月の者
かぐや姫の一言以来、気まずい沈黙が流れている。
彼女と、その母親がいるこの部屋は、そこまで広くないようだが、不思議な絵が描かれた屏風で部屋の半分が仕切られている。
仕切られた反対側には幸い誰もいなかったが、恐らく彼女に仕えている者が、いつ急に部屋に入ってくるかわからない。
ということはその気まずい雰囲気にどっぷりと浸かっている暇はないということだ。
「失礼ですが、あなたがかぐや姫ですか?」
これで違ったら面白いが、この出立ちで違う方がおかしいだろう。
「ええ・・・」
なぜか彼女は気まずそうに答えた。
僕も正直さっきのかぐや姫の言動には違和感を感じている。
「思っていたのと違う」
果たしてそれはどういう意味だったのだろうか?
するとかぐや姫が、ハッと何かを思い出したような表情をした。
「ごめんなさい。私が発した一言で、動揺させてしまったようですね。てっきり私のように、あなたも月の者なら光を放っているのかと思ってたのですが、この星の者たちと姿があまり変わらなかったので、ついそう言ってしまいました」
かぐや姫は申し訳なさそうに、そう告げた。
先入観かもしれないが、昔の日本人・・・まぁ彼女は日本人ではないが、もっと古文の授業みたいに、難解な日本語を使ってくると思っていたが、これもメガホンレーザーの翻訳機能の仕業なのか?
僕はそんなことを考えながら、かぐや姫の言葉に異論を唱えた。
「僕は月の者ではありません。この星の未来から来た、ただの地球人です」
すると、かぐや姫は同情するような顔をした。
「あなたももしかしたら、私のように記憶を消されてしまったのかもしれないですね」
「私のように」という言葉・・・それはつまり月の使者であるかぐや姫と僕を同じ天秤で測っているような発言だ。
「今も、あなたは無意識に月の者にしかできない技をお使いになられておりますよ」
一体なんのことなのだろうか?もしかして、以前からカイやブルターが度々僕が言葉を発していないにも関わらず、僕の考えていることが通じているあの現象のことなのだろうか?
「さようでございます」
またなにも言葉を発していないのに、かぐや姫から返答がきた。
「それはあなたが僕の心を読んでいるからではないのですか?」
僕はなにもしていない。急にそんなことを言われても、実感がないのだ。すると、かぐや姫は、少し微笑んだ。恐らく今の考えも彼女に筒抜けだったのだろう。
「そうおっしゃってもこの力は月に住む者の力なのです。地球と月、それぞれの重力の均衡にさらされている我々は、その影響で繊細なまでに万物の波形を発信できるようになったのだとか」
言ってる意味が全く分からない。
「私もよくわかっていませんが、私の近くにはそういったものに詳しい者がおりまして、彼女から聞いた話でございます」
「ということは、僕も月の者と言いたいのですか?」
正直、別にもう言葉を発する必要がないような気がしてきた。
「私は、この星の者みたいに、言葉を発することが好きなので、このままこの口から発音される言葉を使って、話をつづけますね」
「どうぞ、どうぞ」
そういうとかぐや姫は会釈して、話をつづけた。
「人間というべきか、はたまた月の者かはおいておいて、あなたは間違いなく、この地球の生まれではないでしょう。その証拠にあなたの身体のどこかに、いつからかあざがありませんか?」
久しぶりに自分の背中にあるあざの存在を認識した気がする。
「はい、確かにありますけど、別に生まれたころからあったものではないです」
すると、かぐや姫はいぶかしげな表情を浮かべた。
「それは、あなた自身が気が付いていなかっただけでは?」
確かにそう疑う気持ちもわかる。だがもし本当に生まれたときからあのあざがあったのだとしたら、背中とはいえ、あんな広範囲に及んでいるグロテスクなあざに気づかないわけがないと思う。
「なるほど、もしかしたら、生まれてからそのときまで、この星の外の物に肉体が触れてこなかったのかもしれませんね」
確かに僕があざの存在を認識したのは、震災のあと。タガニウムが地球に落ちてきたとき以降だ。
「私は、この星にきてすぐ竹筒の道を通ってきたので、その時に発現したのでしょう」
「あなたにも、あざはあるのですか?」
僕は、ふと疑問に思ったことをそのまま質問した。
「ええ、お見せできるような場所にはありませんが、生まれたころからそのあざはあったようです」
ますます、意味が分からない。
「それで、確か私に頼みたいことがあるとおっしゃっていましたが?」
危なく本題を忘れるところだった。
「そうなんです。僕たちは元の時代に戻らなくてはならなくて、そのためにはあなたがこの地球に来た時のように、バンブーネットワークを使わせていただきたいのです。でも、それには月の使者の力を借りなくてはならないとうかがって」
すると、かぐや姫はうつむいた。
「やはり、そのようなことだったのですね」
「どういうことでしょうか?」
何か気分を害してしまったのか?
「いえ、そういうわけではないのですが・・・残念ながら私はあなたのお力になることはできないようです」
「それはどうしてですか?」
突然絶たれた希望を、そう簡単にあきらめるわけにはいかなかった。
「実はあのシステムは、私が拾われた時に父が斧で壊してしまいました。もし、あのシステムを使うなら、まずは修理をしなければならない」
だったら、それはダイナー星人という心強い仲間たちがどうにかしてくれると思い、少しほっとした。
だが、そうはいかなかった。かぐや姫はまだ、残念そうな表情でこちらを見ている。
「それに、あのシステムを修理できる者がいたとしても、私がそれを絶対に許すわけにはいきません。申し訳ございませんが、あのシステムの使用はあきらめてくださいませ」
かぐや姫のまなざしに、僕は背筋が凍らせた。
第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




