表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/69

君のためにできること②

 西園寺京子は、パイロットスーツに身を包んだ。色は灰色。灰とは、無の色。個性などいらない。ただ効率さえあれば良いのだ。


 目の前の量産棺は、整備を終え、既に灰色のスーツを着たアマテルの少年が乗っている。ファーレンの洗脳を受け、盲目的に従うよう命じられている。今の指令は、指定する巨神を葬ること。それがかつての愛機であったとしても。


 ファーレンの棺に対する技術は、汎用性に特化している。人工棺に特殊な加工を施し、1人1棺の前提を覆している。


 名前など覚える必要は無い。ただの巨神を作り出す一部でしかない。伝説的メイカー、ヴァース・ハイエットの写し身。潜在能力はヴァースを超えると期待されている。既に図面は睡眠学習で読み込ませ、ファーレンと京子が扱いやすいよう調整されている。


「……貴様、私に従わないならば。分かっているな?」


『……』


 洗脳薬『ナウシズ』を投与された少年は答えない。ディールによると事前に精神的ショックを与え、より操作しやすい状況にしている。


 しかし、それだけでは不確実だ。一般兵に対しては万全だが、相手はヴァースの写し身だ。棺に入れば何が起こるか分からない。既にメイカーでありながら巨神を動かした事例がある。


 少年が万が一にでも目覚め、京子達の意に反することがあれば。


 電子刺激にて反抗の意を消すのみ。最大出力でも死ぬことはないようにしているが、それでも意志を折るには充分。


「せいぜい活躍を期待するぞ」


 目を閉じる。巨神が形作られ、慣れたコックピットが顕れていく。



 ◆



 棗は見ていた。


 ヴァースのクローンである少年がナウシズを入れられ、棺に自ら入る場面を。


「……」


「棗様。出撃要請が出ております」


「無視しろ」


「ですが、ファティア様からの直々の指令。拒否すれば……」


「聞こえなかったか?」


「……いえ」


 神薙は静かに首を振った。


「しかし、ディール様含め上層部に、なんと」


 棗は何も言わず、神薙に手招きする。彼女は首を傾げながらも彼の側へと寄った。


「もう少し寄れ」


「は、はい」


「もっと」


「はいっ!?」


 これ以上寄ると、肩と肩が密着してしまう。それどころかお尻と、身長差で太腿が密着してしまう。これは大変なことである。


 だが、相棒は冷徹だった。耳元で囁かれる。


「アマテルへ行く。抵抗するならば、貴様を殺す」


 それはつまり、ファーレンへの裏切りということで。


「さすが。判断が早うございます」


 脅しが上っ面のものであることは見抜いていた。例えヴァースという逸材がいても、棗を失うのは惜しい。殺すくらいなら、一度でも自由にさせる道を選ぶだろう。


 何故もう少し早く実行しなかったのか。恐らく幼体固定処理の所為に違いない。


「……神薙。辛くはないか」


「むしろ……こう、その、棗様とくっついているので、幸せ、かと……」


「……」


 育て方を間違えたか。頬を赤らめる相棒を見て、棗は本気で思った。確かに以前の乙女から、戦火に耐えられる存在に仕上げたが、こんな時に浮ついた回路を発揮することは教えなかった。


「棗様が、私を刺すはずがありません。例え刺されたとしても、貴方様の意志に殉ずることができるのならば、私は幸せです」


「……再教育だ。俺が奴との決着をつけた後は覚悟しておけ」


「はいっ!」


 だから幸せそうにするなと何度も。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ