33. 体育祭(1)
そろそろ開会式が始まるため、後は先生方にお任せし、私達生徒会の人間は本部席に戻りました。
午後から見学に来られる来賓の方もいらっしゃるけれど、後は先生方で対応できるので、私達は本部席で待機し、緊急時の対応のみできるようにします。
体育祭の競技の進行に関しては、体育委員主導で行われるので、私達生徒会は来賓応対、トラブル対応の役割だから…。
「そっちも終わったか?こちらも何とか村椿会長と神宮寺の父を一番離れた端と端に座らせて、言い争えないようにはしておいた…。
本当にこんなところでまでいい年した大人が…わきまえてほしいものだ…」
思い切りため息をつく魁皇の横顔には、朝イチから疲労が見える…。
2人ともが重鎮だから、魁皇も手こずったようね…こちらもある意味疲労困憊だけれど…。
「若…雅様の元婚約者のアクラム氏が、姫に接触してきました。
どうやら例のポスターを見て姫の存在を知ったアクラム氏から、鬼瓦家に連絡を取ったようです。
鬼瓦家はすでに姫の所在を知っているようでした」
天馬くんからの報告に…
「知っている…というか、先日尊から情報提供があった」
魁皇は神妙な顔で頷いて、答えているけれど…
(え〜ッ!!尊ったら、私には一言二言しか連絡くれないのに、密かに魁皇とは連絡を取り合っているの!?)
思わず嫉妬の眼差しで魁皇をじっとり見てしまった…。
「そんな目で睨むな…まあ、京香に睨まれたところで、可愛いだけだが…。
尊は尊で、京香を守るために必死に動いているのだから、信用して待っていてやれよ。
尊からの情報だと、海星志學館にいる留学生は思った以上に鬼瓦家の中心にいる人物で、しかも京香達の存在はアメリカにいた頃から知っていたそうだ…」
「えっ…そんな前から…」
「そのうえ、その留学生、白藤姉弟の幼稚園時代からのストーカーで、長身で銀髪にブルーグレーの瞳のイケメンらしい…」
(…尊と同じ年で、幼稚園時代からのストーカー?
その情報が強烈過ぎて、後に付け足されたような銀髪イケメンを思い切り打ち消しているわ…)
銀髪に青い目…一瞬天使のように可愛かった幼馴染のアンジェラが思い浮かんだけれど…
(アンジェラは私より小柄な女の子だったし、瞳の色はブルーグレーというよりわ空色だったから…全く違うわね…)
「そんなストーカーと同室で、尊は大丈夫なのかしら?」
幼い頃から、ストーカーには馴染みのある白藤姉弟だけれど、さすがに同じ部屋で暮らした経験はない。
「しっかり相手の弱味を握ったから、尊の方は大丈夫だと言っていた…ただ、アクラム氏が接触してきたということは…本家が動き出すかもしれないな…。
京香は更に気をつけて、ちょとした変化でも俺に報告するように」
「わかった」
流石にこの状況で我儘は言えないわ。
朝夕の送り迎えはもちろん、最近は教室内でも前以上にどこかから監視されている視線を感じるし、魁皇には休み時間の度に安否確認の連絡しないといけないし、たぶん持ち物のどれか…あるいは全部にGPSを付けられているし、アパートの両隣の人にやたらと会うし、変な物音がしたりするけれど…
我儘は言えないわね…。
〜・〜・〜・〜・〜
その頃、海星志學館では…
「今頃京香は開会式だね♡」
「なぜお前がそれを知っている…」
「え〜っ?それくらい常識だよ。まさか尊は弟なのに知らなかったの?」
「今日紫明学院が体育祭なのは知ってる…」
ゴソゴソ…ゴソゴソ…
ヘンリーは鞄からスマホを取り出すと何かを見て、ダラシない顔をした。
嫌な予感がして…
シュパッ!!
「あ〜、尊返して!!それ僕のスマホ〜!!」
画面には、こちらを見て微笑むお団子ヘアにジャージ姿の京香がいた…。
すぐに自分のスマホにデータを移し、ヘンリーのスマホのデータは消去して返す。
横で叫んでいるヘンリーは放置して、すぐに二階堂に連絡をした。
紫明学院は良家の子女が多いため、体育祭も厳重な警備で、保護者か余程のVIPしか中に入ることはできないというのに、あの写真は至近距離から視線を捉えて撮影されたものだった…。ということは、すでに紫明学院の中に鬼瓦家の手の者が入り込んでいるということだろう…。
果たして、この隣でアホみたいに嘆く残念イケメンは僕たちの敵になるのか?
それとも味方になるのか…?
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