魔の風呂場
風呂とは思えないような話をされたが、そこを片付けなければ意味がない。二人は、恐ろしい風呂場へと足を踏み入れる。そこには、本当に風呂とは思えない光景を目にする。
「こ、これは!?」
「だから言ったろ!?風呂かどうかも怪しいって」
「だとしても、ここまでとは思ってなかった!」
「俺を甘く見るな」
「ドヤ顔する場面じゃないし、会ってまだ一日も経ってないからー!」
勘違いしないでほしいが、これは風呂を見た感想です。
しかもまだ始まってもいません。
ここまで行くのに、ずっと同じようなことを繰り返していた。
『開けるぞ』
ドアを開ける準備をして、星輝は叫ぶ。
『開けろ』
空もそれに答える。
『本当に開けるぞ』
『うん、だから開けろ』
『本当の本当に開けるぞ』
『わかったから、開けろ』
などと言った同じような会話を続けて、今に至る。
一旦ドアを閉めて、作戦会議に入る。
「さて、どこから手をつけたものか」
星輝が顎に手を当てながら考える。
「というか、よくこんな風呂に入れたね」
「入るって言ってもシャワーだけだし」
「だとしてもあの空間に入るだけすごいわ」
うーんと二人は頭を悩ませる。が、すぐに二人は吹っ切れる。
「「よし」」
そう言って顔を見合わせると。
「「死のう」」
二人は魔の風呂場に入って行った。
それから約六時間後。
「お、終わったぁぁ」
服の袖を捲った空は、綺麗になった風呂場を見て解放されたように言った。
「やべぇ風呂だー」
星輝もそんな感想を口にしながら眺めた。
「いやほんと、どうなることかと思ったよ、風呂の水なんか、もはや毒だったよ」
空はあの時の光景を思い浮かべながら言った。
「いやぁ風呂だなぁ」
空の言葉に答えることもなく、ただその感想だけが出てくる。
「というか、全方向から毒を喰らってる気分だった」
「すげぇ……風呂だなぁ」
「さっきからそれしか言わないじゃん」
とうとう突っ込まれた星輝はやっとそれ以外のちゃんとした言葉を話す。
「いやだって、ずっとあの光景を見てきた方からしては、それしか本当に思い浮かばないんだって」
「だとしてももうちょっとほしい」
などと話しながら、頑張ったなぁという気分に浸った。
「本当にありがとう、すごい助かった」
二階も合わせて部屋の掃除を全てこなすことができた二人は、ベッドに座り込みながら話した。
「そうだよ、もっと感謝して」
「ありがとうございます」
と崇めるようにして手を合わせてお礼言ってくる。
「でも、個人的にこの部屋掃除したいと思ってたからいいけど」
空は昨日とは見違えるような姿を眺めながら言った。
「え、そうなの?」
「そうだよーめちゃくちゃ埃まみれで、居れたもんじゃないわ。この部屋に来て、え?これで住めんの?って思った」
「そんな評価だったとは」
呆気を取られたように星輝は呟いた。
「誰でもそう思うよ」
クスッと笑いながら空は言う。
空はふぅと息を吐くと、ぴょんとベッドから立ち上がる。
「そーれじゃ、そろそろ退散しようかな」
「え?なんで」
立った空を見上げながらそう問う。
「だって綺麗になったことだし、もうあの変な人もいないし、匿ってもらう必要ないんでしょ?」
星輝はそんな空を見て、目をぱちくりさせて言った。
「それはそうだけど」
「じゃあいいじゃん。それとも、掃除係として必要?それは自分でやってほしいな」
「いや、そうじゃないけど」
「?」
何が言いたいのかと言いたげな顔を星輝に向けてくる。
星輝はようやくベッドから立ち上がると口を開いた。
「行き先は決まってるの?」
「そんなのあるわけないじゃない」
当然のように空は口にする。
「じゃあ、決まるまでここにいていいよ」
「……え?」
空は聞いた言葉が信じられず、もう一度問う。
「今……なんて」
「だから、ここにいていいって」
「………………」
空はポカンとすると、フルフルと頭を振った。
「え!本当に!?」
「嘘ついて何の得がある」
呆れながら空に答える。
「だって、出て行ってほしいんじゃなかったの!?」
「あー」
そんなことも言ったなぁーと思っているような顔をすると、言葉が決まったのか答える。
「気が変わったの。それじゃダメ?」
その言葉に、空は星輝のことをじとーと見つめる。
「……なに?」
「……なんか怪しくて」
「そろそろその怪しさセンサー緩めてくれるといいんだけど……」
「それは私次第だもん」
星輝はまだまだ時間がかかりそうだなと思いながら言った。
「じゃあわかった。なら一つ俺に君の目的を教えて。そしたら俺はそれに協力する。ならどう?」
うーんと考えると、空は言った。
「いいけど、多分私だけじゃなくて、君のことでもあるけど……いいの?」
「?うん」
スゥーと息を吸うと、空は真っ直ぐ星輝を見て言った。
「私は、元の世界に戻りたい。だから、一緒に出口を探すのを手伝ってほしい!」
空は前に腕を出して、星輝は手を差し出される。
「…………」
その手をしばらく見つめると、ははっと笑いながら言った。
「ははっ……なるほどそういうことか」
そう言って差し出された手を握り返す。
「それは……随分とでかい目的で」
二人は顔を見合って笑いながら、手を離した。
「あ」
突然星輝が声を上げると、空は不思議そうな顔を向けてきた。
そして星輝は、再び空の手を取ると言った。
「俺からも一ついい?」
「え?あ、うん」
戸惑いながらもそう答える。
「これからも、掃除係……お願いします」
「へ?」
その声と共に星輝は手を離す。
「よしきたーうちの掃除係ー」
ガッツポーズを取る星輝に空は不満を抱く。
「やるなんて言ってないけど!」
「手握ったでしょ?だから決まりー」
「そういうことじゃない!」
逃げ回る星輝を追いかけながら、空は叫ぶ。
「あ、あとさーずっと君って言ってるけど、呼びやすい名前でいいから」
「はあ?」
「だって変な感じだからさーね?」
「ね?じゃないから!星輝ぃぃ!!」
そんな空の声はこの家中に響き渡った。
fake real gameを読んでくださりありがとうございます!掃除の続き、風呂場掃除編ですね。一体何を読まされているのでしょうか。そう思ってる方、すみません!そういう話なので……ご勘弁ください。
では、また次回。