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レッドグロウ、発進!④


 やべー事態になった。


 どういう機構だか、棺内部にいる火動に振動はない、影響もないが、どこからか聞こえてくる陽給の声、そして外の様子は逼迫している。


 このまま何もせず見ているわけにはいかない。何か、何か武装はないか。


 こんなことになるんだったら、もう少しゲームセンターなりゲームなりしておくべきだったいやこんな事態まず想定できない!


 しかし、着実に足音は迫っている。脅威という名はすぐそこに。


 ……一つだけ思い出した。


 陽給に誘われて、ほんの数分プレイしたレトロテレビゲーム。爆弾魔が爆弾を自在に生み出すスーツを着て戦うゲームを。

 

『陽給、聞こえるか!』


「き、聞こえる……」


 火動は陽給に、作戦を提示した。一か八かだったが、彼女は素直に頷いてくれた。


「分かった、やってみる。そういやそういうの、昔やってたよね……」


『お前はタイミングを見てくれ。俺が生み出して、お前が行動するんだ』


「りょーかいっ! ……ちょっと嬉しいな。覚えててくれたんだ」


『……あんなインパクトありすぎるゲーム、忘れられないだろ』


 いつもと違って柔らかい陽給の声。こんな状況ながらむず痒い感じ。敵はあと20m。もう目の前だ。


『陽給君、早く逃げたまえ!』


「大丈夫です司令官! 私達、考えがあるんで!」


 一瞬の沈黙の後、分かった、と聞こえた。


『君たちに任せよう! もう君たちしかいないものでな!』


 目の前の壁に手を当てる。空想がよく伝わる保証はないが、一か八かだ。


 あの時の、幼いときの思い出を回想する。


 ◆


『このロボットをね、こなごなにするんだよ』


 コントローラーを操作し、幼い陽給は半壊したロボットの上に……。


 ◆


 敵機体は突如もがきも動きもしなくなった機体へ、ナイフを振り上げた。狙う場所は胸部。棺が収められている場所だ。


 途端。


 機体の腕から、爆弾が飛んできた。予備動作無し。まるでたった今生み出されたかのように。


 ばくだん。


 丸くて黒い、よく見る爆弾。


 投げられたそれは、敵機体の足元に転がった。導火線は既に根元。


 理解ができないまま、それを見つめる。蹴る暇もなく、爆発した。


 ◆


「ばくはーつ!」


 爆風にさらされる。だが直前で全力で退避したおかげか機体の頑丈さか、熱風と言うものは感じない。だが、コックピットでは台風もかくやという強風が飛んでくる。陽給の髪もばさばさとなびく。コックピットと機体の状況は、ある程度同じなのだろう。


 ともかく、今は勝利を祝うとき!


「私たちのー、しょうりーっ!」


 陽給は思いっきり右拳を蒼天に掲げた。


 夏の太陽が、勝利を祝福していた。


 ◆


『敵機体の沈黙をインジケータで確認。非脅威対象に設定します』


『よくやった! 約束通り牛丼を奢ってあげよう!!!』


『特盛頼むね!』


 能天気な声を聴きながら、火動は全力で息を吐いた。ここが棺という立つしかない場所でなかったが、座り込んでいたくらいだ。さっきまでアドレナリン全開だった反動で、非常事態が身につまされる。あの持っていた槍が刺さっていたらどうなっていたのか。あんな戦いを、父は行っていたのか。


 ……正直もうやりたくない。けれど、それ以上に父に対する興味と、負けん気が湧いた。


 顔も知らない親には負けられない。


 陽給さえ了承が取れれば……最も、あのテンションじゃあ取るのも楽だろうが……。


 巨神本部へと帰還する。


『火動君。機体を解く空想をしてくれ』


「え、私落ちない?」


『あぁ。そこはそっとほどく想像をしてくれな』


「……ここも空想頼りか……」


 できるだけ、そう、子犬を地面に降ろす時のように、優しく。


 無事コックピットから降りたらしく、陽給が息を吐く声が聞こえてくる。


「ぷはぁ……降りるときが一番緊張したかも」


「……頑張るよ」


 機神が消えたためか、棺の前方を押すと扉は開いた。再び蝶番の軋む音。発進したときと同じ格納庫に出る。棺の中で見ていた時よりも、油の匂いを強く感じた。


「お帰り、2人とも。無事の帰還を祝おう」


「……どうも」


「じゃんじゃん褒めてねー!」


「あぁ! 牛丼どころかステーキでもいいくらいだ!」


「すてーき!? いやっほぅ!」


「しかし火動君。よく追加空想機構を実現した。まだ解説していなかっただろう」


「追加機構?」


「有人機には追加で武装を生み出す機能があるのだ。それも生み出すには数分はかかる。それをあの一瞬で……これも才能というものかな」


「……そうか」


 短く答える。しかし、少し嬉しかった。


「それにしてもすごかったー! いやー、一生に一度はない経験だったよ!」


「……元気だな、お前。こういうのに乗ったら、困惑しないのか」


「チョー面白かったし! 武器は怖いけどさ! アトラクションも真っ青じゃん!」


「……楽観的だな」


 昔からそうだ。


 ハチの巣を突いた時とか、「ハチさんこんにちはー!」なんて元気マンタンに挨拶して、慌てて自分が引っぱっていったっけ。


「それでは。明日も頼むよ、火動君」


「……明日?」


 ……先ほど親には負けたくないと言ったが……これを、毎日?


「今まで乗っていた人たち大喜びしてるよ。今まで勝つのが精いっぱいだったんだって」


「……えぇ……」

 

 思わず嘆きの声が洩れた。


「やろうぜ火動! 私たちなら、毎日だっていいコンビになれる・ぜ!」


「……頼む」


 彼女と一緒なら、まぁ大丈夫だろう。陽給の笑顔を見ていると、そんな気分にさせられてくる。こんな状況でも能天気に宣言する、無邪気な雰囲気に中てられたのかもしれない。


 右手を挙げる。すぐさま、陽給の左手が重ねられた。

これにて1話目完結です!

次回からは2話が始まります! これからもよろしくお願いします!

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