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理想の恋人  作者: 月樹


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35. 体育祭(3)

『借り物競争に出場の選手は入場門前に集合してください』

 2つ前の競技が終わりに近付くと、招集のアナウンスが流れた。


「じゃあ集合が掛かったので、白藤さん、行きましょう」

 日下部君に促され、一緒に集合場所へと向かうと、白のハチマキを巻いたS組メンバー、赤のハチマキを巻いたA組メンバーが見えて来た。

 白ハチマキの集団の周りには、色とりどりのハチマキを巻いた人達が異様な勢いで取り囲んでいる。

 昨年初めて経験した時は何事かと驚いたけれど…2年目にもなれば、見慣れた光景だ…。


 S組は元々人数が少ないため、運営側に回る体育委員、生徒会メンバー以外は、ほぼ全競技に出場しなければならない。

 それは普段S組に関わることの出来ない他クラスの生徒が、S組の生徒に話し掛けられる、滅多にないチャンスでもある。

 みんなソレを楽しみにしていて、お目当ての人に近づける絶好の機会を見逃さず、貪欲にアピールしていく。

 だからか…こちらを見るみんなの目が狩人の目に変わっていて…怖い…。


『日下部様がいらっしゃったわ…』

『素敵…せっかくお近くで話し掛けられるチャンス…行かなきゃ…』

『おっ…白藤様も一緒だぞ…この勢いに任せて、お近づきになれるかも…』

『本当…生徒会の皆様に取り入りたい…』


(何だか、こちらにまで飛び火がきそうな嫌な予感…)


 私がす〜っと日下部君から距離を取ると…


 その途端ピラニアがいるアマゾン川に掘り込んだ時のように、女子達が日下部君に群がり彼の姿は見えなくなった…。


(まあ…取り囲まれて質問攻めにされたり、多少お触りされるだけなので…問題ないでしょう…)


 私はそのまま日下部君を放置して、赤組のみんなのところへと移動する。


「白藤さん、大丈夫だった?」

 同じクラスの西村さんが気遣って声を掛けてくれた。

 彼女は紫明学院の中では、比較的私と同じ庶民感覚のある人なので、こういう学院特有の異常と思える環境を不思議に思う気持ちに共感してくれる貴重な人だ。


「うん、日下部君をオトリにしたから大丈夫」

 私が笑顔でそう答えると、西村さんは人混みに埋もれた日下部君を一瞬憐れみの目で見てから、何も無かったように会話を続けた。


「そう言えば…生徒会の人とか人気のある人は、()()()()()側にまわることが多いから、あまりこの競技には選手として出ないのに…白藤さんは意外ね…」


 そう…この学園の体育祭。

 本当…みんなちょっとした機会も逃さないので、借り物競争などは絶好のお近づきチャンスとなる…。

 だから、ベタな『好きな人』なんてお題から、『亀を飼っていそうな人』なんてレアなものまで、全て自分が目当ての人にムリクリ当てはめ…借りられる…。


 昨年、それを知らずに体育祭に挑んだ私は、結局借り物競争の間、ほとんど連れ出されて走り回るはめになった…。

 だから、今年は選手側になれば借りられないと気づき立候補したのだ…。


「なるほど…そういえば白藤さん、昨年の体育祭では大変だったものね…」

 西村さんも昨年の痛ましい姿を思い出したのか、同情してくれた。


 そんなこんな話をしているうちに、競技の開始が近づいてきた。


 ちょっと気になってS組の方を見てみると、みんな揉みくちゃにされた後にしては、何も無かったかのようにいつものキラキラ☆仕様に戻っている。


 さすがS組…何か特別な形状記憶の魔法でも使用してるのかしら…。

お読みいただきありがとうございます。


誤字脱字報告ありがとうございます。


申し訳ございません。


前話から少し話を修正しております。




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