恋するかぐや
かぐや姫の母親はまだ床で伸びている。どうやら相当なトラウマを植え付けてしまったようだ。とはいえ、いつ目を覚ますかわからない。もしかしたら、今この瞬間にも彼女が目を覚ますかもしれない。
それだけではない。かぐや姫の様子を見に、侍女がこの部屋に入ってくる可能性もある。そうなったとき、果たして咄嗟の判断で、ここから逃げられるだろうか?
それに恐竜たちは無事なのだろうか?いや、もしかしたら、恐竜たちよりも近衛たちを心配した方が良いかもしれない。それこそ、彼らが逃げ帰ってくる可能性だって十分にあり得る。
それなのに、いま、かぐや姫からとんでもない発言が飛び出した。
「あのシステムを修理できる者がいたとしても、私がそれを絶対に許すわけにはいきません。申し訳ございませんが、あのシステムの使用はあきらめてくださいませ」
「それはなぜなのですか?」
正直、僕は彼女を甘く見ていた。失礼だが、事情を話せば彼女は快く協力に応じてくれて、あとは周りの連中をどうするかを悩み、恐竜たちが強行突破をして一件落着を期待している。だがまさかここでつまづくとは思っていなかった。
そのせいで今は頭の中が真っ白だ。
するとかぐや姫は、遠い目をしながら、外へ視線を向けた。
「私はこの星を愛してしまいました。いえ、正確にはこの星のある方を・・・」
恋だ。確か、竹取物語は恋の話。いやまぁ正確には最初はそうじゃなかったが、最終的には恋の話になった気がする。
まぁ、この世の中、基本男女が出てくれば、恋が芽生えないことはないのだろう。
かぐや姫はさらに話をつづけた。
「最初は自分の立場をわきまえ、この星になるべく干渉しないようにして参りました。この国で位が高い者たちからの求婚もすべて、我が使命を果たすために心を鬼にして、そのお心を利用して参りました。そのおかげで不誠実な者をあぶりだすことができましたが」
「その使命というのはレチウムを見つけ出すことですか?」
かぐや姫は少し驚いた顔をしたが、すぐに話を続けた。
「ええ、求婚してきた者に試練と称して、レチウムを持ってくるように言いました。ですが、身分もまちまちなら、結果もまちまちでした。精巧な偽物を作るもの、偽りの冒険話を聞かされたものも、中には本当にその場所へ向かい、志半ばで戻ってきたものもおります。その勇気は称えるに値すると思いつつも、結果を出さなかった者全員に、無慈悲なお返事をしてまいりました」
「でも、それが変わってしまったのですね?」
彼女は黙ってうなずいた。
確か物語では、帝に正体がばれたことで、なぜかだんだんと惹かれていくんじゃなかったかな?それで、ここに残りたいと懇願している描写があった気がするが・・・?
そうか、ということは、あの竹林の提灯軍団は、帝に仕える近衛だったというのか。だとしたら、彼のあの忠義も納得がいく。
「いえ、私が想っている方は、帝ではありません」
「え?」
思わず変な声を出してしまった。
「てっきり・・・」
やはり、事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。であるなら、誰なのだろうか?
「それは・・・おっしゃることはできません。何かの間違いで帝の耳にでも入ってしまったら、彼は恐らく殺されてしまいます」
それはそうだ。この会話を誰かが聞いていたら、おしまいだ。胸の内にずっとしまい込んでいれば、どこからか漏れることはない。
「わかっていただけて良かったです。とはいえ、私はこの星の者ではない。いつかは月に帰らなくてはなりません。そんなとき、こういったことに詳しい人物が侍女にいたことを知りました」
「こういったこと?ですか?」
「ええ、宇宙のことやこの星全体のこと、私たちの見えないところを彼女はよくご存じでした」
そんな人物がこの時代にいてたまるか。
「その者からあのシステムを壊せば、月からの刺客はこちらに降りてこないと言われました。私はたとえ彼と結ばれなかったとしても、彼がいない世界で生きていけないと思い、彼女の言うことに従いました」
「だから、修理をされてしまうと、月の刺客があなたを連れ戻しにくるから、治すことを許していただけないということですか?」
かぐや姫はうなずくと、また外の竹林の方向を眺めた。その方向に愛する者がいるという事なのか?
正直心が痛すぎる。だが、こちらもこちらで事情がある。この星の未来。この地点からすればもっと先の未来とはいえ、大きなものを背負っている。
もちろん彼女の事情と比較するわけではないが、かといってこちらも引き下がるわけにはいかない。
「あなたの事情は分かりました。ですが、それで引き下がれるほど、こちらの事情も待ってはくれません。私は、この星の未来を救いたいと思っております」
そう言いながら、僕は両膝を床につけた。
「どうか・・・」
そのとき、ふすまが横へ勢いよくスライドする音が聞こえた。
僕はあまりにも急な出来事過ぎて、言葉を失い、破裂しそうな自分の心臓の鼓動を聞くことしか出来なかった。
「姫様!」
ん?今聞こえた声に聞き覚えがある。
「お知り合いですか?」
かぐや姫が尋ねると、声の主は全力で否定した。
「いえ、姫様。私がそのような地球外のことに詳しいからといって、なんでもそういう者と関係があるとお思いにならないでください」
やはり、彼女が声を発すれば発するほど、その聞き覚えは確信に変わり、恐怖が押し寄せてくる。
僕は声のする方を見た。
そこにはこの時代に合った服を身に付けたメイジーがお盆に湯呑みを乗せて、こちらを見ていた。
第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




