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理想の恋人  作者: 月樹
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31.月が綺麗ですね(9)

 母にこんなアラブの大富豪のような知り合いがいたとは思えないし…年齢的に親子ぐらいの年の差なので、留学してきた同級生もあり得ない…。

 私が不思議に思い考えていると…


『不躾に申し訳ありません。日本で話の際に天候について語るのと同じ感覚で、私達の国では、お互いの家族について話をするものですから…』

 とお付きの人が説明してくれた。

『そうなのですか?国によって様々な習慣がありますね…。

 うちは両親を三年前に交通事故で亡くしてますから、今は弟と二人暮らしなんです』

 実際には、その弟も寮に出てるから一人暮らしだけれど…会ったばかりの人にそこまで細かく説明しなくてもいいよね…。

『お母様が亡くなられた!?そんな…なんてことだ…。

 私にできることがあれば、いつでも頼りなさい』

 初対面の相手なのにアラブの老紳士は自分のことのように悲しんでくれて、心配して自分の名刺まで渡してくれた…。

 とても良い人のようだ…。

『ありがとうございます。両親が遺産を残しておいてくれましたし、近所の人達も助けてくれたので問題なく暮らしております。お気遣いいただきありがとうございます』

『君には…頼りになる婚約者はいないのか?』


 親身になってくれるのはありがたいけれど…随分と込み入ったことまで聞いてくるな…と返答に困っていたら…


『彼女には立派な婚約者がおりますから、ご安心ください』

 と天馬くんが代わりに答えてくれた。

『君は…あのポスターの…まさか、君が彼女の婚約者なのか!?』

 あれ?今までの穏やかな感じから一転、急に何だか空気がピリピリしだしたぞ…。

『あのポスターをどこかでご覧になられましたか…?

 あれはたまたま私がモデルの仕事をしているものですから、急遽代役を頼まれ…彼女はそれにつき合ってくれただけです。

 彼女の婚約者は、私の主ですから…』

『君の主とは?』

『二階堂の若君です』

『二階堂家か…』

 二人は表面上はにこやかに語らっているだけなのに…何だか殺伐としているのはナゼ…?



 その後は儀礼的な挨拶をして、とりあえずその場を離れたのだけれど…


「姫…さっきのご老人が誰か知ってますか?」

 天馬くんが聞いてくるので、先程いただいた名刺を見せる…。


 外枠を美しいブルーのアラベスク模様で囲われた名刺には、アクラム・ビン・マーリクという名前と、手書きで書き足された連絡先が記載されている。


「あ〜、やっぱり…」

 天馬くんは名刺を見るやいなや、眉間にシワを寄せた…。


「天馬くんは、あのご老人が誰か知っているの?」

「彼は、世界長者番付にも名前があるアラブの大富豪です…。そして…姫のお母さんの元婚約者…」

「えっ…どう見ても、私達のおじいちゃん世代よね…。実際は見た目より若いとか…?」

「いいや、御年80歳を越えていたかな…」


 見た目以上に年上だった…。


「何で、そんな年の離れた人と婚約を?」

「アクラム氏が雅様に一目惚れして、鬼瓦家に申し込んだそうですよ。当時アクラム氏にはすでに三人の妻がおり、還暦を迎えていましたが…鬼瓦家にとってそれは、大きな問題ではありませんからね…」


 お母さんが海外逃亡を図った気持ちが分かった…。

 いくら何でも18歳で還暦過ぎた三人の奥さん持ちに嫁げなんて…無茶すぎる…。

 鬼瓦家、目的のためには肉親に対しても容赦なさ過ぎて怖い…。


 〜・〜・〜・〜・〜


 その頃…来賓席では…周りの者達が聞き取れないアラビア語で会話する老紳士と秘書の姿が見られた。


『会長…あの女生徒は…。先日、京都で見掛けたポスターの方ですよね…?』

『そうだ。あまりにもよく知る女性にそっくりだったので、彼女の親戚に身元を確認した。

 彼女は私の婚約者だった鬼瓦雅の娘だ…。

 雅とは、彼女の高校卒業と同時に結婚する予定だった…』

『それで突然母親の話をされたのですか…。

 あまりにも唐突すぎて、彼女が不審に思っていたものですから、誤魔化すためにありもしない習慣を作ってしまいました…。

 もっとも隣にいた男子生徒は信じていませんでしたが…』

『すまない…。駆け落ちまでされて、女々しく後を追うのは沽券に関わると思い、探すのはあきらめたはずだったのに…それでも雅のことは、ずっと忘れられなかった…』

『そもそも彼女の母親なら、会長よりも随分若いと思うのですが…どうして婚約されたのですか?』

『それは…』


お読みいただきありがとうございます。


誤字脱字報告ありがとうございます。


長くなりそうなので次話に続けます。


本日、18:00に更新いたします。




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