近衛の懇願
近衛の目は血走っている。ここへ来るのにかなりの速度で走ってきたのだろう。我々も下手に動けない状態だった。だが、近衛と反対側からは、勢いを殺すことなく、提灯軍団が距離を詰めてきている。
となれば、この近衛をどうにかするのが先決だろう。だが、そんな心配をする必要はなかったようだ。
「こっちだ」
近衛の手招きを果たして信じていいのだろうか?だが、恐竜たちは完全に信じきっている。
「ちょっと!本当に信じて良いのか?」
すると、近衛は黙ってこちらに近づいてきた。相変わらず、距離感が近い男だ。
「私もそなたに聞きたいことがある。そんなそなたはここから生きて脱出したい。ならば、お互い利害の一致になるのではないか!」
そう言うと彼は回れ右をしてまた反対方向へ進んでいった。
聞きたいこととはいったい何なのだろうか?
「何を悠長なことを!早くこっちへ!」
近衛の怒鳴り声の迫力に、気づけば我々は彼について行った。どうやら、寝殿の反対側から、竹林に向けて走っているようだ。
それにしても、彼は足が速かった。一歩間違えればすぐに彼や、恐竜たちに置いて行かれてしまう。恐らく、いつも甲冑を着ているせいで、それを外している今は、いつも以上の身体能力を発揮しているのかもしれない。
そういえば彼は今、鎧甲冑を身に着けていない。これはもしかして、近衛としてではなく一個人として行動しているという意思表示なのか?それとも、我々を油断させるための罠か?
どんどんと寝殿の建物が遠くなっていく。
「多分、ここまでくれば問題ないだろう」
月明りも届かない真っ暗闇の竹林の真ん中で、彼は立ち止った。もはや、相手の顔もぼんやりとしか見えていない。
「助けてくれてありがとうございます」
そう言いながら頭を下げると、彼の差し迫った声が聞こえてきた。
「なら、答えてくれ。彼女が殺されるとはどういう事なんだ?なぜ、殺されなきゃいけないんだ?それはお前らのせいなのか?そもそもお前らは何者なんだ?」
男は今まで溜まっていた何かが、一斉に放出されたかのように、こちらに質問攻めをしてきた。
「彼女はムーデニアの貴族みたいですね。どうやらこの時代に、ムーデニアでクーデターがあったみたいです」
デルがメガホンレーザーを空に掲げながら、淡々と答えた。
「ムーデニアって月のことですか?」
初めて聞いた名前だった。
「ええ。まぁ正確に言えば、月はムーデニアのコロニーと言った方が良いかもしれないわね」
だが、僕にはある疑問が浮かんだ。
「クーデターって、そんな野蛮なことをする種族がジーブス以外にもいるのですか?」
「もちろん、暴力的なクーデターは起きていません。ただ今回の場合、彼女の一族の失態で、そのレチウムが地球に流出してしまったようで、それを一族が責任を取るという形のいわゆる島流しにあってしまったというわけですね」
すると急に、近衛が怒鳴った。
「そなたらは何の話をしているのだ?」
寝殿の方にも聞こえそうなくらい、彼の声は響き渡り、その場に沈黙が流れた。だが、彼の気はまだ収まっていなかったようで、さっきよりは少し声量を落としながら、勢いはそのままで話をつづけた。
「まさか私が無知であることを良いことに、からかっているのか?」
「えっと・・・あなたは・・・?」
「樫太郎だ」
ブルターが尋ねると、彼・・・樫太郎はぶっきらぼうに答えた。
「樫太郎さん。決してあなたをからかっているわけではありません。これは事実です。かぐや姫はこの星の者ではないのです」
すると、樫太郎は首を横に振りながら、話を遮った。
「いやいや、そんなことは知っている!私が聞きたいのは、なぜ彼女が命を狙われているのかだ。あの爆発はお前たちの仕業か?」
どうやら彼は思っている以上にこの世界の真理の近いところの知識を身に着けてしまっているようだ。
すると今度はアルが説明を始めた。
「あれはメガホンレーザーの自爆装置です。この技術を盗まれないように、予期せぬ漏洩が起きた場合に、任意で爆発させることができるようになっているのです」
そう言うと、樫太郎はなぜか僕の胸倉をつかみかかってきた。
「あの部屋には、彼女がいたはずだ。彼女は爆発に巻き込まれたのか?それがそなたらの目的なのか?」
「ちょっと落ち着いてください」
ティランが僕と樫太郎を引き離した。
「今のはなんだ?」
どうやらこちらの姿が見えていないせいで、ブルターたち恐竜のような人間とは違う見た目の生き物が、目の前にいると思っていなかったようだ。それなのに、ティランは我々と背を比べれば、かなり上から声が聞こえていたに違いない。
正直僕も、それを懸念していた。あの爆発でかぐや姫に何かあれば、この計画は頓挫してしまう。すると、アルが見解を話してくれた。
「あそこまでの大爆発が起きていますが、中身の素材に使われいる金属のせいで、あんな音がなっているだけで、実際にはそこまでだと・・・彼女が持っていない限り大丈夫です」
「恐らくそれを持っているのは、トキという彼女の側近ですので、恐らくかぐや姫は無事どころか、逆にトキの足止めが出来て好都合かもしれないですよ」
すると彼から、少し落ち着いたような雰囲気を感じた。
「そなたは彼女を殺すつもりではないのか?」
もちろん、僕は首を横に降った。
「であるならそなたはなに用で彼女に近づいたのだ?」
彼の鋭い眼光だけが、暗闇からこちらに向いているのが分かった。
彼の圧に押し潰されそうだ。
「私は今からはるか未来から来た者で、その未来で起きようとしている大きな争いを止めるため、彼女の協力をお願いするために参りました。決して彼女の命や彼女自身を奪うつもりは毛頭ございません」
こういう時は、言い切ってしまうのが良い。
「私は、そなたを信じるべきなのか?」
彼は自問自答している。
「我々にとっても彼女が殺されてしまっては、計画が台無しですから、逆に我々はできる限り彼女を守るつもりです」
今度はブルターが補足をした。
「であるならば・・・」
すると、彼は再び両膝と、今度は頭まで地面につけ始めた。
「頼む!彼女をやつから守るのを手伝って欲しい!このとおりだ!」
なぜ彼はここまでして・・・、そのときふと、かぐや姫が話していた想い人の話を思い出した。
もしかして彼がそうなのだろうか?
第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




