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混戦! 夫婦コンビ&美少女コンビ!?①

 甲原紺乃は夫人である。


 特売野菜を買い、肉の安売りを待ち、17時に割り引かれるスイーツを手に舌鼓を打つ、ごくごく普通の夫人である。


 パート勤めが終わり、友達夫人と井戸端会議。


 と。電子音が鳴った。スマホには似つかわしくない、耳障りとも取れる電子音だ。


「……あら」


 甲原夫人の表情が、一瞬固くなる。


「私、行かなくちゃ。またね、長田さん、飛鳥さん」



 ◆



「では、よろしくお願いします」


 甲原帥人は勤め人である。営業部の営業人。この道は20年近い。


 しかし、さる特殊な事情で業務から抜けることを認められている。耳障りな電子音に、彼は帰社しようとしていた足を止めた。


 夫人と同じ音である。


「……来たか!」


 その横顔は、不敵な笑み。スマホを取り出すと、会社へ連絡。


「社長! 特殊業務のため直帰します!」


 ◆


 甲原ヒロは小学生である。


「パチー! こんなとこでイヤがらないでー!」


 視線の先には顔をこれでもかと首輪に埋める拒否犬。普段は両親どちらかと行くのに、ヒロ1人で行くと必ずこうなるのだ。


「パチめ、人を見てるな! 僕だって強いんだぞ!」


「(つーんっ)」


 紐を引っぱるが、かといってパチの首をむんぎゅと締めるわけにはいかない。その迷いを知ってか知らずか、パチはいよいよそっぽを向き、イヤーッという態度を崩さなかった。


 と。轟音が空を揺るがした。青い空を背後に飛ぶ、茶色と紺色の機体。


 通りがかった低学年の子達が巨神だ巨神だと見上げる中、ヒロは眉を寄せ、小さく呟いた。


「……またやってる」


 ◆


 甲原夫妻はメイカーとパイロットである。


 勤め人とメイカーの両立は確かに厳しい。年による体力の低下、周囲への配慮、日に日に怪しくなる息子からの視線。けれど辛くはない。小さい頃から夢見ていた巨大ロボ、それを自分は生み出しているのだ。登場しているのが愛する妻ならば尚更だ。息子はこの事実を喜ぶかもしれないが、巨大ロボで向かうのは戦場だ。危険なことには巻き込めない。


 例えパイロットスーツを入れていたタンスが閉めておいたはずなのに、ヒロ1人の留守番の後うっすら開いていたとしても。


「紺乃。今日は疲れてるだろ、ピザ頼もうぜ」


 これくらいならば、ヒロの前で話しても大丈夫である。


 妻はウィンクを返し。


「大丈夫よ。簡単なものは作れるから」


「全く……頑張り屋だな、お前は」


「あなたこそ」


 どことなく、ヒロのややこしい年頃の視線が刺さるが、些細なことだ。


「ほら、パチはリビングへ行け。ここにお前のメシはないぞ」


 ごはんは? と先ほどドッグフードを食べたパチはしっぽを振った。


 妻は、ヒロに聞こえないほどの小声で付け足す。


「私は満足よ。あなたが望む、正義の味方をやってるんだから」



 ◆


 ヒルメザキビル503号室において、炊事洗濯風呂買い出しは交代制。家族みんなで家事をやっていた陽給には、変わらぬ生活ということである。日曜日だけ業務スーパーでたくさん買い込み、2人で持って帰る。


 アマテルからお金は出ているが、それだって湯水のように使い込んで良い訳がない。基本的には質素、及びシンプルに。半額のものがあれば買い、安くて良いものを探す。


 学生ながら、既にひとりの主婦である。本人は気付いていなかったが。


「あ、このスイーツ半額! 買っちゃお!」


 火動には内緒で。


 陽給はワクワクと、生クリームGIGAMAXプリン398円半額に手を伸ばす。だが、プリンにもう一つの手が重なった。シンプルな金の指輪をした手だ。


 顔を上げる。そこには、40代くらいの女性がいた。わずかにウェーブさせた肩までの髪、シンプルなサマーニット。指輪からして主婦だろう。陽給と同じく、今晩の買い出しに来たに違いない。


 という間も、女性は手を離さない。


「……」


「……」


 主婦は離れない。


 陽給も離れない。


 なんとなくプリンから手を離せず、離したくなく、互いに笑顔を浮かべる。


「家に食べ盛りの……友達が待ってるので……」


「私も夫と息子が待ってるのよ……譲ってくれないかしら……?」


 再び、沈黙。


「……それじゃ、ジャイケンで決めましょう。ジャイケン……って逃げたー!?」


 女性がパーを出した途端、陽給はプリンを持って逃走した。


 

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