賢者登場!④
「……え、すぐそこ?」
嘘だろ?
陽給を呼ぶどころか、棺に行く余裕すらない。
「緊急措置を許可する! 総員配置につけ!」
間もなく、轟音を上げて、砲撃らしきものが敵兵を襲う。
「陽給に連絡する」
スマホを取り出し、発信。だが、彼女は学校にいる。創立記念日だが部活はしっかりとあり、これまたどこかで体験入部しているはずだ。生徒たちだけの空間ならまだ繋がる可能性はあるが、顧問が近くにいる場合、電話には出られない。案の定、何度コールしても応答はなかった。
とにかく格納庫に行こうとした時。
「僕に任せて! 火動はそこに居て良いから!」
「お前に任せて、って」
司令が現れる。
「そうだ。賢少年、来て早々だが一働きしてもらおう」
「はい」
「こちら、用意しております」
ガラゴロと、重いものが運ばれてくる。白い陶磁器。緑に輝く猫足。……つまり、バスタブ。
「……なんで風呂?」
「賢君は賢者と呼ばれる者だ。特殊な装置を介して巨神に繋がり、彼らを把握し指令し集合させる。敵組織からの攻撃は激しくなる一方だ。戦力を強化しておいて損になることはない」
「それと風呂と、何の関係があるんだ」
「入るんです、僕が」
「は?」
呆気に取られているうちに、賢少年は靴下を脱ぎポロシャツを脱ぎ半ズボンを脱ぎ瞬く間にキャストオフしていく。無論青いトランクスも。そして腰布代わりの白いタオルを巻き。
入浴。
NEW YORK。
そんなどうでもよすぎるシャレが柄にもなく頭に浮かんでいる最中も当然、敵兵への攻撃は続いている。轟音も。
「……」
「驚くのも無理はない。巨神に関わる賢者はこうして索敵・操作を行うのだ。浴槽下の端末から本部CPUにつなぎ、操作するのだ」
「……」
「古くは黄金を測る方法を発見したエウレーカに繋がり、特殊な風呂に入ることで精神を活性化、水から電子を操り、あるいは製造者と類似する御柱となり……」
「……いや、もういい」
「ほら、あれですよ。やりすぎたサイキッカーが、自分の脳味噌をホルマリン漬けにして強化する、ってやつ。あの人間版ですよ」
「やばいものに例えるな」
なんとなく理解できてしまった自分が嫌すぎる。
そんな外野の苦悩は全く関せず、賢はバスタブの縁に、件の機械『レーヴキー』を取り付けた。
ドッグが緑色の輝きに包まれる。光は巨大化し、やがて5体の巨神が現れていた。先日見た柞磨の巨神とは違い、全て量産機である。
量産機は発進。敵兵を囲み。
ぼっこぼこにし。
機能を停止させた。
まさかの力技。
「ほら、僕、格闘ゲーム苦手で……力こそパワー、っていうか……」
モゴモゴと賢少年が言う。
ともあれ、助かったものは助かった。
「来たよ! なんかでっかい機械が倒れてたけど、終わった!?」
遅い、と言おうとしたが、これでも早い方だろう。
「あぁ。顧問を通じて連絡したが、来てもらって悪かったな」
「だいじょーぶです! やっぱ部活は考えとく、校庭30周した後は栄養ドリンク飲まないと巨神に乗れそうにないよ!」
お前何してた。
陽給の動向が何にせよ、勝利は勝利である。
「それじゃ行きましょっか、司令!」
「あぁ!」
2人はどこかへ行くらしい。自分は賢の歓迎会に顔を出そうかと考えていると、陽給に腕を引っ張られた。
「一体何だ」
「私の家で歓迎会するんだよ! 昨日火動が作ってたの見て、私も作りたくなったのさ! 家庭のから揚げというものを教えてやる! レモンにマヨにタルタルソース! なんでもござれ!」
「お前の家であるとともに、俺の家でもあるんだが」
ひょっとしてサプライズというのは、火動の家で行うということだったのか……!?
「カタイこといいっこない! 賢ちゃん、行こっか!」
「うん、ありがとう! これからもよろしくね、2人とも!」
賢は笑顔を見せ、火動と陽給の手を握った。