企て
今日の夜はとても穏やかな気候だ。時々はかなく吹くそよ風が、竹の葉を優しく撫でる。
ここは北側なのだろうか?月光が少し遠くに見えている。
そんなわずかな光しか射し込んでこない竹林の中で、一人の男が頭を地ほどまでに落として、懇願している姿が、ぼんやりと見える。
恐竜たちは、僕に助けを求めるかのように、こちらを見ている。恐らく地球人・・・なんなら日本人特有の「土下座」という行為に対する対応に戸惑っているのだろう。
僕は彼に近寄ると、顔を上げさせた。
「わかりました。ですが、あなたはなぜにもそんなに、かぐや姫を助けようというのですか?」
素朴な質問をした。
すると樫太郎は、まっすぐとこちらを見ながら、力強い言葉をこちらにぶつけた。
「彼女を・・・愛しております」
もう少し風情のある言い方をしているような顔つきだが、メガホンレーザーの翻訳の弊害で、ド直球な愛のことばになっており、なぜかこちらが恥ずかしくなってしまった。
そしてやはり彼が、彼女が言っていた想い人だと断定することが出来た。
すると、横から鼻をすする音が頻繁に聞こえてくる。どうやら横にいるブルターは完全に彼の言葉に心を動かされていた。
「分かりました!私たちでかぐや姫様をお守りいたしましよう!」
もはや彼女の声は泣き声になっていた。
「まことか!それは頼もしい限りだ!」
近衛も興奮ぎみに声をあげた。
「それより、さっき会ったとき、あなたは甲冑姿でしたが、なぜ今は甲冑を身に着けていないのでしょうか?」
僕の質問に彼はしばらく沈黙すると、軽く息を吐いた。
「実は私、あなたと姫が話しているところを盗み聞きしておりました」
「盗み聞きですか?」
確かに少し驚きはしたが、僕らの会話を第三者はどのように聞こえていたのかは気になるところだ。
「申し訳ない。あの時はそなたを疑っていたからな。しかも、妙な術を使って壁をすり抜けていくところを偶然にも見かけてしまったものだから、引くに引けず・・・」
「いえ、それは当然ですから・・・」
まぁ別に聞かれて困るような内容でもないし。
「でも、あなたもなぜ一人でこんなところにいたのですか?」
「え?」
今度はブルターが彼に質問すると、またしても彼は沈黙してしまった。
「こんなに統率の取れた軍から、一人で離れるとなると、その罰は重いとわかっているはずだ。それでも彼女の心配が勝ったとしても、彼女を守る任務に就いていて、自らの目的に沿っているにもかかわらず、単独行動をとったのは、他に何か深い理由があるのではないかと思いましてね」
ブルターはおどけた笑顔を交えて説明した。どうやら、何か訳ありな雰囲気がする。
「どうやらそなたらはとても賢いようですね。その通りです。実は私は一人で彼女の元へ戻っていたのです」
「どうしてですか?」
単純に考えるなら、自分も竹林で戦いに参加し、姫に危害を加えるかもしれない魔物と戦う方が先決だと思いそうなものだが・・・。
すると、彼は勢いよくこう答えた。
「このタイミングで彼女が殺されると思ったからです」
「どういうことですか?」
つまり、彼女が命を狙われていることを事前に知っていたことになる。
「実は聞いてしまったんです。恐ろしい会話を」
恐ろしい会話?
彼は、先ほどよりも少し落ち着いた口調で話をつづけた。
「あのトキという女です。彼女がかぐや姫の侍女になったのはほんの最近のことです。なのに、気が付いたら、どの侍女よりも近いところに彼女はいました。かぐや姫も彼女を深く信頼しておりましたが、私はどこか彼女のことを好きになれなかったのです。彼女と仕事中に顔を合わせたときも、彼女はすべてを見透かしているかのような目つきで私を見ていました」
近衛ともなると、目つきで人柄が分かってしまうのだろう。
「その言い方ですと、あなたの見立ては正しかったようですね」
ブルターの問いかけに、彼はうなずいた。
「ええ、彼女は造様と奥様の心を支配しております。そして今夜、彼女にあるものを飲ませて毒殺する計画を、奥様にお話しされているところを聞いてしまいました」
「え?待って!ということは・・・」
「ええ、奥様もこの件に一役かっております」
「でも、どうして?あんなにかわいがっていたというのに」
「おそらく、造様のお気持ちがかぐや姫に向いていることへの嫉妬の念でしょう。それをトキが利用したのです」
女の嫉妬というのは怖いものだ。
「彼女は奥さまにこうおっしゃっておりました。北の竹林よりケダモノの遠吠えが聞こえたらその時に備えてくださいと」
その瞬間、僕もブルターもほかの恐竜たちもお互いの顔を見合わせようとしたに違いない。メイジーすべてバレていたというのか?
「だが私は、かぐや姫から月の使者の話を聞いておりました。それでこの竹林の遠吠えが、何か関係があると思い、迷わず竹林へ向かったのです。遠吠えさえなければ、彼女は毒殺されることはないし、月の使者を倒せば、彼女を奪われることはないですから」
「それで、ティランの咆哮を聞いて、あの屋敷の近くをうろついていたってわけか・・・」
ブルターはつぶやいた。
「ええ。私は屋敷に忍び込むために甲冑を脱ぎ捨て、どうにか建物までは行けましたが、そなたのように中へ入ることはできなかった」
すると樫太郎は急にそわそわとし始めた。
「私は、あの部屋の様子を見ていない。だから、まだかぐや姫に危険があるのではと気が気ではない。中の様子はどのようになっておったのだ?」
そのとき、ふとあのときの情景が浮かんできた。
「そう言えばあのとき、彼女はお茶を持ってきていました。あのときは奥さんの声を聞いて様子を見に来たみたいな雰囲気でしたが・・・」
あのとき、いろんなことが起きて人がごった返していたのに、あの湯呑みだけは倒れていなかった。
恐らく、彼女が必死で守っていたからに違いない。
「ならそのお茶に毒が入っていたのかもしれないですね」
「だとしたら、まだ彼女が危ないではないか!」
樫太郎の怒号は、竹林に響き渡った。
第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




