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理想の恋人  作者: 月樹


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27.月が綺麗ですね(5)

 新学期が始まり一カ月程経ったけれど…

 学校内で特に変わったことはなく…今は体育祭の準備に向けて、生徒会は猫の手も借りたい忙しさだ。


 そこで…どうせならと、護衛も兼ねて天馬君が補佐として生徒会に入ることになった。


 元々人気者なうえに、日下部君の従兄弟なので、特に問題なく入れたようだ…。

 天馬君は、その実力を魁皇が認めるだけあり、仕事は早く正確で…即戦力となった。


「天馬、開会式に呼ぶゲストの資料集めておいてくれ」

「若、それならすでにこちらに…」

「う~ん、今年は村椿(むらつばき)会長が来賓として来られるのか…?

 あのご老人、神宮寺の親父と犬猿の仲なんだが…」

「今、神宮寺のご当主は企業提携のためヨーロッパに長期出張中ですから、体育祭にはいらっしゃらないと思われます…」


 すごい…。言われる前に、すでに先回りして資料が用意されているし、必要と思われる情報が仕入れてあるなんて…

 すぐ、他人(わたし)に仕事を押しつけようとする日下部君より仕事できるんじゃない…?


 なんて不遜なことを思いながら、彼らの様子を見ていたら…


「天馬は本当に仕事はできるんだ…だが、自分が面白くなるために、時々その中にフェイクの情報を混ぜる…

 それが実に巧妙で…簡単にフェイクとは見抜けない…。

 だから、安心して仕事を任せられないので、側近には向かない男なんだ…」

 私の視線に気づいた魁皇が、苦々しい顔でそう告げた。


 すご~く面倒くさい…。

 確かに、それなら二階堂家への忠義心は確かな日下部君の方が適任ね…。


天馬(これ)は自分の楽しみを優先するけれど…命に関わることとか、()()()()の判断は見誤らない男だ…。護衛としての腕は随一なので安心してくれ…」


 命の保証だけはされるけれど…主の婚約者(仮)でも、どんなオモチャにされるかは分からない…ということね…。


「尊の方は、隆盛に頼んで身辺警護をさせているから大丈夫だ…」


 魁皇は…何だかんだ言っても、こうやって(みこと)のことまで気に掛けて、手を打ってくれるから頼りになるのよね…。


「ただ…最近、アメリカから海星志學館に留学生が来たらしい。

 それ自体はそう珍しいことではないのだが…その生徒、鬼瓦家の分家筋の者で、尊に接触を図っているようだ…。

 隆盛も気を使ってくれているが、あの学校は完全実力主義なうえに、その留学生はあちらでは既にスキップで名門大学の大学院に入り研究生をしていたほどの天才だ…。

 隆盛でも抑えきれないほど、校内での力を伸ばしているらしい…」


 尊…大丈夫なのかしら?

 一応毎晩近況報告のメールは来るけれど…最近は一言二言の安全確認だけになっているし…

 前は授業が終わるたびに長文で連絡が来ていたのに…。


「まあ、尊はそんな簡単にやられるような男ではないだろう?

 弟の成長を信頼してやれ」

 私が不安げな表情になると、それを振り払うように微笑んでくれた…。


 魁皇は尊の実力をちゃんと把握してくれている…。

 尊も魁皇の能力自体は認めていて…信頼しているし…私が挟まらなければ、案外二人はいい関係を築けるのかもしれないな…。


 そうほんわかとした気分になっていたら…


「あっ…そういえば…姫。この前、撮影したポスター出来上がって、関西(あちら)の駅や街に貼り出されているようですよ…」

 さり気ない風を装って、いいタイミングで火種を蒔く天馬君は、またあの胡散臭い笑みを称えていた…。


 ~・~・~・~・~


「ねえねえ、このポスターすごく良くない?

 この恋人に優しく笑いかける感じの天馬くんの表情もいいけれど、この相手の女の子…透明感があって、ちょっと照れた初々しい感じが凄く良いよね」

「誰だろ~?こんなモデルの娘、いたっけ?」

「私も初めて見るけれど、ちょっと雰囲気のある綺麗な子だね…。

 背景が満月だからか…何か…かぐや姫みたい…。

 私、この香水買ってみようかな…?」

「うん、匂いも悪くないし…良いんじゃない?」


 女子高生達が、ポスターの感想を述べて店に入って行く頃…

 同じポスターを車窓から見ていた男性が、ポツリと呟いた…。


『ミヤビ…』


 そのポスターには、今人気のモデル天馬翔と、どこか浮世離れした儚げな雰囲気なのに凛とした眼差しの美しい女性が、月をバックに微笑み合う姿が写っていた…。


『会長…どうかされましたか?』


 商談に向かう途中、じっとポスターを見つめて黙りこくった会長に、何かあったのかと秘書が尋ねると…


『今日の予定は全てキャンセルだ…。至急、鬼瓦氏にアポを…』


『…畏まりました』


 天馬の思惑通りなのか…京香達の知らないところで、事態はひっそりと動き始めていた…。

お読みいただきありがとうございます。


誤字脱字報告ありがとうございます。





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