富士のふもと
「なんじゃこれはーーーーーー!」
樫太郎の大興奮な叫び声が、船中にこだましている。
「どうなっているのじゃ?さっきまでこれはどでかい卵だったではないか!それなのに・・・はっ?へっ?」
彼の語彙力はだんだんと失われていった。
「出発準備完了です」
デルはいつも以上に声量を上げて、宣言した。
「了解!あとは・・・」
恐竜たちは彼に視線を向けた。
この一刻を争うというときに、彼はまだ船の出入り口を行ったり来たりしながら、中と外のギャップを楽しんでいた。
「ちょっと、樫太郎さん!早く中に入ってください」
僕は、そう言いながら、彼の懐にまとわりつき、船内へと引き込んだ。
「こっちは大丈夫です。早く出してください」
「了解!デル、アル、よろしくね」
ブルターが指示を出すと、船が動き始める。すると、樫太郎も比例して、興奮度が増していく。
「これは一体どういうからくりで動いておるのだ?月が浮いているのと、同じ原理なのか?」
樫太郎の質問が止まらない。
「樫太郎さん。さっきも言いましたよね?」
僕は、あきれた物言いでそう言うと、樫太郎はしょげた顔をした。
「確かに、これらの仕組みを質問するなとは言われたが、他言はせぬから、少しくらい教えてくれても良いではないか!」
どの時代も男性は変わらないようだ。こういった男のロマンをくすぐるものを目の当たりにすると、世の男性たちは、幼児帰りしてしまうみたいだ。
「ちょっと!」
ブルターが声を潜めて、僕を呼んでいる。僕は、彼が外の景色に気を取られているすきに、彼女の元へ移動した。
「本当に、彼をこの船に乗せて大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ」
正直なところ、僕も若干心配になってきている。なにせここまで彼のキャラクターが変わってしまうとは想定外だ。
そう思いながら、無邪気な彼の姿を眺めた。
「どうせ、仕組みとか理解できないんじゃないですかね?」
「確かに」
ブルターも彼を見てそう呟いていた。
彼の興奮が冷めやまぬ間に、我々を乗せた船は、富士山近くの上空を旋回し始めた。
「それで我々はどこで着陸すれば、良いのでしょうか?」
操縦盤を操作しているアルが尋ねてきた。
しかし、樫太郎から返答はなかった。もちろん、彼が知らなければ、我々は知る筈もないのに、彼はなぜか我々に視線を向けている。
「まさか、火口から入れとは言わないだろうねぇ?」
ブルターが少し詰め寄った。
「いやぁ・・・それがだな・・・」
ようやく、樫太郎が口を開いたと思ったら、どうやら様子がおかしい。すると、ブルターはすべてを察して、ため息をつきながら、僕を見た。
「わからないのか・・・」
「どうしましょう?このままだと、燃料がもったいないです」
ティランが尋ねた。
「とりあえず、人気のないところに着陸させましょう」
ブルターのその言葉にこたえるかのように、船はだんだんと降下していった。そっちのことは恐竜にまかせ、僕は彼へ尋問を始めた。そうは言ってもただの質問だ。
「いや、別にだましたとかそういうわけじゃなくて、本当に心当たりは富士の山しかないんだ」
「では、なぜ富士山だと思ったんですか?」
「いや、それは・・・」
何か訳ありのようで、なかなか答えが返ってこなかった。船の着陸を終えて、船内は一気に静かになった。
「もしかしたら、我々にわかる何かがあるかもしれないので、話してもらえますか?」
すると、樫太郎は何か空気以外にも溜まっていたものを吐き出すように、深呼吸をすると、説明を始めた。
「私たちの関係は、許される関係ではなかったんです。私は帝に仕える者。その帝が寵愛なさっている女性に恋をするなんてことが許されるわけがありません」
「でも、しちゃったんだろ?」
ティランが話に水を差した。
「しかも、お互いに恋してしまっていました」
樫太郎がきれいにまとめる。そして、説明が続いた。
「私たちの出会いは、帝の寵愛を受けるよりも、四人の有力者たちよりもずっと前にさかのぼります。その時から、私たちは想い合っていたのです。ところが造様は、娘にふさわしいのは権力者だと言って、私たちの仲を引き裂きました」
「それが、これからの話とどうつながるわけ?」
デルがぶっきらぼうに質問した。まぁ言い方に難はあったが、確かに先ほどの富士山からの煙も気になる。できれば、早く結論を聞きたいものだ。
「それで、私が帝の近衛となり、帝に彼女のことを話したのです。そうすれば、帝が彼女に興味を示し、彼女に会いに行けば、その護衛としてついて行ったときに、彼女と会えると考えました」
彼の説明は我々が急かすせいで、早口になっている。だが、まだ話の本筋が見えず、恐竜たちは若干イライラしているように見えた。
だが、ブルターだけは彼の話を真剣に聞いていた。誰か彼女の情緒をどうにかしてほしいものだ。
「すると、彼女は私の企みに気づいたのか、あんなに世の権力者の男性たちの寵愛を無下にしてきた彼女が、帝の申し出には最小限でも応じるようになったのです」
なんか帝の気持ちを考えたら、若干複雑な気持ちになった。
「そんなある日、彼女から文が届きました。内容は端的に言うと、彼女の正体についてでした。本当は私にしか見せたくはなかったが、仕方がなく帝も交え、私に真の姿を見せると告げてきたのです」
「真の姿ですか?」
月の民であることを告げるという意味なのか?すると、彼はその時の情景を思い浮かべて、また驚いているようだった。
「私も、びっくりしました。だって、彼女はいきなり無数の蛍のように、緑色の光に変わって、富士のふもとにある湖の周りを漂っていたのですから・・・」
すると恐竜たちが過剰に反応しているのがわかった。
「ブルターさん、それって・・・」
ブルターは黙って頷いていた。
第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




