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十二通目 異常異能者集団

「早々さんの乱入があり、彼への尋問は続行できませんでした。」

 余寒の報告に厳冬が眉をひそめる。

 あれだけ問題を起こした青年、藤花の正体。それがまさか、関東支部に長期出張をしていた早々を追いかけてきただけの人騒がせな|QAT関西支部の捜査員《味方》だったとは。

 これには、流石の厳冬も予想外だった。

 それに、藤花から容疑が外れたということは。今回の発端である異常異能者の不審死。それに伴う異常異能者集団の関与。この捜査が振り出しに戻ったことを意味している。

 二人の会話を聞き耳を立て聞いていたオフィス内の面々も、捜査が振り出しに戻ったことを悟り、神妙な面持ちをしている。


「だーかーらっ!治さなくていいって言ってんだろ!」

 余寒と厳冬が話をしていれば、廊下から抵抗するような藤花の声がする。

 直後、黙れ!と紅葉の怒号がしたことから、どうやら藤花が白露の治療を拒んでいるようだった。

 早々がどれだけ藤花を痛めつけた(躾けた)のかは、余寒には想像しかねるが、会話だけを聞いても、異能での緊急の治療が必要な程なのだろう。そのことを悟り、余寒が一つ大きなため息をつく。

 すると、ガチャリ。と扉が開く音がする。

 部屋に入ってきたのは、菊花と三伏。そして、拝啓。

 突然の拝啓の登場に、オフィスの奥、デスクワークで目をしょぼしょぼとさせていた歳末が立ち上がる。

「拝啓!帰ってたんだ!?」

 驚嘆のような、歓喜のような声に、拝啓はにこりと微笑み、黙って手を振る。

 歳末は、やっと年長者としての責任から解放されたと言わんばかりに、ホッとした顔で席に座り直す。


 拝啓は、真っ先に厳冬の元へと歩み寄った。

「厳冬くん。おれの代わりに色々とありがとうございましたー。」

 以後は、本来の業務に戻ってください。よろしくお願いしますね。

 拝啓の言葉に厳冬は頷くと、私はこれで。とオフィスを出ていく。

「三伏くん。厳冬くんと何かありましたかー?」

 立ち去る厳冬の背を睨みつける三伏に気づき、拝啓が問う。

 三伏は無意識だったのか、ハッとした顔をした後、意を決したように拝啓を見上げる。


「そうですか。厳冬くんが、晩夏くんについて不可解な発言をしたと。」

 拝啓の言葉に、三伏が何度も頷く。

 その表情は、胸の突っかかりをやっと人に打ち明けられたことによる安堵に満ちていた。

 拝啓ならば、真摯に自分の話を聞いてくれるだろうという信用もある。

 二人の話を聞いていた、歳末も、厳冬は何処かおかしかった。彼女はまるで三伏を始末したそうだった。と拝啓に情報を付け加える。拝啓は口元に手をあて思考する。

「恐らくですが、厳冬くんの言っていることに嘘はありません。」

 拝啓の発言に、三伏が先程の安堵は一転、拝啓へ掴みかかる勢いで反論をする。

 自分はこの目ではっきり晩夏が人を殺すところを見たのだと。

 その必死の訴えに、拝啓はもう少しおれの話を聞いてくださいー。と三伏の肩に手を置き、宥める。


「晩夏くんも、集団のネットワークに加入している可能性があります。」

 その為、厳冬くんはただ単にキミの晩夏くんの単独犯行であるという説を、否定しただけというのはどうでしょうー?

 拝啓の簡潔な説明に、三伏が驚いた表情になる。

 それもその筈だ。三伏の知る晩夏という人物は、基本的に人とコミュニケーションを取ろうとしない。

 そんな人物が、わざわざ集団のネットワークに加入しているなど、晩夏をよく知る三伏にとっては真っ先に除外する可能性だった。

 三伏が放心した顔をしている間に、拝啓は歳末に向き直る。

「それと、歳末くん。厳冬くんが三伏くんをあえて危険な任務に選んだ理由は簡単です。関東支部(うち)の最高戦力を使えるからですよ。」

 はぁ?理解のできない歳末の口から間抜けな声が出る。

 歳末の知る最高戦力は拝啓だ。三伏ではない。

 思考を巡らせる歳末を気にせず、拝啓はまだ放心状態となっている三伏に視線を移し、にこりと微笑んだ。


*



 薄暗い室内。崩れた壁。古ぼけた廃虚。

 ここは、異常異能者のネットワークを管理する集団、そのアジトだ。

「ただいま戻りました。ボス。」

 そこに、凛とした女の声がこだまする。

 女の視線の先には、サイドテーブルに乗せられた水と、埃っぽい色をしたボロけたソファがある。

 その上に寝転がる、黒く酷くボサついた長髪の男。床まで垂れるその髪は、全くと言っていいほど管理されていないのが、一目で見て取れる。

 低く掠れた声で、男はあぁ。と短く返事をした。

「申し訳ありません。暴れていた異常異能者はQATに捕らえられました。」


 女が恭しく頭を下げる。

 女の謝罪に、男は小さく、いい……構わない……。と零す。その声は弱々しく、他者にボスと呼ばれるような威厳は感じられない。

「お前達がいれば、作戦に支障はきたさない…。そうだろ、晩夏……。」

 横になったまま、男は身動ぎし、そうして部屋の隅に視線を向ける。

 焼け焦げたような跡のある古い椅子に座るのは、晩夏。名前を呼ばれ、顔を上げた晩夏と男の視線が絡む。

 だが、興味がないように晩夏はすぐに視線を床に向ける。

「僕達では、拝啓には勝てない。」

 拝啓。その名前を聞いた瞬間、男が起き上がる。

 すぐさま、サイドテーブルに置いてあった水のあったコップを晩夏の方へと投げつける。

 幸い、コップは晩夏まで届かず、水をまき散らし、大きな音を立てて床で粉々になったが、その音に共鳴するように辺りに怒号が響く。

「オレの前で拝啓の名前を出すんじゃねぇ!ッウッうぇっ、ゴホッ!」

 怒号の後。盛大に噎せ喘いだ男の背を、女が優しくさする。

 男の体は、痩せぎすで、体中に乱暴に巻かれた包帯には血が滲んでいる。ゼーハーと荒い呼吸をする度に、何処からか空気の抜ける音がする。男の体は、誰が見てもよくはない。

 男は、女の手を振り払い、恨み言のようにぶつぶつと呟きだす。

「拝啓を殺す……。そのためには強い異常異能者を仲間にする必要がある……。」

 そうだろう。()()

 男に名を呼ばれ、女……厳冬が肯定する。

「えぇ。そうです。ボス。」

 引き続き、強き異常異能者には手紙を。

 厳冬の言葉に、男は満足したようにソファへと横になる。その様子を見ていた晩夏は立ち上がり、廃虚(アジト)をあとにした。


*


 拝啓の周囲が二人して混乱状態になっている時、扉の前がギャーギャーと騒がしくなる。それは、二つの声の言い争い。

「大人しくしろ!」

 一つは、紅葉の怒号。

「うっせー!ハゲ!触んな!」

 もう一つは藤花の怒号。

 ばん!と勢いよく開いた扉に視線が集まる。

 そこには、声の通り、紅葉と藤花が立っていた。その後ろにちょこん……と居心地が悪そうに白露が立っているのが見える。

 余寒が拝啓の側に寄り、藤花についての軽い説明を耳打ちする。

 わかりました。拝啓は頷き、藤花の前へと立つ。背の高い拝啓を藤花が怪訝そうに見上げる。

「関東支部へようこそ。藤花くん。」

 藤花は、意地の悪そうな顔で拝啓に伸ばされたその手をはたき落とす。

 瞬間、藤花は凄まじい殺気による悪寒に身震いする。

 この男……!と警戒して見上げた拝啓は、残念そうな顔をしているだけだ。ましてや、殺気など向けてくるような雰囲気が欠片もなかった。

 では、誰が。藤花はキョロキョロと辺りを見渡す。

 すると、拝啓の背後。自分とよく似た顔の菊花()が、ジロリと藤花を睨みつけているのと目が合った。

 思わず、藤花はヒュッと息を呑む。採石場で、藤花やギフトと戦っていたときでさえ、菊花はこんな殺意を周囲に向けることはなかった。

 では何故急に。藤花には今更こんな殺意を向けられる心当たりがない。

 今、藤花がやったことと言えば、握手を求める拝啓の手をはたき落とした程度だ。

 ……まさか、その程度で?藤花は理解すると同時に心の中で叫ぶ。こいつ……!どんだけこのおっさんが好きなんだよ……!

 菊花から、盛大に面倒くさい気配を感じ取った藤花は、精一杯の嫌悪の籠もった表情を向けるしかなかった。


更新は最低でも二週間に一話ペースです

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