ざかっている気がしていた。
いろんなミスリードがありすぎて混乱するなと言われても、今なら「うるさい!」と叫んでしまいそうだ。
もはや自分が地球人だと思っていた時代が懐かしい。そう、そもそもこの世に地球人なんて存在しない。
いや、もしかしたら、僕こそが真の地球人なのかもしれない。僕が地球人基ジーブスであった記憶や経験は全て嘘だったのだ。
津波に飲み込まれていった家族や病室で一人病気に倒れた母親は、赤の他人だったということなのだろうか?
ブルターや他の恐竜たちも、ゲルダファという言葉を発してから、何も言ってくれなくなってしまった。
僕はこれからどうすればいいのだろうか?なんのために戦えばいいのだろうか?なんのために今から死の危険を顧みずに、レチウムを取りに行かなければならないのだろうか?
「なぁ、一体何があったんだよ?話は終わったのか?早くしねぇとかぐや姫を救えなくなっちまう」
樫太郎の話し方は気がついたら、随分と乱暴な雰囲気になっている。
「樫太郎さん、ごめんなさい。僕は今、何もしたくないんです」
「どうした?何があったのだ?私が話を聞こう。こんな怪物どもに話をするよりも、同じ人間に話をした方が良いだろう?」
彼にそう言われた僕は、首を横に振った。
「いえ、僕は人間ではありません」
だが、彼は怯まなかった。
「やっと認めたか。そなたが人間でないことぐらい鼻から知っておった」
多分、彼は何かを誤解している。僕は、本当の意味で、人間ではない。そしてあなたと同じジーブスでもないのだ。
すると彼は僕の背中をそっと叩いた。
「そなたが何者でも、そなたも一緒にかぐや姫を救うと言ってくれた。それさえ本物なら、私はなんでも良い。もし、そんなことで悩んでいるのなら、私は気にしない。まぁそなたのそのあざの症状が気になるから無理にとは言わんが、私と一緒にそのレチなんとかを使って、かぐや姫を一緒に救おうではないか」
違うのだ。樫太郎。
「僕は・・・」
樫太郎はようやく不思議そうな顔で僕を見た。
「僕はこれから何を理由に行動していいのかわからないのです」
すると、富士山のふもとに雷鳴のような音が轟くと、頬の辺りに鈍い痛みを感じた。
「ちゃかましい!!!」
その音の正体は樫太郎の怒鳴り声と、彼が拳を振るった衝撃だった。
僕はその勢いで地面に叩きつけられた。
その光景を見て、ブルターが鬼の形相で樫太郎に向かって行こうとするところで、ティランが一生懸命彼女を止めているのが見えたが、それよりもさらに怖い顔つきの樫太郎の顔が、視界の全てを覆っている。
「そなた何を血迷っておるのだ!何を理由に?人の命を救うことに何の理由が必要なんじゃ?私との約束を守ることになんの理由が必要なんじゃ?」
彼の怒号が耳の鼓膜を振るわせ、心を揺さぶられた。
「そなたが奴らに何を言われたのか私は知らん。そなたがどんな事情かも正直なんも理解しておらん。だが、男が男と約束をしたのだ!私はそれを信じて、ここまできたのじゃ。もちろん、ここまでそなたを信じたおかげで、絶望的だったのが、後一歩まで来ているという時に・・・こんな裏切り・・・」
樫太郎の勢いが急に落ちた。
「確かに、彼の言うとおりじゃないですか?」
その声はデルだ。
「あなたが私たちを説得した時は、明らかに先の未来で起きる戦争のことは眼中になかったはずです。それなのに、いざあなたの出生が極悪な種族だったからって、その良心まで無くしてしまうんですか?」
その通りだ。僕はゲルダファという種族に固執しすぎていた。確かに極悪な種族である。でもそれはジーブスだってそうだ。あの時は、みんながみんなそうではないと簡単に思えたのに、なぜゲルダファはそうはなれなかったのだろうか?
僕は僕なのだ。
「もう!こうなったら私一人で行くぞ」
樫太郎はそう言いながら、持ち前の猪突猛進全開で穴へ向かおうとした時、聞きなれた声が、心の中で響き渡った。
「なら、私もお供させてくれるかしら?」
メイジーの声だ。恐竜たちも樫太郎も辺りをキョロキョロとしている。
どうやら彼らにもこの声が聞こえているのだろうか?すると、湖の反対側から、トキの姿のメイジーと帝の軍隊、そしてかぐや姫の父親の造の姿まで見えた。
「樫太郎!そなたはどういうつもりだ!」
対岸から声がするが誰が喋っているのかわからないくらいの声の大きさだった。
「やっぱり!その穴の中に、姫様を月へと送るためのものが隠されているんだわ」
メイジーが得意の嘘で帝の軍隊を翻弄している。
「やはり姫様を月へ・・・。そうはさせん!陛下のため、姫様のために、裏切り者も含め、抹殺せよ!」
「流石にこの数はまずいんでねぇの?」
ティランはそう言いながら、体を増強させる薬を口に含んだ。
だが、その瞬間、他の恐竜たちの表情に焦りが見えた。
「ティランだめだ!」
デルが必死に止めたが、ティランは勢いで薬を飲み込んでしまった。
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