大掃除
謎の言動から何故かこの家の掃除をすることになった空。掃除のその字も知らなそうな男とともにする作業は、むしろ仕事を増やしてる気でならない。
そんな空は、仕方なく窓を拭いている男に目を向けると、あることに気づく。
「ゴホッ!ゴホッ」
空は咳をしながら、ほうきを手に持ち、部屋の埃を掃く。
「ここ、マスクくらい……ゴホッ、ないんですか?せめて布とか」
同じく、咳をしながら窓の埃を棒状にした紙で払い落とす男の姿があった。
「贅沢言うな、ゴホッ奇跡的にほうきがあっただけでも、ありがたいと思え」
パンッパンッと音を立てて窓辺を叩く姿に、空が声を上げる。
「というかいい加減それやめてくれません!?余計埃舞って仕方ないです!」
「埃を舞わせるのが役目だろ?」
「掃除をなんだと思ってるんですか!?」
大声を出したせいで、また再びゴホゴホと咳を打つ。
「もうそこはいいですから、窓拭いてください。はいぞうきん」
すでに水で濡らしてあるぞうきんを男に手渡す。
「ちぇ」
と不満そうにしながらぞうきんを受け取った。
なぜこんなことになっているのか。
それはつい昨日のことである。
なぜか掃除を頼まれ、その後討論になったが、結果的に付き合わされる羽目になったのである。
そして、寝ずにずっと掃除。
昨日はいろいろあったというのに、なぜこんなことを……それよりも出口を探さなければ……ん?出口?
「あーーー!」
その声に驚いた男は吹いていた手を止めて空の方に振り返る。
「なんだよ、ただでさえでかい声出して」
「でかいとは失礼な!じゃなくて!出口です!」
「は?出口?」
「この世界から出る出口に決まって——」
と言いかけると、空はあるものが目に入った。
窓を拭く男の腕には、空と同じ装置が装着されている。
「えーー!」
「今度はなんだ」
「そ、それ……」
と、男の腕を指差す。
男は差された腕を見つめると言った。
「ああこれ?ていうか今気づいたの?」
「はい……全然。というか私も——」
「いや大丈夫、気づいてるから……」
腕を見せようとする空に、片手を前に出して遠慮する。
「あなたも巻き込まれた人なんですか……」
「まあ、そうなりますな」
「なんで教えてくれなかったんですか!」
身を乗り出してくる空に男は言う。
「そんな空気じゃなかったし、そんな時間もなかった」
「今の時間は充分言えたと思いますが!?」
相変わらず元気な子だなと思いながらも、男は窓拭きを再開する。
空も不満そうにしながら、床を掃く。
「あ、教えるといえば、あなたの名前……聞いてません」
窓を拭きながら、男は答える。
「答える必要ある?」
「私が教えたんだから教えてください!」
「そんな簡単にホイホイ名前教えない方がいいよ」
「正論ですけど遅いです!というか教えろと言ったのはあなたです!」
「えー」
と嫌そうな声を出したのが気に食わなかったのか、空は男の方に向かう。
「ちょっとこっち向いてもらえます?」
「え?なに——」
と振り返ると、空の持つほうきを向けられる。
「答えなければ、一生埃地獄の刑ですよ?」
「っぐ……」
棒ではなく、掃く方を向けられ、必死に堪える。
「いいんですか?もっと振ってもいいんですよ?」
フルフルと振ってくる地獄の刑に男は苦戦する。
「くっ……恐ろしい女め……」
「ふっふっふっ……なんとでも言うが良い。さぁ!はけ!」
追い討ちをかけるようにさらに振ると、降参したように手を上げて言った。
「わーかった……だからそれゴホッ、やめろ……」
「嘘は許さん」
「ゴホッゴホッ!嘘ついてねーゴホッよ」
と、しばらく乱闘が続くが、本当にどうでもいいのでそこは省かせてもらおう。
「俺の名前は天月だ」
すると、またほうきを取り出すと空は言う。
「フルネーム」
「…………」
ほうきの魔の手が近づいてくると、観念したように言う。
「星輝!天月星輝!はい終わり!」
「よろしい」
満足したように、やっとほうきを下ろす。
ホッと星輝は息を吐くと、掃除の話に戻る。
「まあ、一通り綺麗になったけど、あとは……」
と目を向けた先は、奥にある一つドアがあった。
「あそこは?」
「風呂場」
「風呂場……」
と呟くと、何か思ったことがあるようで「えっ!?」と声を上げる。
「まさか……」
チラッと星輝を見る。それを察した星輝はすぐさま言った。
「あ、ちゃんと体は洗ってるからな」
「あ、よかった」
風呂場を洗ってないのなら体も?と思った空はホッとする。
「あそこ、そんなにまずいの?」
「ああ、なんかもう、風呂かどうかも怪しい」
「それはなんというか、もう……」
再びドアに目を向けると、恐ろしいオーラが漂っているのを感じる。
「風呂じゃないんじゃない?」
空はぽつりと呟いた。
どうもこんにちは。この前の続きです。
よくわからない状況続きだと思いますが、よろしくお願いします!