説得
夜空で存在感を見せていた月も、だんだんと西の方へ追いやられていた。夜明けが近づいている。
「一刻も早く富士の山へ向かわなくては!」
樫太郎は再び勢いを取り戻し、富士の山へ歩みを進め始めた。
「お待ちください。まさかこのまま歩いていくつもりですか?」
「それ以外どうやって行くつもりだ?まさかお主らに何か良い考えでもあるのか?」
実はそうだが、恐竜たちは首を横に振っていた。
「なんで!あそこまで行くには何日もかかっちゃいますよ」
僕は恐竜たちに訴えた。
「そんなにか?俺は結構近く見えるけどなぁ?」
ティランは富士山を眺めながら、ぼんやりと答えた。
「そりゃこの国で一番大きい山だからそう見えるだけで、実際には恐らく・・・」
「三日はかかる。だから、もしも妙案がないのであれば、早いところ出発しなくては!」
樫太郎は、恐竜たちが醸し出している空気を察知して、楽な方法を諦め、険しくて長い道のりにすでに覚悟を決めているようだ。
だが、彼が覚悟を決めていたとしても、残念ながら、へっぽこ21世紀人はテクノロジーに頼ることしかできない。
「お願いします。時間が経てば経つほど、彼女を助けられる確率が、下がってしまいますよ」
僕は、必死だった。あの宇宙船で向かうだけで、かなりの時間の節約ができる。今は、どう転がっても一刻を争っている。
ブルター以外の恐竜たちは、彼女の様子を伺った。だが、ブルターの結論は揺らぐことはなかった。
「残念だけど、彼をあの船に乗せるわけにはいかない。でも、彼がいなければ、レチウムを見つけ出すことはできない。なら、彼の案内に従って、三日かかろうが、歩いていくしかない」
ブルターは淡々と答えた。恐らく、心を殺しているのだろう。
だが、三日という時間は、あまりにも無駄な時間でしかない。その間、彼女はいつメイジーや彼女の母親に命を狙われるか分からない。それに、もしかしたら、さっきの会話をメイジーが聞いてしまっているとしたら、我々の計画も・・・。
恐らく、彼女の狙いもレチウムに違いない。
「なぜ、僕を乗せることができて、彼を乗せることができないのですか?」
その答えはすぐに彼女の口から発せられた。
「信頼の問題よ。私はあなたを信頼している。でも彼のことは残念だけど、まだ信頼に値していない。でもそれは、敵対行動を取られているからよ。それくらいはわかると思うけど」
確かにそれはそうだが・・・。
「それに、我々の目的は、彼女を助けることではない。だったら、技術の漏洩のリスクを背負うなら、どんなに時間がかかっても、安全牌を長として取る責任が私にはあるわ」
ブルターらしくない言葉に、僕は少し困惑した。
確かに、彼女には彼女なりの責任がある。もしかしたら、その責任は自分の星だけでなく、この宇宙での責任なのかもしれない。
だが、それも全て理解した上で、僕は納得できない。
「でも、あなたは僕を信頼してくれていると言いましたね?」
「ええ、もちろん。共にこれから戦うんだから・・・」
ブルターからまたしても素早い返答が返ってきて、安心した。
「なら、そんな僕が彼を信頼するならどうですか?」
恐竜たちの間で、空気がどよめいたのがわかった。だが、他の恐竜たちは、ブルターに決断を委ねているようだった。
「本当に君は彼を信頼できると言い切れるの?」
「ええ」
本当は、言葉にしているほどの自信はない。だが、僕はなぜか彼を信頼できる。
「なぜ?」
僕は少し考えた。
「彼の行動は全て、理にかなっている。僕らを攻撃したのも、近衛を裏切るような行為をしているのも、一見すると確かに、信頼するにはかなり危険な行動をとっているように見えますが、全て一つの目標を達成するためです」
「かぐや姫を守る」
デルが呟いた。
「そして、我々の目的の遂行はかぐや姫を救うことにも直結している。さらに言えば、もし、富士山に向かっている間に、彼女の身にもし何かが起きれば、彼は恐らく、レチウム探しを放棄して、彼女を救いに行く可能性だってあると思いませんか?」
この懸念に関しては、今思いついたことだった。正直、そんな行動は信頼に反することでもあるが・・・。
恐竜たちは、ブルターを見た。
ブルターはかなり熟考している。
「わかったわ。私の負けよ。すぐに彼を呼び戻して!私たちは船の準備よ」
「ありがとう!ブルちゃん!」
「ブルちゃんって・・・!悪くないわね・・・」
僕はもうすでに富士山へ歩みを進めている彼を追いかけた。
「今度からあなたたちもブルちゃんって呼んでね」
「ちょっとそれは、いくらなんでもフランクすぎませんか?」
「でも俺は、ブルターちゃんより呼びやすいかも」
「そういう問題ではなく」
恐竜たちの会話が聞こえるか聞こえないかぐらいまで、彼は歩みを進めていた。
「遅いぞ。そなたらは一体何を話しておったのだ?」
「樫太郎さん。私の妙案の許可が出ました。ここからものの数分で富士山まで行けますよ!」
「誠か!なら善は急げだ!案内してくれ」
彼の両手が、勢いよく肩に降りてきた。肩こりのせいなのかは分からないが、ものすごい激痛で、背が数センチ縮んだのではないかというほどの衝撃を受けた。
この時代の人々はなんていう馬鹿力なのだろうか?
その時突然、とてつもない地響きとともに、強い揺れが襲ってきた。
「なんだこの揺れは!」
揺れはかなり長いこと続いた。竹林の竹たちは荒れ狂っている。そして、ところどころで、大きな岩が上の方から転がってくる音が聞こえてきた。
「一体何が起きているのだ?」
揺れが収まり、ふと富士山の方を見ると、山頂から煙が上がっている。
「こりゃまずいぞ・・・」
我々に残された時間は、さらに限られていた。
第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




