甘味と冷徹①
「分かんないかなー」
「分かんねぇよ」
頬を膨らませる陽給を押し退ける。彼女のスマホ画面には、華やかなタワーの風景が。
「東都タワーに! 行きたいの!」
東都。真宮町から電車で約2時間のところにある大都市である。1年前、旅行用具は早めに揃えて置いた方が良いという祖母の提案から、修学旅行用のバッグを買いに行った。それきり訪れていないが、ごってごてした、人が多いだけの町だった。そう火動は記憶している。
というか、電車で2時間とかダルすぎる。
「火動も行けば楽しさが分かる! ここ! 18階の……」
展望台でもあるのだろうか。景色を見たいとは驚いた。
そんな殊勝な願いなら、付いていって良いかもしれない。夏井の采配もとい警備の観点から、真宮町から1時間以上離れた場所に行くときは、できる限り2人行動するよう命じられていた。火動としては行動を制限される命令は嫌だったが、先日のようにサーチホークとやらで家の中まで調べられた前科がある。ジャン曰く家にバリアを貼ったそうだが、真宮町ではない場所の監視もとい監視はできないと言われた。
「こんにゃくタピオカ生クリームMAXコットンパフェマリトッツォ! 食べてみたいんだよねー!」
「そこか」
食い気だった。スワイプした画像では、陽給の好きそうな色で埋め尽くされたパフェなんだか造形物なんだかオブジェなんだか分からないものがグラスに入って鎮座している。
「俺は行かないぞ」
「えー、美味しいよタピオカ生クリーム以下略! 火動、ひょっとしてマリトッツォまだ食べたことない派? もったいねー! 行こーよー!」
「嫌だ」
「もー! 分からず屋ー! 今食べないといつ食べれるかも分かんないんだぞー!」
「甘いものならいつでも食べられるだろ……」
「タピオカもコットンキャンディーもマリトッツォも流行り物! 今を生きるナマモノなんだ! 足が速いから油断してると次世代の流行に去っちゃうんだぞー!」
わけのわからない持論を言いながら、陽給はスマホをぶんぶん振る。音声入力が起動したのか、ひたすら『聞き取れません。再度聞き取れません入力……』と機械音声が鳴り続ける。
めちゃくちゃうるさい。
眉をしかめたとき、出撃のベルが鳴った。




