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Fake Real Game  作者: まもる
8/12

月明かりの下で

なんと森の中で星輝と離れてしまった空。キノコ一つを手にして森を歩き回る。

一方、星輝も空がいないことに気づき、頭を抱え始める。そんな二人に突如、森中に響く悲鳴が伝わる。

空は迷いなく走り出し、星輝は空の身に何かあったのではと、地を駆ける。

「せ、星輝……?」

 その名を持つ者の名を呼びながら、すっかり暗くなってしまった森の中を、一つのキノコを両手で丁寧に持ちながら歩く女の姿があった。

「ど、どこですかー……?」

 謎の敬語が発動し始めていた。

 土や木、葉、それくらいで何か役に立ちそうなものはない。

 ただ呼び続けることしか、空にはできなかった。

(ああ……もう!私のバカ!キノコ一つで迷子になるなんて……!)

 恥ずかしいのも少しあるが、自分の食い意地をここまで恨んだのは初めてだ。

(何か、目印とかつけとけばよかったな……それか、何か目に留まりそうなものとか)

 不安定な地面に気をつけながら、自分なりに考えていると——

「キャアァァァァ!!」

「!」

 突然の悲鳴のような声に空は肩を揺らしながら、その方向を見た。

 ごくりと喉を鳴らしながら、表情を険しくして、空は迷いなくその方向へ走った。

 

 同じ森の中にいるはずなのに、なかなか見つからない。

(あれだけ離れるなって言ったのに……)

 うんざりしながら頭を抱え、ずんずんと森を進んでいく男がいた。

(まあ、俺の確認不足もあるけど)

 そう付け足して、葉っぱの山を崩したり、木の上を見たりして、いなさそう場所ばかり探していると——

「キャアァァァァ!!」

「!」

 静かすぎるほどの森に、悲鳴のような声はよく響き渡った。

 当然、星輝の耳にもはっきり伝わった。

「なんだ?」

 声からして女の声であることは間違いないと思うが、まさか——

(あいつじゃねーだろうな……)

 星輝はその足で、その方向へと足を早めた。

 

 走るのには自信がある。もちろん、速さにもそれなりに他人よりは速いだろうとは思う。

 キノコを握りしめたまま、腕を振ってその足で森を駆け抜ける。

 やがて、月明かりなのだろうか、それによって明るい場所が見えてくる。木々の隙間から漏れ出す光を見て、それに向かって一直線に走る。

 ガサッ!

 最後の茂みを飛び越えて、森の外へ出る。

 ズザザーッと自分の足にストップをかけると、前を見た。

(誰も、いない……?)

 そう思って、左、右と見渡す。

「!」

 そこで何かを見つける。

 黒い何かが、誰かを囲っている。

 狼だろうか。見たことがない。この世界ならではということだろうか。

 勢いでここまで来たはいいものの、まだ自分は何もできない。与えられたスキルも、速くなるだけ。それで周りの狼どもを蹴散らすことができるわけではない。

(こんな時、星輝がいたら——)

 自分がこの世界で、どれだけ無力なのかと噛み締めながら、そんな叫びを心の中で唱えた。すると——

 ガサッ!

「っ!」

 空は考えを中断し、後ろを勢いよく振り返った。

 ガサッ!ガサガサ!

 確かに茂みが揺れる音。空が振り返ったからといって、それが止むことはない。

 まさか、ここにも狼が?

 そんな考えに辿り着くと、音を立てないように、後ろに足を動かして、距離を取ろうとした。が、その時——

 ガサッ!

 今までにない葉の音を響かせ、黒い何かが出てきた。

(やっぱり……!)

 空はくるっと前を向き、走る体制に入った。

「あれ?こんなとこにいた」

 空ではない、男の声が耳に入ってきた。

 この声、聞き覚えがある。

 そっと後ろを振り返ると、そこには黒い服をきた男、星輝が立っていた。

 頭に「?」を浮かべたような顔でこちらを見ている。

「せ……星輝?」

「おう、星輝です」

 軽く片手を上げてそう答える。

「……よ」

(よかっっったー)

 心の中で泣きそうなほどの声が胸いっぱいに広がった。

 それと同時に、ハッとあることも思い出す。

「せ、星輝!」

 急にものすごい勢いで星輝に近づいてくると、その切り替えようにびっくりする。

「うぉっ……な、なんだよ」

「あれ!」

 空は星輝の顔を真っ直ぐ見ながらある方向を指差した。

「あれ?って……」

 指さされた方へと顔を向けると、何匹もの黒い物体が誰かを取り囲んでいるような光景が目に映った。今にも飛びかかりそうな雰囲気をかもし出している。

「…………」

「ね!?」

「…………」

 その光景にも、空の言葉にも無言を貫き、ただそれを見つめていた。そしてしばらくして口を開く。

「?何が?」

「な、なにがって」

 ふざけていっている様子ではない。なぜか真面目にそう言っているようだ。

「だから、あれって、どれ?」

「え?だから!あれだって!」

 力強く指差すが、まだわかっていないようだ。

「あそこ!変なのに囲まれてるじゃん!なんでわからないの!?」

「え?……ああ……ほう……?え?あれが何?」

「何って……あれ見て何も思わないの!?」

 ありえないと顔に書いてありそうに言う。

「何……も思わないことはない、けど……囲まれてんなーって」

「呑気か!」

 そんな会話がとうとう耳に入ったか、一匹の狼が耳をぴくつかせ、こちらを見てくる。

 周りも一匹の様子に気づき、飛びかかる足を止め、一斉にこちらを見てきた。

「あ、こっち見た」

「何呑気なこと言ってるの!」

 そして、空気を読むことなく、確かに空たちを瞳に映し、距離を詰めてきた。

「く、来る来る来る!」

 咄嗟に星輝の後ろに隠れる。

「あ、お前っ!人を囮に!」

「囮じゃないもん!」

 そのような言い合いの末、星輝は面倒そうに舌を鳴らす。

「チッ……めんどくせぇ……」

 星輝は下で手を広げると、そこから突如ナイフが現れる。

 それをしっかり握って確認すると、空を少し後ろに押して、距離を取るようにする。

 自分から向かっていくように、地を駆けると、数など関係ないように、みるみると斬撃を与える。狼が次々とのしかかってくるが、攻撃は一つも当たっていない。

 すごい。

 改めて星輝の強さを実感する。

 星輝がナイフを上に押し上げ、一匹の腹を斬り裂くと、そこから溢れ出るどす黒く、でも赤い血が雨のように降る。

 だが、星輝はそれを一滴も浴びることなく、次へと行く。

 さすがの狼たちも、攻撃の数が少なくなり、逃げていくものがちらほら見られるようになった。

 だが、全てではなかった。諦めの悪い一匹は、目標ターゲットを変え、星輝とは逆に先程狙われていた者へと向かう。

 ぺたんと座り込み、動けなくなっていた一人は、こちらに来ていることに気づいたが、立とうと足に力を入れるが、ガクンと地についてしまった。

「っ……」

 ギュッと目を瞑り、力を込めた手はいつの間にか土を握りしめていた。

 飛びかかり、爪を立てた。

 死。それを覚悟したが——

 ザシュ!

 震える肩を必死に抑え、どこかしら痛みを感じると思っていたのに、感じることはない。

 ゆっくりと片目を開け、そしてもう一つと開けると、そこには狼の代わりに黒い格好をした人が立っていた。

 その男はこちらを振り返ると——

 ザァァァァ

 雨。たが、雨は雨でも血の雨だ。

 それが男に降りかかり、そしてへたり込んでいた少女にも降りかかった。

「んっ……!」

 腕で雨から顔を守るようにする。

 それは数秒の出来事ですぐに止むと、再び恐る恐る目を開けた。

 すると、先程よりも距離が近くなっていた。

「!」

 そして、少女は目を見開いた、なぜなら——

「ひょ、ひょっと、こ?」

 そう、目の前にしゃがみ込んできた者は、ひょっとこの面を被っていたのだから。

「ああ、ごめん。めっちゃかかった」

 面のせいで声がこもっているが、男の声だ。

 そして、少女の髪に付いた狼の血を拭くため、真っ白なタオルを頭にかけてやる。

「えっと……」

 いまだに困惑している少女に構わず、続けていった。

「それで拭いて。あ、大丈夫、ちゃんと綺麗なやつだから」

 タオルを指さして言う。

 すると後ろから、誰かが声をかけながらやってくる。

「星輝!」

 せいき。それはひょっとこの名前だろうか。

 こちらへ走ってくると、続けて声を上げる。

「大丈夫だった?」

 その言葉に心底どうでもよさそうにひょっとこが返す。

「だいじょぶだいじょぶ」

「そのめんどくさそうな態度少しは隠してよ」

 そんな二人の会話を見ていると、やがて空が少女に声をかけた。

「大丈夫だった?ごめんね、私、何もできなくて……立てる?」

 そう言って手を伸ばしてきたので、それを支えに立ち上がった。

 まだあまり足に力が入らないが、立てないほどではない。

「あの、ありがとうございました、助けてもらっちゃって」

 そう頭を下げる少女に星輝は何も言わず、代わりに空が答えた。

「えっと、私は何もできなかったけど、多分星輝は何も気にしてないと思うから、あなたも気にしなくていいからね」

「……あ、えと、はい」

 とりあえずそう返事した。そして空は切り替えるように声を上げた。

「そ、それより、髪にべっとり付いちゃったね……せっかく綺麗な髪なのに……」

 空は少女の髪を見ながら、そう言った。

「そ、そうだ!シャワー浴びてきなよ!うちにあるから」

 そう言うとやっと星輝が口を開いた。

「はぁ?何勝手に言ってんだ。お前の家じゃねーだろ?」

「いーじゃんシャワーくらい。それに見てよ!可哀想だと思わないの?こんなに付いちゃって」

「それ俺にも当てはまるだろ!」

「原因は星輝だよ!」

「お前がやれって言ったんだろ!?」

 そんな言い合いに、すごく気まずそうに見ていた少女は見守ることしかできなかった。

結構遅れてしまいましたが、いかがだったでしょうか。

物語はまだまだ動き始めます。

今後とも温かく見守ってくださると嬉しいです。よろしくお願いいたします!

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