ロケットパンチ騒動!④
『発令する! 敵影発見! 総員持ち場に着け!』
「坊主、嬢ちゃん、思いっきりぶちかましてこい! 棺とパイロットスーツの整備は俺たちがするからな!」
二都望から送り出される。
「メカ・エリナの活躍見たかったのに……!」
「勝たぁいつでも見せてやるよ!」
「約束ですよー!」
陽給が手を振る中、柞磨は強気な笑顔を見せて持ち場へ着いていく。そんな中、似都望が「あ!」と声を上げた。
「パイロットスーツ、外に干したまんまだ!」
「え、そんなアナログなの!?」
◆
まだ慣れない真っ赤なスーツ。本当に今日も着ることになってしまった。
「お待たせしました、火動さんのスーツです」
ドッグから裏庭まで全力で往復してきたというのに、マリーゼは息をまったく乱さず帰ってきた。きれいにたたまれたスーツの隣には、量産機の画像が置かれていた。昨日も見た写真と、詳細に書き込まれた図面である。
「詳細に描くことで、巨神はより力を発揮します。前回はまだ始めたばかりで図面はハードルが高かったでしょうが、2回目ならば」
そして。
「もっと慣れてきたら、火動さんの好きなロボットもレクリエイトすることができますよ」
「……考えとく」
返事をおざなりに。自分には量産機の方があってるのではないのだろうか。装備も充実していて動きやすく、何より火動にとって初めて触れた巨大ロボットだ。
思考もそこそこにスーツを手に取る。マリーゼは微かに微笑み、その場を出て行った。
手早く着替え、棺に入る。量産機の設計図は昨日よりも頭に叩き込んだ。
思考を挟む余地はないが、それでも考えずにはいられない。
かつてこの棺をしようしていた、父かもしれない男、ヴァース。誰も彼の素性を知らず、最後には謎の失踪を遂げた。ファーレン所属の天才メイカー……ということしか分からない。
顔も、声も知らない。なぜ世界中で暗躍していた組織に力を貸していたかも分からない。
どんな人間だったのだろう。
◆
真宮市は山に囲まれているので、必然的に攻め込まれるのは山中になる。
『敵影1体。ロケットを搭載しています!』
「遠距離攻撃だね! 私たちもロケットパンチ!」
陽給は操縦桿についているボタンを押した。ハンドルの頂点、いかにもパンチが出そうな箇所である。
低い駆動音が始まる。ワクワクしながら振動に身を任せた。ロケットパンチなんて巨大ロボットの醍醐味だ。さて、どんな派手なものが見られるか……!
機体が上に上がった。
10m飛んだ。
落下した。直立不動で。
それだけ。
「……」
『どうした、陽給?』
『唐突に急浮上したが、操作ミスかね?』
「……」
恥ずかしさで赤くなる顔と、そして迫る敵で滴る冷や汗。
「ひ、火動ー! ロケットパンチ出して! どこにあんのー!?」
幼馴染みに声を掛けたが、返ってきたのは沈黙だった。嫌な予感がする。これはまさか……。
『……ロケットパンチって、なんだ?』
「そっからかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
陽給はコックピットの中で咆哮した。
「あれ! ほらあの! バクダーンマンも使ってたプッシュのすんごいやつ!!!」
『言われても思い出せるかっ!』
「おーもーいーだーすーのー!!! そこをなんとかっ!!!」
叫ぶが、良い返事は返って来ない。
『火動君、思い出が無理なら図面だ! 拳にそういった機構があった!』
「そんなものがあったのか?!」
ええと、整備斑から見せられていた図面では、拳に……何かあったはず……!
思案していると、激しい振動が棺を揺らした。
『ぐわーっ!』
「っ……!」
『被弾しました! 損傷は軽微!』
陽給の悲鳴だか絶叫だかなんだかが聞こえてくる中、思い切り体勢を崩す。前回目を回して倒れ込んだ、なんていう衝撃ではないのだろう。
棺の中は緩衝材が貼られているとはいえ、長方形のハコに詰め込まれているわけなので痛い。
棺の中から一瞬見えたのは、魚のようなシルエット……ロケットだ。前回のように追加空想している余裕はない。
その上、覚えるのを忘れていた動揺が思いのほか被さってくる。どうしてロケットパンチを認識から外していたのか。これは自分たちの命がかかっているのだ、テストの山を外したよりも遙かに重い。 思い出せ、図面!
前頭葉に力を込めるが、脳裏に浮かんだのは、何故か荒野だった。
記憶再生今じゃない!!!!!
後悔と怒りで頭がぐるぐるする中、陽給の声が響く。
「いける! きっと数学5の火動ならどこかで覚えて実現化してるはず!」
『……』
そんな成績取った覚えはない! けれど否定している状況でもない!
無意識に、棺の壁を握り締めていた。冷たい感触だけが、指に伝わる。
外では次々と飛んでくるロケットを、目打ち! 目打ち! と叫びながら陽給が必死に避けていた。遠くから、正確に飛んでくるロケット。
パンチ。拳なら、手……。
もしやロケットパンチとは、ロケットのように拳を飛ばすものなのでは?
「……!」
微かに思い出した。コックピットから肘部分にかけて、赤い線が繋がっていた。赤が導火線だとしたら、発射する機構に繋がっていてもおかしくない。
その線の先は……!
「陽給! 操縦桿の根元を押せ!」
『りょーーーーうかーーーい!!!!!!!!!!』
◆
陽給は大きく飛び退き、操縦桿の持ち手を探る。そこには火動の言う通り、スイッチがあった。押すと、スクリーンに『ROCKET PANCH』のゲージが現れた。
「やるじゃん、火動!」
ゲージが溜まっていく。グゥゥゥゥンという低く小気味の良い音が響き渡る。これで間違いない!
「いっけぇぇぇぇぇ!」
咆哮と共に手を離す。間を置かずして、肘から勢いよく火花が噴き出す。やがて炎となり、本体から離れてすっ飛んでいった。
遠くで爆発が起こる。敵機体は炎に巻き込まれ、見えなくなった。
「どーだ! 実在したろ、ロケットパンチ!」
ほんとにあったんだ、それ。
火動は大きく息を吐く。
「やー、終わった終わった……」
陽給の安心した声。今回も無事に帰還出来た……そのはずだった。