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理想の恋人  作者: 月樹
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4.入学式(2)

基本、毎週土曜日12時の更新を目指しております。

極マレに変則更新もあります。

 アパートから学校までは車で10分ほどで着くため、亮が運転する車は、予定よりだいぶ早く到着した。

 まあ、教員用の駐車場は校舎からかなり離れた位置にあるので、驚異的方向音痴の京香にとって1時間の余裕は必要とされる…。


 その後、心配だから送るという亮を何とか職員室に向かわせ、京香は一人、式の行われる講堂を目指した。


(もう30分程歩いているのに、それらしき建物が全然見当たらない。やっぱり亮ちゃんに甘えたら良かったかな・・・)


 そんなことを思いながら彷徨っていると、ふと手のひらに何か落ちてきたのを感じ、目の前に翳してみた。

 それは白い桜の花びらだった。

 つられて上を見てみると、桜の木が丁度満開の時期を迎えている。


(ああ、入学のお祝いに桜鯛食べたいな・・・でも、すでに入学に関する諸々で結構な出費だったし…。

 今年は尊も受験生で、またお金が必要だし、そんな贅沢してられないわね。

 尊も好きな、桜もちで祝って我慢しよう)


 そう心に決めた時、見上げていた桜の花びらを散らす、強いつむじ風が吹いた。


(あっ、向こうに新入生らしき人の群れ発見!ということは、入学式の行われる講堂はあっちね)


 京香は集団を見失う前に、急いで彼らの後を追った。


 集団に従って進み、無事講堂にたどり着いた後は、春休みに学院長に説明されていたように舞台裏へと足を進める。


 何とかまだ他の人が来る前に到着できたので、ほっとした京香は脇ポケットから答辞の書かれた紙を出し、暗記を始めた。

 本当は昨日のうちに終わらせるつもりだったのが、春休み最後の日ぐらいずっと一緒にいてという可愛い弟の甘えに絆されて、昨日一日尊とお出かけしたり一緒にご飯を作ったりとまったり過ごしてしまい、すっかり答辞のことを忘れていたのだ。


 幸い答辞の文章自体は、春休みに生徒会長と一緒に作成済みだったので、あとは頭に入れるだけで良かった。


「白藤君、大丈夫?緊張していない?」


 暗記に没頭していて、人が傍に来ていることに全く気付いていなかった京香は、いきなり声を掛けられ、思わずビクっとした。


 声がした方に振り替えると、相変わらず人の好さそうな顔をした、生徒会長の田宮陽一が微笑んでいた。

 京香もつられて微笑み、慌てて返事をする。


「田宮会長、お気遣いいただきありがとうございます。会長にご指導いただき作成した文を間違えないように覚えるのに必死で、居られたことに気づかないなんて…申し訳ありません」


 挨拶文をみつめていた人形めいた美しい顔が、少し焦って年相応の可愛らしい表情に変化したのを見られ、陽一は役得だなと思いつつ、言葉を続けた。


「君は真面目だね。みんな君の美しさに見とれて、話の内容なんてちゃんと聞けないと思うよ」


(それはないでしょう。 人の顔なんて好み分かれるし、ずっと見てたら飽きるんだから…)


 京香は返答に困り、曖昧な笑顔を浮かべながら、紙をポケットにしまった。

(まあたぶん頭に入った。多少間違えても、その場でアドリブで誤魔化そう…)


 陽一からの合図が入り、京香は壇上へと上がる。

 壇上に立つ京香を見て、みんな大きく目を見開き、一斉にざわついた。


『誰だ?あんな美人、うちにいたか?』

『どうして二階堂様じゃないの?誰、あの娘?』

『すごい顔小さい!!芸能人?テレビの撮影か何かか?』


「皆様、お静かにお願いいたします」


 京香の大きくはないけれど、しっかりと響く声で、みんなシンっと静まった。

 京香はそんなみんなに微笑むと、話を続けた。


「桜が咲き誇る中、私達223名はこの伝統ある紫明学院高等部に入学いたしました…」


 生徒達は、そこで初めて、この美少女が今年の新入生代表なのだと認識した。

 紫明学院の答辞、送辞は成績で決められる。

 つまり、この美少女が()()二階堂魁皇を抜いて、一番だったことを意味する。

 みんな、最初とはまた違った驚きで、壇上の美少女に注目した。


 儚げで今にも消えてしまいそうな風情の、人間離れした美少女なのに、その声は凛とした強い意志を感じる。


「〜以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。1年A組 白藤 京香」


 一瞬の沈黙の後、大きな拍手で迎えられ、京香はホッとして壇上から降りた。



「魁皇様の首席の座を奪ったのは、まさかの美少女でしたね。

 白藤?存じ上げないお名前ですが、どちらのご令嬢でしょう?」

 時雨は、舞台裏に消えていく美少女に目をやりながら、不思議そうに見送った。


「時雨、白藤京香について、すぐに調べろ。彼女(あれ)を今期の生徒会に入れるぞ」

「畏まりました」

 式の前の不貞腐れた状態が嘘のようだ。

 口角を上げ、いつもの傲慢な態度を取り戻した主人に、やれやれと思いつつ、時雨は次の作業へと取りかかった。

お読みいただきありがとうございます。


誤字脱字報告ありがとうございます。

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