人の波に飲まれて
店を後にし、先へ進む三人。
順調に進む中、急に人通りが多くなり、飲み込まれてしまう。
なんとか出ることができたものの、その場には二人しかいなかった。
教えてもらった方向へと、とりあえず足を進めてみた。
確かに、だんだんと人が多くなってきているのはわかった。
店の数も先程の場所より多く、賑わっている。人の波が大きくなり、三人は隙間を通って、なんとか前に進む。
「わっ」
誰かに当たったのを始めに、後ろへよろけると、次々と押し寄せる人々に飲まれていく。
先程まで見えていた星輝と瞳は、いつの間にか消えていた。
「ちょ……」
空はなんとか抜け出そうと、隙間へ突っ込むが、惨敗に終わる。
(もう祭りじゃん!)
この先で何かやっていたのか知らないが、祭りの賑わいに似ている。
とりあえず、この人混みから抜けよう。
縦横斜め。いろんな方向を試してみたが、なかなかタイミングが掴めない。
ズボッと、運良く人との隙間に手が入った。
きた!
このまま……
順調に体を滑り込ませる。
が、バランスが崩れて、前に体重がいってしまった。空の足が、誰かの足に引っ掛かってしまったのだ。
(うそっ……)
地面に顔面を叩きつける未来が見えた。
思わず目を瞑って、なるべく痛くありませんように、と願う。
すると、今度は空の腕がぐいっと上がったかと思うと、引き寄せられるように体も持ち上がり、すぽっと人の波から出る。
(今度は何!?)
急に軽くなった体と何かに引かれる感覚に、眉を寄せる。
ポンッと倒れそうな体を何かに支えられる。
瞑っていた目を開けると、先程の人々の波はなく、代わりに一人、目の前に立っていた。
おそらく空の手を引いた人物であろう。
ゆっくりと顔を上げると、見覚えのある顔が、こちらを見下ろし、呆れた表情を浮かべていた。
その顔を見た途端、無意識に口から溢れる。
「星輝!」
その名を呼ぶと、星輝は深くため息を吐いた。
「なんで!?」
空は星輝の服に力を込め、背伸びしてぐいっと顔を寄せて言った。
星輝は空の顔から離れつつ答えた。
「あの人混みから抜けたと思ったら、今度はお前がいないんで、探しにきたの」
「そっか……」
そう言いながら、空はあれ?と思い、周りをキョロキョロと見回して聞いた。
「ねぇ、瞳ちゃんは?」
一緒に来ていた瞳という少女がいないことに気づく。
どこを見ても、姿は見えない。
「この人の中、また入るわけにもいかないし、抜けたところの店の前で、待ってもらってる」
「そっか……よかった」
ホッと胸を撫で下ろす。瞳も逸れたのではないかと、心配したが、それは大丈夫のようだ。
「人の心配できる立場か」
心を見透かされ、グサッとストレートに放ってくる。
「これは……違うもん」
微妙に語尾が小さくなった。
「へー何が?」
「だから……」
「この通り、逸れて迷子になって、さっきまでボコボコ人に流されてたやつの何が違うって?」
「うぅ……」
もう顔を見ていられず、顔を俯かせた。
その姿に、星輝は深くため息を吐く。
「お前って、ほんと迷子の才能あんな……」
「そんな才能いらない〜……」
「いつまでそれやってんだ。行くぞ」
星輝は空をベリっと体から離し、手を引いて瞳のいる場所へ戻った。
「えっと……この辺のはず……」
キョロキョロ辺りを見回していると、瞳を発見する。
だが、それはいろんな人に詰め寄られている場面であった。
「She's so pretty!(すごいべっぴんさんだね!)」
「Would you like to see our store?(うちの店見てかない?)」
「あの……えっと……私、わからないんですけど……」
明らかに困っている姿をした瞳は、なんとかその場をやり過ごそうと奮闘している。
「え、何……あれ」
空はその様子が目に入り、声を上げる。
「さあ」
「さあってね……とにかく助けに……」
空が突っ込もうとするのを星輝が引っ張り止めた。
「うわあ!」
そう声を上げると、勢いよく後ろへと下がっていく。
「何するの!」
「バカかお前は。あん中入ってどうすんだよ」
「どうって助けに——」
とここまで言って、空はハッとした。
先程までの自分を思い起こしたのだ。
人は前と比べれば少ないが、下手したらまた流されかねない。
空の様子を見た星輝は、呆れた目を向けている。
「とにかく、俺が行くから、その辺の人が少ない場所に——」
そこまで言うと、突然誰かの声が響き渡った。
「Hey you guys!」
その大きな声に多くの人が反応すると、ずんずんその人の中に入っていく。
タンクトップに短パンと、動きやすさ重視という感じの服装のキリッとした女性が見える。
そしてそのまま瞳の手を取ると、連れ出すように、その場を抜けていく。
「It would be troublesome if there were so many of us surrounding him!(そんなに大勢で囲ったら困るでしょう!)」
振り返り、そう声を上げると、皆ポカンと口を開けてその場で固まった。
それを見ていた星輝たちは、慌てて後を追う。
突然起こったことに、瞳は戸惑いを隠せない。
ただでさえ、英語がわからなく、会話どころか聞くこともままならないのに、この状況をどう理解しろというのだ。
二人とも〜早く戻って来てくださぁ〜い!
心の中はすでに泣きそうだった。
遅れてしまって申し訳ありません!
上手くまとめるのって難しいですね。
今後も頑張りますので、どうかよろしくお願いします。