最悪の舞台《ショー》
謎の感覚から空は目覚めると、周りには見知らぬ人々が大勢同じ状態であった。ざわざわと困惑して空気の中、よく目立つ謎の舞台が用意されていた。そこから突如現れたのは、王の側近と名乗る少女——キャリー——
そして、彼女口から衝撃の言葉が次々と綴られる。
頭が痛い。全身が少しズキズキする。床が冷たい。寒い。
たくさんの感覚に襲われながら、少しずつ目を開けた。
そこに広がるのは、綺麗な星空。
(星って……あんなに綺麗なんだ……)
いつも空を見上げても、あまりはっきりとは見えない。見えたとしても、これほど美しい夜空は、空にとって初めてだ。
ゆっくりと上体を起こし、周りを見ると、空と同じように倒れている人たちが何人かいる。その他にも、起きたのか立ち上がっている人たちも多くいる。
空はそれでようやく自分が地面に横たわっていたことを自覚し、立ち上がった。
横たわった際に服に付いた土を払って、改めて周りを見ると、見たことのない人たちが大勢いた。大人はもちろん、小学生くらいの子供まで、年齢層はさまざまだ。
それだけではない。
よく見ると、周りは多くの木に覆われていて、まるで森のような光景が広がっている。
そして——
わざとなのか、一番目立つように前にはサーカスのような舞台が用意されている。
すると、カチッと突然ステージを彩る照明が消える。
だが、すぐに照明が戻った。
先ほどとは違うのは一つ。
舞台の中心に誰か立っていたのだ。
空とは距離があり、あまりよく見えないが、全身を隠すようなローブを羽織っている。
「あーあー」
突然そんな声を発すると、再び話し始める。
「皆さーん、聞こえますかー?」
と、手に持ったマイクをこちらに向けてくる。だが、誰も答えることはない。
「もー答えなきゃわからないでしょーがー」
プンプンと不満そうな声を出す。どうやら声からして、女の子のようだ。今思うのもなんだが、とても可愛らしい声だ。
「まあ仕方ないですね、こんな状況になっているとなれば」
そして仕切り直すように、ゴホンッとわざとらしくすると口を開く。
「ではでは、皆さんはじめましてー私はキャリー。王の側近の一人にして、今回の説明を任されることになりましたーイェーイ!」
皆この少女のペースについていけず、ポカーンとする。
「皆さんノリが悪いですねーやっぱりこのセット可愛くないですよねー、もっとぬいぐるみを増やしてってお願いしたのに……では、余計な余興は省きましょう!では最初にこの世界の説明から」
バッ!と腕を広げながら、高らかに語り始めた。
「ここは自由の世界。あなたたちの住んでいた世界とは全く異なる世界。ここでのルールは一つ。『王を殺さないこと』それだけです。それ以外はなんでもオッケー!盗みも、もちろん殺しも王以外の者なら罪には問われません。向こうでの法はここでは無意味!なので、とても楽しく過ごせますよー」
シーンとした空気からは、誰も抜け出せず、キャリーは続ける。
「皆さん随分と静かですねーなぜでしょう……?あ!そっか!まだどうやってここに来たのかわからないから混乱してるんですね?そうですかそうですか。では、説明しましょう!」
一人で淡々と話し続けるキャリー。皆必死に話について行こうとする。
「皆さんは『穴』があることを知っていますか?その名も『the World hole』向こうでは確か……『世界の穴』でしたっけ?皆さんはそこからこの世界に導かれたんです」
固まっていた者が『世界の穴』という単語に次々と反応する。
「世界の穴ってあの⁉︎」
「ありえない、あれはただの噂だろ?」
「やっぱり存在したんだ!あの穴は!」
などとさまざまな声が上がる。
「さて、賑やかになってきたところで、あなたたちに選択肢を与えましょう。あなたたちはこれから、この世界で暮らしていただきます」
その言葉に、皆一斉にざわめき出す。それを無視して、キャリーは続ける。
「もちろんタダでしてもらおうとは思ってませんよ?ここにいる全員に、『スキル』という特別な力を与えました。皆さん、二本の指で何もない空間を叩いてみてください」
そう言われてさまざまな人々がそれをやり始める。
空も言われた通りに、人差し指と中指で、まるでピースをするときのような形で、何もない空間を叩いた。すると——
「っ!」
空は目の前に現れた謎の板にビクッとした。
「今皆さんの目の前には、薄い板のようなものが見えると思います。そしてそこには、自分の名前や年齢、性別などが書かれているかと思いますが、今回注目していただきたいのは、その右上です」
空は右上に視線を移すと、そこにはシールの剥がれかけのように折れ曲がったようなマークがある。
「そこを剥がすようにスライドしてみてください」
そう言われて、シュッとそれを剥がす。すると、目の前にはさっきとまた違った画面が映し出される。
「それがあなたのスキル。その画面は本人以外は基本見えません。そして、スキルはランダムに振り分けられるので、持ってるスキルは皆違います。確認できましたか?」
画面にはスキルと思われる名前とその説明が書かれている。空の場合、スキル名は『速さの上昇』その効果は、本人の身体能力に応じて、速度を無制限に加速できる(※速度のみで、スキルを永遠に発動できるわけではない)というものだった。
いまいちよくわからなかったが、速さの上昇と言うのだから、まあ速くなるということだろう。
「ちなみに、皆さんの左手首に装着されている機器は、絶対に取らないでください。というか取れません」
空は左手を見ると、確かに何かはめられている。見た目は腕時計のようにも見えるが……
「それは、スキルの発動に必要な物です。その逆に解除の役割もあります。スキルは無限に使えるわけではありません、必ず限界があります。それを知らせる役割がありますが、本人が解除しなかった場合、無理矢理解除されます。まあ、言えば安全装置です。これは装着者の死亡を確認した場合、スキルを使うことはできなくなります。絶対にないとは思いますが、万が一、本来の装着者から奪えたとしても、本人でなければそのスキルは使えません。必ず一人一つ!覚えてくださいねー」
と、その装置の話をしたところで、キャリーは話を戻す。
「では先程の話に戻りましょう。あなたたちが選べる選択肢は二つ。一つは、この世界で暮らすこと。もちろん大歓迎ですよ?ですが、とても言いづらいのですが……実はこの世界は、もう何年も持たない状態なんです。つまりは、崩壊寸前!ギリギリ耐えられているんですよねーなので、この選択をするということは、『世界の崩壊と共に死んでしまう』ということですねー」
キャリーの言った「死」というワードは、皆を一気に混乱させる。文句を言う者、崩れ落ちる者。皆当然の反応である。
空も足が震え、その場に固まった状態だった。
「はいはい話は最後まで聞くもんですよー?そして、二つ目は……この世界の崩壊前にここから出て生き残るかの二択です」
それを聞いていた人々は、次々と少しずつ希望を持った声を上げる。
「出る……?ここから出られるのか!?」
「帰れる、家にまた帰れる……!」
「だーかーらー……ちゃんと聞いてください!全く人の話を聞かない人たちですねー……確かに、この世界から出ることは可能です。ですがそれは、出口を見つけられたらの話です」
「出口?」
「それはどこにあるんだよ」
「さあ?私にもわかりません」
わからないと示すように、両手を上げる。
「はあ?わからないってなんだよ!?」
連れてこられた人々は怒ったような声色で問う。
「なので、帰りたければ自分で探してください」
皆がまた困ったようにざわめき始める。
先程怒った男は、それに納得がいかず声を上げる。
「探すってなんだよ!場所くらい教えろ!!」
皆がそれにならって、騒ぎ始める。
キャリーはその様子にため息をつきながら、やれやれといった様子で口にした。
「本当に聞き分けがないですね……考えればわかるでしょう、その場所は我々もこの世界にいる人々も誰一人知らないということです」
「はあ!?そんなの信じられるわけ——」
と男が言いかけると、キャリーはうんざりしたのか、バッと両腕を広げ、明るく声を上げた。
「さあ!始めましょう!自身の命を賭けた遊戯を!あなたたちのこの世界の生き方を、私たちに見せてください!」
そう言って、指をパチンッと鳴らした。
第二話お読みいただきありがとうございます。
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