何かしらの情報が欲しい
店での本格的な接客が始まり、思っていた以上にハードなものだった。言語の面では星輝にサポートしてもらいながらも、なんとか休憩時間にまで繋げる。
英語ができないのに接客できるのか、と改めて気がついたが、メニューには絵がついていて、幸いそれで注文はとれた。
客との会話も、できるだけ自分たちのわかる程度でどうにかしようとも思ったが、先回りして星輝がフォローしてくれた。
ちなみに星輝は、結局お面を取らずの接客だった。
客の反応は、さまざまであったが、多分ネタ枠として扱われていることだろう。
この時間はちょうど混む時間帯だったらしく、ドタドタの作業はひとまず終了した。
一旦、一時間の休憩を挟み、午後の営業を始めるようだ。
ここでやっと終わり……かと思いきや、一日付き合うなどと馬鹿なことを言い出した誰かさんたちのせいで、結局午後も参加になってしまった。
「もうやめとけばよかったものを……せっかくのチャンスだったのに……」
そう拳をギュッと握りしめて悔しそう椅子に座っていた星輝に、横に座っていた空は、ポンッと背中を叩いた。
「もう諦めなさいって」
「今お前のことを初めて殴りたいと思った」
ものすごいオーラを出しながら空の方を向いて言った。
「代わりに私が星輝を殴ろうか?」
「なんでそうなる」
すると、キッチンからいくつか皿を乗せたトレイを持った女性が出てきた。
おとなしそうな見た目をしていて、実際接客をしている時も、最低限という感じだった。
どこか幼さが見える顔立ちだが、特に話すこともなく、少し離れた席に座り、食事を始めた。
それを見ていると、同じようにトレイを持ってきたハリムが声をかけてきた。
「Are you curious?(気になるかい?)」
星輝は体を傾けてハリムの方を向いた。
「いや別——ゴホンッ!No, nothing in particular...(いや、別に……)」
空と話していたせいか、一瞬日本語が出てしまった星輝は、咳を打って誤魔化す。
それは全く気にしていなようで、ハリムはそのまま話す。
「She's a quiet girl and a hard worker too(おとなしい子だよねーそれに頑張り屋さんだし)」
聞いてもいないのに、その子について語り始める。
そして、そのトレイを星輝たちのいるテーブルに置いた。
どうぞ、というので、どうやらわざわざ持ってきてくれたらしい。
「食っていいってさ」
じーっとそれを見つめていた空は、それを聞くと、目をキランっと輝かせてフォークを手に取った。
そんな空を横目に、星輝は話を再開するハリムに目を向けた。
「Well, but... sometimes I worry that I'm trying too hard(まあ、でも……頑張りすぎて心配な時もあるけどね)」
そう言って星輝の隣に座ると、離れた場所に座った女性を見た。
「Trying too hard?(頑張りすぎ?)」
「Yes, she's working too hard. She's studying so hard to get into school, and she's working here to save up for school. If she gets good grades, she'll be exempt from all the financial burden, but she's doing it just in case... I don't think it'll be a problem for her(そう、頑張りすぎ。彼女、学校に入るために勉強漬けで、ここで働いているのも、入学資金を貯めるため。成績が良かったら、資金諸々免除になるらしいんだけど、もしものためだって………彼女なら問題なさそうなのにね)」
軽く笑いながら机に置かれた飲み物に口を運ぶ。
「学校…………」
星輝はボソリと呟く。
「What's wrong?(どうかしたかい?)」
ハリムは星輝の顔を覗き込んできた。
「え……あ、うーんと……School is, like... a place to learn, right?What will I learn?(学校って、なんか……学ぶとこ……なんですよね?どういうこと学ぶのかなーって)」
「What do you mean... hmm...(どういう……んー……)」
顎に手を当てながら、数秒考え込む。
「What you mean by that will vary from person to person, but in this kid's case, I think he's studying mathematics, history, foreign languages, etc(どんなっていうのは、人それぞれだろうけど、あの子の場合は、数計学や歴史、外語などをやっているかな)」
「ほー」
勉強に、店での勤務。
見た目で見れば、まだまだ若い。
空や瞳たちに近い……もう少し下かもしれない。
あんなに小柄でひ弱そうな子からは考えられないほどの努力だ。
「Then, when you're done eating, please put the dishes in the washing area(じゃあ、食べ終わったら皿を洗い場に出しておいてくれ)」
そう言ってハリムはカタンっと椅子から立ち上がった。
「Aren't you going to eat it?(食べないんですか?)」
星輝がそう聞くと、少々言いづらそうに頬をかいて言った。
「Actually... I sneakily ate something earlier, so I'm not that hungry...(実はね……さっきこっそり食べちゃったから、お腹はあまり減っていないんだ……)」
これは内緒だよ……?と英語で星輝に耳打ちして念を押すと、キッチンへ戻っていった。
テーブルに視線を戻すと、置いてあった皿の中身は、綺麗になくなっていた。
飯は仕事が終わってからになりそうだ。
あっという間に休憩時間は終わり、午後の部に入った。
午前より皆動きに迷いがなくなり、すらすらと働けているように思える。
午前よりも混み始めたが、特にトラブルもなく、あっという間に仕事をやり切った。
「おっっっわった〜〜」
星輝は着替えを終え、大きく伸びをした。
「接客って、やっぱりハードなんだね」
空も着替えを終えて、星輝のもとへやってくる。
そんな空に、お面越しから、じろりと視線を向けながら言った。
「元はと言えばお前だからな」
「わかってるよ」
疲れ切った星輝を見て、苦笑いを浮かべながら答えた。
「でも、なんとかできてよかったです」
着替えを終えた瞳が、続いてやってきて言った。
「お優しいね〜」
星輝はやれやれといった声色で言う。
「Have you finished changing clothes?(着替えは終わったかな)」
厨房から出てきたハリムは、手に白い布袋を持っていた。
続いて、ハイとそれを渡してくる。
「This is my thank you for today.(これは今日のお礼だよ)」
そう言ってこちらに差し出してくる。中身は袋いっぱいの丸いパンが入っていた。
ハリムはこれくらいでしかお礼ができないと、申し訳なさそうな顔をしていたが、十分過ぎるほどだ。
星輝は素直にそれを受け取り、お礼を言った。
ドタバタではあったが、いい経験となっただろう。
それに、こうして食料にありつけたわけでもあるし。
あの彼氏問題についても……と思って、あ、と思い出したように星輝は声を上げた。
「姫黄」
瞳は呼ばれると思っておらず、肩をビクッとさせて反射で返事をした。
「は、はい!」
「あれ出して」
ひょいひょいと星輝は手を差し出してくる。
「アレ?」
「彼氏が写ってるやつ」
その言葉で、写真のことだとわかる。
「あ、なるほど!」
そう言ってポケットから端末を取り出して、素早い手つきで操作すると、星輝に差し出した。
それを確認すると、星輝はハリムに端末を見せた。顎に手を当てて、眉を寄せながらその写真を注視する。いろんな角度から見ようと下や横など顔を動かしながら見たが、やがて首を横に振って、知らないこと表す。
空と瞳にもどういう意味なのかわかったのか、肩をストンっと落とした。
が、ハリムはたまたま通りかかった大人しそうな女の子——休憩時間にハリムと星輝が話していた子——を手招きで呼ぶと、こちらに小走りで駆け寄ってくる。
ハリムはその女の子に先程見た写真を見せるように星輝に言う。女の子は突然のことでビクッとしながらも、それを数秒見つめたが、やがてゆっくり首を横に振った。
何も収穫を得ることはできず、三人はあの森の家へ帰った。
女子たちは風呂場へ直行して行った。きっと一日中動いて、汗をかいたりしたからだろう。
一方、星輝は風呂待ちと同時に今後の方針を考えていた。なんの手がかりも掴めずに終わった一日。
だが、何か違和感がある。
瞳の目撃情報についても聞いてみた。一度村を訪れ、少なからず村の人とも話した瞳。それに、あちら側からすれば何を話しているのかわからない謎の言語。覚えている者は覚えていた。
そしてその彼氏とやらのことを聞いたが、瞳とは対照的に、ほとんどの者は首を横に振り、覚えている者はいなかった。
だが『ほとんど』だ。一人だけいたのだ。その男を目撃した人が。
その人物がこう言っていた『そいつなら見た。うちの店から果物を奪って行ってそのまま逃げられた』と。
それほどのことをしたならもう少し見ている人がいてもおかしくない。となれば、奪った後、すぐにどこかに逃げ込んで身を潜めているのか。なら、他の場所に比べて、あの村にいる可能性は高い。
まだ場所に検討はつかないが、あの村だとわかれば、範囲は一気に絞られる。
(しばらくあの村に通ってみるしかないか)
めんどくせぇ……と背もたれに寄っかかると、ガチャっと音がする。
「星輝ー?お風呂空いたよー」
空がそうやって声をかけてきた。続けて瞳も後ろから出てくる。
仕方ない、今はとりあえず風呂へ入ろうと、星輝は椅子から立ち上がった。
前回とかなり間が空いてしまいました、本当にすみません。きっと前回の話を覚えてない人、もはや何が目的だったっけ?とそれすらも忘れてしまっている人がほとんどだと思います。それほど空けてしまいました。
それはもう、読んでくださいとしか言えません、すみません。
こんな不安定ではありますが、書きはしてるのでほんの少しだけ安心?なんでしょうか、してください。
今後とも宜しくお願いします。




