変異
情けなく命乞いをしたにも関わらず、土壇場で君主への忠義を見せた近衛は、最終的にティランの姿をみて、一目散に走り去ってしまった。
彼の君主は果たしてどんな人間なのだろうか?彼は姫と言っていたが、姫への忠義なのか?
僕は別に忠義が低いとは思っていない。むしろ高いと思った。そりゃあんなでかい恐竜が、竹林の暗闇からのそのそと現れたら、誰でもああなるだろう。だが、彼が提灯を置いて行ってしまったことで、どこへ向かったのかの目印がなくなってしまった。
とはいえ方向はやはり、先ほど上空から眺めていた寝殿造のあそこだろう。あそこにその姫とやらがいて、もしかしたら、月の使者の手がかりになるのかもしれない。
その時、僕はある違和感に気づいた。
それはティランの大きさだ。
太古の地球で初めて会った時とまではいかないが、十分恐竜と呼べるほどの大きさで、牙もさらに鋭くなっている気がした。
「これ大丈夫なんですか?」
ティランがこちらにじわじわと寄ってくる。もしかしたら、この時代の大気か何かのせいで、またもや恐竜たちが変異してしまうのではないかと思った。
その時騒ぎが収まり、竹や木の影からブルターたちが出てきたが、彼女たちは特に変わった様子はなかった。
「ちょっと、ティラン?」
だが、ティランはこちらの言葉が聞こえていないのか、鋭い目と鋭い牙がどんどんとこちらに近づいてきた。
すると、ラプトルの三人が腕を組みながら、呆れた表情でこちらを見ていた。
「ティラン?」
三人の呆れた口調の呼びかけに、ティランは動きを止めた。そして、本当のティランのように陽気な笑い声が響き渡った。
「ごめんごめん。なんかお前、いじりたくなっちゃうんだよなぁ」
「やめてあげて、もうそろそろ彼死んじゃうかもよ」
またもや恐竜たちにおちょくられている。
「でも、どうして?」
正気ではあるようだが、明らかに体は変異の兆候が見られている。
するとアルが、錠剤のようなものを取り出した。よく見ると緑色の、動物園の鹿の餌に見える。
「変異を抑える薬と同時に、緊急用にこういった、逆に少し自分たちを変異させる薬も開発してみたんです」
「何せ我々、元々は非力な種族ですから」
アルの説明をデルが補足した。
「とは言っても、この後の戦いにしか使うつもりないんだけどね!」
ブルターはそう言いながら、ティランを睨みつけた。
「だってこんな薬、使うなって言う方がおかしいし、それにあの時はその緊急事態なのかな?って思って」
ティランはまるで子供のように振る舞っている。
「なるほど、多少の知能の低下は見られると言うわけですね」
アルはそう言いながら、メガホンレーザーに何かをメモしているようだった。
すると、さっき近衛が走り去って行った方角が何やら騒がしくなってきた。
見ると無数の灯りの群れが、じわじわとこちらに近づいているのが見える。どうやら、奴が逃げ帰ったことにより派遣された増援達の提灯の灯りのようだ。
「あらま」
「ティラン一人で大丈夫かしら?」
その時、再びどこからともなく声がする。
「お願いです、」
またさっき聞いたあの声だ。
「お願いです、私をここへ留まらせてはいただけないでしょうか?」
一体誰の声なのだろうか?
「私は、この世ではかぐや姫と呼ばれております。あなた方がこの世に私を送った時に、記憶を消してしまったので、本当の名前は分かりません」
なんと、謎の声から返答があった。しかも、かぐや姫といえば、あの有名な竹取の翁の物語ではないか?
「竹取物語?一体なんの話をされているのでしょうか?あなたこそどなたなのでしょうか?」
どうやら、意思疎通ができるようだ。
「私は今、月の者に訴えるために、このような力を使わせていただいております。あなたは月人とは違うのですか?」
どんどんと提灯軍団がこちらへと向かってきている。
「提灯軍団?もしかして、あの方の・・・やはりあなたは・・・」
「いえ、月の者ではありません。逆に僕たちは月の使者を探しております」
「恐らくそれは私のことでございますわ。私はこの星にある物を探すために馳せ参じたようなのです。まだ記憶が完全に戻っているわけではないので、詳しいことまでは分かりませんが」
レチウムのことなのか?
「なぜそのことを?」
「僕は月の者ではありませんが、この時代の者でもないんです。あなたの力をお借りしにこの時代へ来ました」
「もしかして、あの竹の?」
もう提灯軍団はすぐそこだ。
「分かりました。それでしたら、一度お会いしとうございます。私は恐らくあなたがいる場所からそう遠くない位置にいるでしょう。その近くにとても広い寝殿造の建物があるかと思います。その一番奥の間に、この世での母君と一緒におります」
「分かりました、それではそちらへ向かいます」
「道中お気をつけて」
「ねぇ、誰と話してるの?」
急にブルターに話しかけられ、奇声をあげてしまった。
「で、その姫様はどこにいるわけ?」
「聞こえてたんですか?」
「君の声だけね。でもその返答は聞こえていなかったから、結局どこへ行っていいかわからなくて」
提灯軍団がいよいよ目の前まで近づいてきた。
「やはりあの建物群に姫がいるみたいです」
「だったら、話は早わね。船で行くわよ」
いやいや、そんなことをしたら、彼らはますます過剰に反応してしまうかもしれない。
「だったらどうしろっていうのよ」
「僕が一人で行きます。多分、この建物の護衛のほとんどが、今こちらに向かっているでしょうから、逆に侵入するチャンスだと思うんです」
だが果たして、そううまく行くものだろうか?もしかしたら、いざ近くに行ったら、もっと護衛がいるかもしれなかったが、船で上空から侵入するのを、彼らに目撃されるよりはマシだろう。
「分かりました。それでしたら、メガホンレーザーのこのボタンを押してみてください」
デルに言われた通り、メガホンレーザーの押したことがないボタンを押してみた。
まさか、こんな機能があったとは知らなかった。
第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




