5.白薔薇の君
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「京香、またなの?」
「ごめんなさい。圧が強くて、断れなくて…」
ここ最近、京香は隣のクラスの妙に派手な男子生徒に付きまとわれている。
遠回しに断っているのに、毎回白薔薇の花束を渡される。
どう見てもお高いその花束。
どうせ受け取らねばならないのなら、食べれるものをくれれば良いのに…とは、思っていても口に出せない。
仕方がないので、その花びらでポプリを作り、ネットで販売している。
高級な薔薇を使っているので、結構良い値段で売れたのはラッキーだった。
ただ貰ってばかりでは悪いと思って、そのポプリを彼に1つあげたのは良くなかった。
気を良くした彼は、ますます花の数を増やし、渡してくるようになった。
そろそろ、もっと高く売れる、他の再利用法も調べてみようと思っているところだ…。
「そいつ、絶対京香に気があるよ。
そんな奴からの花束なんて、受け取るの止めろよ!!」
尊は明らかに下心のあるその花束に、怒り心頭だ。
「そう思って断ってるのよ…でも彼、自分が断られるなんて思ってないから、遠慮してると勘違いして聞いてくれないのよ」
「なんだよ、その勘違い野郎!!
遠回しの言い方は止めて、はっきり言ってやれよ」
「そんなの無理だって…あの二階堂財閥のお坊ちゃんで、学院で一番権力強い人なんだよ!
そんな人にケンカ売ったら、私、学校行けなくなっちゃう。
せっかくタダで、自転車で通える距離の学校に入ったのに、今さら転校なんてしたくないし…」
京香もはっきり断れるものなら、とっくにそうしているけれど、階級意識の強いあの学院で、最高位に位置する二階堂に逆らうことは学院内での孤立を意味する。
尊は悔しそうに歯を噛み締めながらも、とりあえずその物を消し去ろうと、無心で花弁をむしった。
花びらが千切れてしまうと価値が下がるので、一枚一枚丁寧にむしることは忘れずに…。
京香の流されやすく、情に絆されやすい性格を尊は危惧していたが、その悪い予感は見事的中してしまった。
小野小町の百夜通いとまでは言わないけれど、そのしつこさと圧に負け、京香は30日目にしてとうとう、生徒会に入る事とお付き合いすることを約束させられた。
京香自身、お付き合いの方は、オッケイしたつもりは無かったのだけれど、生徒会を引き受けた時に、何故かそれに付随するように了解した事にされていた。
あれから一年が過ぎたけれど、今だにナゾである。
(高校入学してからの1年間、色々あったな…主に魁皇のせいで。)
魁皇は、釣った魚にエサをやらない…ということは全くなく、付き合ってからは更に尽くすタイプだった。京香限定で。
けれど、彼を取り巻く周りの女性達と遊ぶことも止めなかった。
それは魁皇にとって息を吸うのと同じくらい当たり前のことなので、他の女性たちと遊ぶことを止めるという選択は、初めからなかっただけのことなのだが…。
魁皇の側近の日下部は、一応それが一般常識ではないと理解しているので、京香に対し、申し訳なさそうにはする。でも主人を止めることはできない…。
(あれだけしつこく交際を迫っておいて、あり得ない!!私という彼女がいるんだから、浮気なんて止めてよ!!と怒り狂うところだろう。
普通なら。
でも、よく考えてほしい。
私、別に彼と付き合いたいと思っていない。
出来れば早く飽きてくれて、私に害の無い状態で、こんな感覚の違うおかしい人とは無関係になれないかな〜と願っている。
だから…今の状態のままで良くない?)
魁皇は京香に対し、まめに色々と貢ぐ。
それこそ盗聴器を仕掛けているのでは?と疑うほどのタイミングで、京香がちょうど欲しいと思っていたものがプレゼントされる。
しかもそれは浮気したことへのお詫びだと言うので、京香は一切罪悪感を感じる事なく受け取ることができた。
傷ついても、献身的に待つ女の子のフリをしておくと、魁皇のファンからの風当たりも幾分マシになった。
(これで高校卒業する前くらいに、とうとう彼の浮気に耐えられなくなって別れを切り出した体でいけば、上手く逃げ切り、楽しい大学生活を送れるんじゃないかしら?)
あまり早く切り出しても、残りの学校生活が過ごしにくくなるかもしれないので、京香はまだ言い出すタイミングを計っている最中であった…。
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