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爆夏な日々④

 なんだか家に陽給がいるのが落ち着かなく、学校の帰りに本部へと寄る。昨日のアニメについても聞いておきたい。


 似都望は言った。


「好きなロボを脳裏に描く。それが一番スね」


 いやその好きなロボットがない。言おうとすると、野田が言う。


「何か好きなものはないのか、少年? お前さんの年齢なら、あのダンガムはやってたよな?」


「見てない」


「面白いのに……俺は見たぞ、ミタゾノのダンガム」


「まぁ、鉄でできてりゃなんでもいいやな。機械だったらメカ・エリナでもレモン絞り器でもいいんだから」


 ……メカ・エリナとやらはともかく、レモン絞り器を投影した奴は、どうやって勝利を収めたのだろう??? レモンを絞る、そもそも専用の器具があるのか?


「でもなぁ、チョイスがなぁ……どう見てもメキシカンの方が強いだろ。銃たくさん持ってる描写があんだけあったってのに」


「?」


「ふむ。苦戦しているようだな、火動君」


「……」


 整備斑の訳分からないトークに困惑と呆れを感じていると、いきなり番匠が現れた。


「焦ることはない。直に君専用のロボットは見つかるだろう。ともあれ、参考までだ」


 言いながら、番匠は一台の端末をこちらに渡した。画面には3Dモデルが映されていた。巨大ロボ……巨神だ。


 黒い機体だった。間接の要所と胸部、肩に金色の飾りが付いている。


「飾りではない。武装の一種だ」


 思考を読まれた。


「特に胸部の黄金部分は極大ビーム。これにて敵を一掃していた。ビームの強さは妄想の強さに直結する。ピーターは余程、己と巨神を信じていたのだろうな」


 3Dモデルを背後へと回す。背中には、赤い棘か槍のようなものが7本組み込まれていた。再び正面へと回る。赤い棘は、まるでクモのようにそれぞれの方向へと伸びている。以前見た荒野を思い出す。あの空の下では、まるで空を裂いたかのように見えただろう。……どことなく、自分の好みではない気がした。


「正直言って、好きじゃない」


「そうか。この話題は前も聞いたな。すまない」


 番匠はそれ以上何も言わず、返却された端末を受け取った。てっきり反論されると思っていたため、あっさり頷かれると、驚きが先に来る。


「断った俺が言うのもなんだけど、同じ棺を使ってる以上、同じモデルの方が良いんじゃないか?」


「同じ棺でも親子でも、乗っている人間が違う以上嗜好は違う。強制されたものより、自分の好きなものを空想する方が何倍もいいさ。技術的な面で言うと、やはり細部の艶が違う」


「……しばらくは、量産機で行く。あれが一番慣れてる」


「分かった。君の解答なら、尊重しよう」


 ……ウィンク似合わないぞ、40代。



 ◆



 次の日。


 陽給が転校してきた。


「はーいっ! 陽御崎陽給っていいまーす! みんなよろしくー!」


 やたらとハイテンションな自己紹介に、まばらな拍手が起こる。エアコン以外の風はなく、教室の反応はいわゆる無風。凪。0。熱光線は教室の窓際、火動の頭をただただ熱している。


 火動は動かない頭で、昨日の電話を思い出す。


『夏井君の要領の関係で、陽給君と君は同じクラスになった』


 ……夏井女史とやら、毎回なにかやらかしてる。同室に住むことになった経緯といい今回といい。


『絆を深めるという意味でも、というか元から陽給君は新宮学園に転入してくる予定だったのだ。同じクラスにしてもらうことなどお茶の子さいさいもとい同じことだろう!』


 同じことじゃねーよ、と言いたい気持ちを堪えず言ったが番匠は豪快に笑うばかりだった。


「席も隣だね! すっごい偶然ー!」


「……」


 あんの司令官め。


 陽給は人気者になった。人付き合いに興味の無い火動から見ても、目を引く容姿にあの近すぎる性格だ。クラスメイトから好まれる素質というものがある。休み時間、勢いよく投げかけられる質問を剛速球で返していく。クラスメイトのはしゃいだ声に混じって、陽給の華やかな声が聞こえてくる。今まで聞いたことがないほど楽しそうな声だ。


 何となく、いつもよりも予習に集中した。


 休み時間は予習か参考書を読んでいるが、勉強が好きな訳ではない。ないが、やれば確実に成果が出るのでやっているというだけだ。かといって眺めているだけなので、成績がものすごく良いという訳でもない。祖父母は極端に悪い点さえ取らなければ良いタイプであるので、1点上がれば僅かに達成感がある。ただそれだけの、目的もない暇潰しだった。

 

 帰りのホームルームが終わる。プリントを仕舞い終わると、陽給は楽しそうに後ろの席の女子と話しているところだった。流れを読まず、声を掛ける。


「それじゃ、俺は先に帰るから」


「え。火動、部活は?」


「入ってない」


「私、今からミコちゃん達とクッキング部見に行くんだけど」


「……、忙しくないのか」


 任務は、と言いかけて口を閉じる。目立ちたくないのに、自分から非日常をバラしてどうするんだ。


「ま、ちょっとくらい!」


 いいよね? という様子に嘆息する。まぁ、今は指令もないから良いだろうが……。


「火動も来ない? 運動場5周した後クッキー作るらしいよ」


「行かない」


 端的に伝え、教室を出る。



 ◆



「……火動って、ずっとあんな感じ?」


 聞くと、ミコちゃんとトラちゃんは微かに顔を顰めた。


「そうだよ。イケメンっちゃイケてるけど、つっけんどんだからモテなくてね」


「休み時間でもいっつも寝るか予習してるかで。水着女子ランキングに誘われてた時も、一人だけ無投票だったよね」


「徹底してんなぁ……」


 陽給は感心半分、嘆き半分の息を吐く。


 昔からこちらから誘わなければ遊ぶことができない大人しい奴だと思っていたが、そんなことになっているとは。

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