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ep.1

ご訪問ありがとうございます

※プロットを共有し、誤字脱字の確認や執筆の補助、構成の相談でGemini(AI)と協力しています

この世界には数多の竜種が存在する。

大まかに、大地を揺るがす地竜、炎を纏う火竜、万物を潤す水竜、風を操る風竜、そして全てを凍らせる氷竜の五種類に分けられ。

その多くは黄金の瞳を持ち、長身痩躯。

この世のものとは思えぬほど美麗な姿をしている。

そして、竜種は唯一無二の番に巡り会うことがある。

それは魔術契約や魔術誓約からなる繋がりとは異なり、宿縁や運命と呼ばれるものが複雑に絡み合う天祐神助であるとされる。

しかし、誰しもに訪れる僥倖はない。

例に漏れず、竜種の全てが番と出会えるわけではない。

勿論、番以外と子を成すことも可能である。

それでも番を求める者が多いのは、得た竜が群を抜いて強大になっていくからだ。

番は竜種にとって、慈しみ、守り、愛す者と認識されている。


故に、アウレリアは竜が大嫌いなのだ。

正確に言うならば、とある竜が大嫌いである。


(大切だ。特別だ。と言いながら、番を感知できないとは…なんと間抜けな生き物か)


くつり。

嘲笑う音がよく響く牢で、アウレリアは瞳を閉じた。

この国には、王と同列に扱われる竜がいる。

艶のある白銀の髪、長い睫毛に縁取られた蠱惑的な金の瞳。

スッと通った鼻筋、薄い唇。

氷の希少亜種──冬を司る王であるという、この北国の信仰の象徴とされている雪竜が。

牢獄の冷気が、アウレリアの肌に容赦なく食い込む。

薄汚れた粗末な衣服では、この寒さをしのぐことはできない。

しかし、アウレリアの心に宿る怒りは、その身を内から燃やす炎のように熱い。

本来であれば、竜種は番を感知する能力を持っているはずなのだ。

それは本能のようなもので、たとえ姿が見えずとも、その存在を感じ取ると聞く。

番と出会えば、その竜は強大な力をと幸福を得る。

それは、竜種の血脈に刻まれた真実。

そのはずだった。

けれど、この国の至高と崇められる雪竜はアウレリアが番であることを微塵も感じ取っていない。


「番とは、慈しみ、守り、愛すものだと宣うくせに、その番が目の前にいることすら気づかないとは、滑稽極まりない」


小さく囁かれた声には、深い皮肉と諦めが滲む。

数日前、アウレリアは無実の罪で捕らえられ、この国の最高権力者とも言える雪竜の裁きを受けることになった。



謁見の間は、荘厳な沈黙に包まれていた。

磨き上げられた大理石の床は、煌びやかなシャンデリアの光を反射し。

壁には緻密な彫刻が施されている。

その威圧的な空間の中心に、アウレリアは孤立するように立たされていた。

彼女の隣には、幾人もの魔導師達が控えている。

彼らの顔には、アウレリアをここまで連れてきたことに対する興奮と、雪竜への畏敬の念が入り混じっていた。


「冬の王よ。こちらが貴方様の、唯一無二の番にござい、」


魔導師の一人が、高らかに口上を述べようとした。

その声には、歴史的な瞬間に立ち会うことへの高揚が込められていた。

だが、彼の言葉は最後まで紡がれることはなかった。


「コレが番だと?」


壇上に座する雪竜の声は、場の空気を一瞬にして凍らせた。

低く、しかし感情のこもらない声。

それは氷の塊がぶつかり合うかのような冷たさと硬質さだった。

雪竜は、その美貌に似合わないほど無関心な目で、アウレリアを見下ろしていた。

その冷徹な金の瞳に、心臓がドクリと嫌な音を立て脈打つ。

雪竜がゆっくりと己の座から立ち上がる。

その姿は、シャンデリアの光を浴びたことで冬の夜空に輝く星のように眩しかったが。

アウレリアにはその輝きが、己を焼き尽くす冷たい炎のように感じられた。

白銀の髪が揺れ、長い睫毛に縁取られた蠱惑的な金の瞳がアウレリアを捉える。

その瞳には、竜が番を認識した際に宿るはずの、慈愛や興奮の色は微塵もなかった。

あるのはただ無感動な、まるで値踏みをするかのような視線。

雪竜は壇上から降り、アウレリアの目の前まで、その長い足を進める。

その一歩一歩が、アウレリアの心に重く響く。

長い指が、腰に佩いた剣を掴み、その剣先でアウレリアの顎下に添え。

顔を無理やり上向かせた。

アウレリアの視線と、雪竜の金色の瞳が交錯する。

これほど近くにいるのに、雪竜の瞳にはアウレリアの存在を認識している様子がない。


(ああ、やはり…)


アウレリアの胸に、深い虚無感が広がった。

迎えに来た魔導師達が"番"だと騒ぎ立てたから、否応なく王宮まで連れてこられた。

全ては、この目の前の雪竜の"番"であるという、虚ろな証明のため。

アウレリアの意識の奥底では、雪竜が近くにいるときにしか得られなかった、微かな魔力の奔流が感じ取れていた。

それは、アウレリアを迎えに来た国の魔導師達の言う通り、番としての確かな証拠なのだろう。

魔導師達は、興奮に顔を上気させ、アウレリアの身体から放たれる番の証の微弱な魔力を感じ取っているようだった。

だが、雪竜はそれに気づかない。

彼の強大な魔力の前では、アウレリアの放つ微弱な番の力が、雑多な魔力の奔流の中に紛れてしまっていたのかもしれない。

あるいは、生まれつき番を認識する能力が欠如していたのか。

もしくはそれ以外の理由があるのか。

アウレリアには分からない。

確かめようがない。

けれど、どちらにせよ、結果は同じだ。


「コレは偽りだ。地下へ入れておけ」


一切の情けをかけることなく、雪竜は冷徹に投獄を命じた。

彼の言葉は絶対だ。

アウレリアを番だと、声高に訴えて王宮まで連れて来た魔導師達が、まるで凍らされたかのように口を噤むほどに。

彼らは雪竜の言葉に抗うことは出来ず、アウレリアは力ずくで引き立てられることになった。

あの瞬間、アウレリアの心に深く刻まれたのは、怒りよりもむしろ、呆れるほどの虚無感だった。


(あれほど近くにいたのに、あなたは私を認識できなかった)


竜種にとって、番は生命の根源にも触れうる存在。

その繋がりは、魔術契約や誓約とは比べ物にならないほど深く、運命によって紡がれるものだと信じられてきた。

だが、その常識がアウレリアと雪竜の間では通用しなかっただけ。

竜種の言う天祐とは、あまりにも空虚で、アウレリアの心を冷やす代物にしかならなかったわけである。

氷の希少亜種である雪竜は、確かに美しかった。

国民が彼を信仰の象徴とし崇めるのも理解はできる。

しかし、アウレリアにとって、その美しさは偽りであり、その絶対的な力は盲目そのものになってしまった。

彼が番であるという事実は、アウレリアにとって希望ではなくなり、深い絶望の淵へと突き落とす枷になってしまったのだ。

このまま牢獄で朽ちるのか。

それとも、あの間抜けな竜に、自らが番であることを気づかせるのか。

否、そんなことをするわけがない。

静かに息を吐く。

白い呼気が溶けるように消えていくのを眺め、瞳を閉じた。

心を深く沈める。

魂の奥底で、何かが蠢き始めていた。

虚無からの諦念が、時間を経て怒りと成り代わったのだ。

それは、諦念を打ち破り、この不条理な運命に抗う、微かな抵抗の燈火。

冷たい牢獄の空気は、彼女の決意を固めるかのように、肺の奥まで染み渡っていった。

物語のヒロインのように、声高に番であると主張できるほど、アウレリアは優しくない。

された仕打ちに、誤解があったと微笑むことができるヒロインのような高潔さなど、微塵もないのだ。

むしろ、相応の怒りを抱く人間である。

このままでは終われない。

強い意志だけが、確かにそこにある。


ご一読いただき、感謝いたします

引き続きお楽しみいただけましたら幸いです

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