40. 鬼瓦家(1)
鬼瓦家で出された夕食は、それは豪華で見た目も美しい懐石料理だったけれど…
ほとんど食べることができなかった…。
それは、こんな環境で食べてもほとんど味を感じられないから…なんて精神的な理由ではなく、あの祖母なら食事の中に何か変な薬を入れるぐらいやりかねない…
という危機感から安心して口にすることができなかったからだ…。
「あら…京香ちゃんは少食なのね。そんなに華奢なのに、もっとしっかり食べないと駄目よ」
そう優しそうに微笑ん勧める祖母の目が笑っていない…。
絶対に何か入れている…と確信した。
もちろん気を許すことのない私が朗らかに会話を楽しむはずもなく、夕食の席はシーンと静まり返っている。時々探りを入れてくる祖母の声が聞こえるくらいだ…。
そんな静まり返った中、突然ノックの音が響いた。
「食事中に何かしら?」
話の腰を折られ、少し不満そうな祖母の呟きを…
「入れ」
祖父は無視して入室の許可を出した。
初めて祖父の声を聞いたかも…。
この家は祖母の方が強いのかと思っていたけれど…最終的な決定権は祖父にあるのかもしれない。
「お食事中、失礼いたします」
ダークスーツを着た、執事っぽい白髪のおじいちゃんが頭を下げ入ってきた。
「構わん。何があった?」
食事を続けたまま続きを促す祖父に、執事っぽい人はそっと側に近づき跪き、耳元で声が周りに漏れないよう計らって用件を述べた。
(でも…私、昔から地獄耳と言われるくらい、耳はいい方なのよね…)
所々漏れ聞こえる話の中に、ミコトという名前が出てくるのが気になった。
私だけでなく、尊も誘拐されている…もしくは、これから攫おうとしている…?
その後、祖父は少し難しい顔をして…
「急用が入ったので失礼する。京香はゆっくりしていきなさい」
と初めて私に話し掛け、席を立った。
祖母は祖父が出て行ったドアの方を気にかけながらも、何もなかったように振る舞い、夕食が終わった後は、私のために用意したという部屋に案内された。
「どうかしら?あなたが気に入ってくれそうな部屋にしてみたのだけれど…」
確かに私の好みに合っている…。
というか…カーテンの柄に壁紙の色も、置かれている小物まで、そのまんま私の部屋を模して作られたものなんですけれど…。
しかもうちのはホームセンターで購入した安物なのに、この部屋のものはデザインは同じで品質の良い上等なものに置き換えられている…。
これ…絶対、部屋の中盗撮されているよね…。怖っ!!
しかも…
窓には面格子、鍵は扉の外からしか開けられないもので…逃亡出来ない仕様になっていた。
(とりあえず、すぐに危害を加えられることはなさそうだけれど…尊も大丈夫かな…)
京香が尊の安否を気遣っていた頃、同じ邸の応接室では…
~・~・~・~・~
「久しぶりだな…」
鬼瓦家当主である自分が声を掛けても、無言で席を立つこともなくこちらに目を向けることもなく、尊大な態度でソファーに腰掛けたままの相手に、景虎は少し眉をひそめた。
しかし、彼が誰に対してもこういう態度なのは理解している上に、今の鬼瓦家にとって無くてはならない存在なのも重々承知している…。
景虎は取り繕った笑みをべ、話を続けた。
「連絡もなく訪ねてくるなんて、珍しい…。どうかしたのか?」
そこで相手はやっと、その人形のように美しい顔を景虎の方に向け、視線を合わせた。
「どうかしたのかだと…?」
落ち着き払った声に反して、その表情は明らかに憤っている…。
「何がそんなに気に触ったのだ、ミコト!?」
慌てて宥めようとした景虎は、選ぶ言葉を間違え…
「爺さん、ボケたのか?」
そして…より相手を怒らせた…。
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