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レッドグロウ、発進!③

 視界が闇に包まれている中、足の下に、周囲に確実に何かが出来上がっていく。硬いかと思えば意外と柔らかく、応接室の絨毯のような。


『もういいぞ、目を開いてくれ』


「……うわぁ……!!!」


 視界いっぱいに青い空が見えた。それはよく見れば巨大な映像であったが、すぐ目の前にあるかのような鮮やかな再現度だった。


 こんなのアニメか漫画の中でしか味わえない。どんな配信者でも味わえない境地に陽給は居るのだ。


 興奮に体が震える中、眼前の画面に淡いオレンジ色で『ENGAGE』の文字が現れる。ENGAGE……繋がり。きっとこの機械も、陽給をパイロットとして認識したのだろう。


「すっごい! すっごーい!!!」


『感激結構! 存分に堪能してくれたまえ!』


『司令官、敵の存在忘れてませんか』


『まずは巨神の壮大さを感じてもらうところだ! 貴重な女手なのだからな! あと、電線に配慮する必要はない。一定以上の細さ・小ささのものは透過する形式になっている!』


「はーいわーい! でっかーい!」


 スピーカーから聞こえてくる2人の声に頷くのもそこそこに、でっかくなった自分を堪能する。よく分かんないけど、今の陽給は最強だということだ!


 巨神は陽給の思い通りに動く。手はレバーを操縦、足は専用の嵌める場所があり、動けばその行動を忠実に再現する。司令官の言っていたとおり、初めてでも問題ない操縦心地だ。


 巨神の手足を見ると、鮮やかなレッド&オレンジの最高にハイな色合いだった。


「何この色! オッシャレー!!!」


『火動君のセンスだ、実に良い』


「……思い浮かんだのが、それだっただけだ」


 照れたような、ぶっきらぼうな火動の声がどこからか聞こえてくる。巨神の内部から響いてくるようだ。彼は言わなかったが、起動の際、脳裏に浮かんだのは互いのスーツの色だった。


『陽給さん、はしゃぐのはもうそこまで。敵が迫ってきています』


「あ、そうだった」


 忘れていたとは言わせない。本部や真宮町を壊そうとする輩は許せない。ばちっとお仕置きしてやる!


『言っていなかったが、火動君の発現した機体には陽給君しか乗ることができない。代わりは効かないのだ、そこを覚えておいてくれ!』


「えぇ!? 責任重っ!」


 つまり、文字通りぶっころす気で戦わなければならないのだ。


『はぁ!? 先に言えこのオッサン野郎!!!』


 どこからか火動の声が聞こえてくる。


「まぁそこは町を守るためなら些細なこと!」


『些細なことで流すな!』


『突撃ー!』


「突撃ぃー!!!」


 こうなりゃ出たとこ勝負だ。ケンカはしたことないけれど、格闘ゲームは得意だからいけるはず!


 ◆


 陽給はすっかりその気で乗っている。自分が不安に思っている場合ではないというのは理解できる。こうなればパイロットの、陽給の腕に任せるしかないのだ。


 巨神が発現したからか、棺の中は周囲の景色がぼんやりと映し出されていた。こうやってパイロットとメイカーは同じものを共有するのだろう。


 ◆


 戦闘音は近づく度に激しくなる。


『見えますね、陽給さん。あれが私たちの敵です』


「あれが……」


 見ると、自分たちと同じ形の機体が戦っていた。それと取っ組み合っているのは、似た形のロボット。人型であることは共通しているが、細部が違う上にカラーは灰色のみ。量産機でさえモノクロではあるのに、と鼻を鳴らす。色合いなら、私たちの機体が負けるはずがない!


柞磨(たるま)さん、聞こえますか。応援が到達しました、戦闘を解除して下さい』


『了解!』


 量産機が離れていく。敵機体のワイヤーフレームが、陽給達を見据えた。無意識に唾を飲み込み、コントローラを握り締める。


 納言ちゃんは言ってた、そして両親も言ってた。


 ピンチの時こそ考えるな! 働かせ第六感! 信じろ人間の底力!


「よっしゃー! かかってこーい!」


 陽給は走ると飛び上がり、敵機体にドロップキック! 敵は大きく仰向けに倒れる。


「見たか! 私の実力を!」


『陽給さんの実力というよりも、火動さんの製造能力が高いんですねー』


「細目メガネうるっさい!」


『マリーゼですよ。あと、敵はまだ元気ですからね。起き上がり攻撃に注意してください』


「え? ……ひやぁっ!?」


 さっきまで頬があったところに、ナイフが通り過ぎて行った。反射的にナイフを持った腕を掴む。こんな凶器、怖すぎて押さえるしかない!


 だが。


「うにゃーっ!?」


『うわっ!?』


 相手の力は想像以上に強かった。腕を掴まれたまま、陽給達の巨神ごと回転し始めたのだ。コックピットは回っていないが、モニターに写される景色はぐるぐる回る。超スピードで流れ、形が崩れ、色だけになり、兵器の三半規管がぐーるぐると。


「め、目が回る……」


『な、なんとかしろ陽給! 踏ん張るとか!?』


『陽給君、腕を……』


「離すっ!」


『待、』


 離したら飛んでいった。


 考えるもなにもない。単なる遠心力である。敵が遠くなるくらいにまで吹っ飛んだ。


「ふ、ふらふらする……」


 陽給は頭を押さえる。脳がシェイクされて操縦どころではない。


 動けない機体に、敵機体が近づいてくる。ナイフが尖り、機神を抉ろうと迫ってくる。

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