救出作戦
「プス・・・プシー!」
だんだんとこちらを呼ぶ声が大きくなっていく。だが、音のする方を見ても、本人の姿が見えない。うまく擬態しているのか?それとも見ている方向が違うのか?
恐らくこの感じは見ている方向が違うのだろう。
すると、その部屋にいた僕以外の人間までも音の正体を探し始め、辺りをきょろきょろとしている。
「ちょっと!ティランは?」
「さっきの声は違うんですか?」
「私もそうだと思ったけど・・・」
いよいよ会話まで聞こえてくる始末だ。
「お知り合いですか?」
かぐや姫の問いに、またもや心臓の波打ちが高まった。
「なにがですか?」
無視すればよかった・・・。そうだ、この考えさえも筒抜けだった。彼女は敵にまわすとややこしい。
「この部屋を隅々まで調べて!早く!」
メイジーが周りにいた侍女たちに指示を出した。だが恐らく、彼女たちはそういった仕事をしたことがないのであろう。何をしていいのかわからず、ただただ部屋の中を縦横無尽に歩き回っているだけだった。
「もう!仕方ないわ。ティラン抜きで行くわよ」
その言葉を皮切りに、僕は何者かにさらわれた。景色は一瞬にして月夜の空に様変わりすると、目の前にラプトル三姉妹がこちらを見ていた。
「遅くなってごめんなさい。ここの人間たち、あきらめが悪くて」
ブルターが息を切らしながらそういうと、僕を地面におろした。
「ありがとうございます。皆さんケガはないですか?」
いくら恐竜で、地球人より強いからと言って、この時代の人々の野蛮さは異常だ。さらに言えば、今回の件には、あのメイジーが関与しているとなると、これまた何が起きてもおかしくはない。
油断できない。油断できないで思い出した。
「それで、ティランはどこにいるんですか?」
僕は嫌な考えを頭の中で巡らせてしまっていた。さっきの咆哮はティランからのSOSだったのかもしれない。
ならティランを探さなくては。
しかし、ほかの恐竜たちはどうやらそんな考えではないようだ。
「まぁ多分そのうちでてくるでしょう」
ブルターは気持ち程度に周囲を見渡した。すると、奥の方から老人の叫び声が聞こえてきた。
「わしの大事な姫にあんなことをして、ただで済むと思うなよ」
「なに?なんかしたの?」
ブルターが目を細めながら疑ってきた。僕は全力で首を横に振る。
とんだ言いがかりだ。かぐや姫の性格はもとからひん曲がっている。強いて言うなら、彼女を育てた自分の責任である。
さらに、今度は小刻みに地面が揺れていることに気が付いた。するとあんなに威勢が良かった翁も、大地が揺れているともなると、さすがに尻込みしている。
どこかしら、この地響きの原因がこちらにあるのでは?という疑いのまなざしまで見える。
だが、その地響きの正体はすぐに姿を現した。
「おーい、すまんすまん」
低く、のんびりとした声がこちらに近づいてくる。心なしか、悲鳴のような声も遠くから微かに聞こえている気がしたが・・・。
「やっぱり・・・」
デルがつぶやいた。
「もう私たちだけで助け出しちゃったよ?どこ行ってたの!」
ブルターはまるで幼児をしかりつけるような口調でそう言うと、ティランは頭を掻きながら、理由を説明した。
「いやぁ、どうしてもトイレに行きたくて・・・」
恐竜にもトイレに行くという概念があるのか?それとも・・・メガホンレーザーの翻訳機能が影響しているのだろうか?
そういえば・・・
「そうだ!ブルター・・・ちゃん」
ブルターの圧でぎりぎり修正がきいた。
「どうしたの?」
彼女はすごくご機嫌だった。
「メガホンレーザーを彼女に奪われちゃって・・・」
「彼女って・・・?」
「メイジー」
すると、ブルターの表情が一気にこわばった。
「その人ってもしかしてこの前言っていた・・・」
「そうです」
彼女が考えていることは分かった。どこぞのファンタジー小説の悪役みたいに、なぜか名前を発音してはいけない気がして、言葉を濁した。
ほかの恐竜たちも、さっきまでの和やかな雰囲気から一変し、ブルターの反応からただ事じゃないと察しているようだ。
その時また声がした。
「逃がさないわよ。私があなたのおもちゃを持っている限り、あなたの居場所はすぐにわかるからね」
その声は、かぐや姫の声のように文字通り心に響いてくる。
やっぱり、あいつはメイジーだ。メイジーもその力を使えるのか?やつの目的はなんなのか?
「まぁ、逃げられるかどうかは、また別の話だけどもね。彼女がいなければ、バンブーネットワークを使うことは不可能よ」
その時、さっきまでいた北対から爆発音が聞こえてきた。
「抹消完了です」
アルは造作もない表情だった。
「いざというときに役立つわね、あのシステム」
ブルターも北対から上がる煙を眺めながら答えた。
「姫!姫や!」
翁は慌てふためいて、かぐや姫と自分の妻のいる、爆発現場へと走っていった。
「何してるの?行くよ」
ブルターの声で正気を取り戻したような感覚になった。
逃げるには絶好のチャンスではある。だが、さっきのメイジーの一言のせいで、そのことで頭がいっぱいになってしまった。
面倒事というのは立て続けに起こるものだ。今度は遠くから、怒号とともに提灯軍団がこちらに近づいているのが見えてきた。
「ブルターさん、また彼を担いでください」
「わかったわ」
「彼女は殺される」
気が付いたら、口に出していた。
恐竜たちもこちらからの思いがけない不意な一言に、動きを止めた。
「彼女ってかぐや姫のこと?でもそしたら・・・」
「僕たちはこの時代から逃げられない。だから、奴は彼女を殺すつもりなんだ・・・」
「それはつまりどういうことだ!」
明らかにティランではない男の声が背後から聞こえてきた。
振り返るとそこに立っていたのは、竹林で最初に出会った近衛がこちらをにらみつけていた。
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