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06 3人目は服に着られて百合オタク解放!?

「わたくしの中の“百合オタク”としての情熱が弾けたのですわ! 」


さっきまで地味な服装で黙り込んでいた“少年”が、なぜか煌びやかな魔法少女姿で現れ、目の前で堂々と微笑んでいる――。


(え……この子、さっきまで男の子のはずだったのに?しかも3人で撮影会?どういうこと?)




ーー数時間前


「スターリースプラッシュ、いっくよ〜っ☆」


 ぼく、天川ひかりは、カフェのホール中央で、ステッキを高く掲げ、くるりと回転する。


 ふんわり広がるスカートのフリルと、背中の小さな羽が軽やかに揺れ、服の装飾が光を受けてきらめいた。


 そのたびに、お客さんたちから歓声が上がる。


(やばい……めちゃくちゃ恥ずかしい……けど、体が勝手に動いちゃう!)


 顔が熱くなるのを感じながらも、キラキラとした決めポーズをとり、ステッキを胸元へ引き寄せた。


 すると、まるで本物の魔法少女アニメの一場面のように、自然と高くて甘い声が口をついて出てしまう。


「スターリースプラッシュ!あなたのハートに魔法をかけちゃうぞ☆」


(ま、まずい……こんなセリフ、台本にはなかったのに!恥ずかしいのに高揚感、やばい)


 ここ「Café Catalyst」では、期間限定イベントの魔法少女デーが行われている。


 ピンクや水色、ラベンダーといったパステルカラーの装飾で店内はファンシー一色。


 天井から吊るされた星形のライトが揺れるたび、床にふんわりした影を落としている。


 ぼくは今、フリフリ魔法少女衣装を着せられて“女体化”した姿で接客中だ。


「はいっ♪ こちらは“魔法のホワイトチョコラテ”になります☆ よろしければSNS映えの写真も撮ってくださいね~!」


 自分の声が普段より高く、まるでアニメの主人公のように甘いトーンになる。


 この店のイベント時にはいつもこうだ。


(いや、本当に自分の声なのか疑うレベル……こんなの普段の“ぼく”じゃ絶対無理だってば!)


 お客さんは「魔法少女ちゃん可愛い!」「完成度高すぎ!」「写真撮っていいですか?」と大はしゃぎ。


(もう慣れたけど、やっぱり恥ずかしい……でも喜んでもらえるならいいか。でも、服に”着られる”前は男なんだけど……)




 一緒に働いているのは、かなたちゃん。


 どこか幼さの残る、どこから見てもほんわか可愛らしい女の子。でも、ぼくと同じで、服に着られて男から女になってしまう体質仲間だ。


 一緒に働いていて、水色の魔法少女衣装がとても似合っている。


 リボンやフリルがたっぷりで、まるで絵本の世界から出てきたような印象だ。


「ひかりお姉ちゃん、この席のオーダー取ったよ。ドリンクはどうする?」


「うん☆ ありがとう、かなたちゃん。すぐ作るね!」


 かなたちゃんがにこっと笑うと、その場がパッと明るくなる。


 隣で見守っているつむぎさんも「いいねいいね、二人とも天使~!」と大満足。


 店内も「可愛い~」と盛り上がっているが――あの、両方とも本当は男子なんですけど……と心でツッコむ。


(まあ、お客さんはそんな裏事情知らないし、これはこれでいいのかな……)




 そんな中、一人の少年がそっと扉を開けて入ってきた。


 黒縁メガネが印象的で、細身な体型。年はぼくと同じくらい?


 他のお客さんが浮き立つ雰囲気とは対照的に、地味で落ち着いた服装、表情も硬い。


 ちらりと店内を見渡した後、空いている席に腰を下ろす。


「い、いらっしゃいませっ☆ ご注文は……?」


 かわいい声で呼びかけても、少年は「ドリンクだけ……」とだけ言い、あとはスマホをいじり始める。


(あれ……他の人みたいに興奮した様子がない。魔法少女イベントに興味ないのかな?)


一応オーダーを取ってカウンターへ戻ると、つむぎさんが「なんだかあの子、SNSを見てるっぽいわね」と呟く。


「イベントを知って来たのかもだけど……ちょっと雰囲気違うね」とぼくも首を傾げる。なんだろう。




 その後、追加の注文をさばいていると、かなたちゃんが軽くつまずいてしまうアクシデントが。


 カウンター脇の段差に足をとられ、「きゃっ!」と小さく声を上げる。


「わ、危ない! 大丈夫!?」


 とっさに支えたぼくは、気づけば魔法少女姿のかなたちゃんと少し抱き合うような格好になっていた。


 フリルやリボン同士が触れ合い、ぬいぐるみ同士がぶつかったみたいに柔らかい。


「ご、ごめんね、ひかりお姉ちゃん。私……」


「う、ううん。ケガなさそうでよかったよ。びっくりしたけど」


 すると、お客さんたちが「尊い~!」「写真撮りたい!」と盛り上がり始める。


(いや、これって“女の子同士”のイチャイチャに見えるのか……両方、元男なんだけど……)


 そう思いつつ、恥ずかしいので一歩下がる。


 ふと視線を感じて振り向くと、先ほどの少年がこちらを凝視している。


 唇が震え、目が見開かれている……まるで衝撃を受けたみたい。


(なに……? こっちに何か言いたそう)


 少年は意を決したように立ち上がり、カウンターへ向かうと、低い声で言った。


「……すみません。トイレを貸してもらえませんか?」


「トイレならご自由にどうぞ……って、あの、普通に用を足すだけじゃない感じの声だけど……?」


 つむぎさんが戸惑うと、少年は言葉を継ぐ。


「いえ……着替えがしたいんです。どうしても着替えなきゃいけないんです」


「え、ええっ、トイレで? さすがに狭いし、他のお客さんもいるし……」


 ぼくが戸惑っていると、少年は深刻そうな顔で「でも、ここしかないんです」と譲らない。


(着替え……何を着るつもりだろ?)


「うーん……しょうがないわね。ロッカールームを貸してあげるわ」


 つむぎさんがあっさりと判断してしまう。


「え、いいんですか!? こんな初対面のお客さんに……」


「でもトイレだと着替えにくいでしょ?それに、興味あるし」


「そ、そういう理由……?」


 ぼくは(さすがつむぎさん、ノリがいいというか何というか)と苦笑い。


「ありがとうございます」


 少年は丁寧に一礼して、ロッカールームへと向かっていった。


 ロッカールームの扉の向こうから、衣装を広げるかさかさ音が聞こえる。


 どれほど大掛かりな準備をしているのかと、つむぎさんと目を見合わせる。




 数分後、ドアが開き――現れたのは、まるで舞台衣装のような華麗な魔法少女風ドレスをまとった“少女”だった。


 先ほど地味だった少年の面影はどこにもない。


 髪は金髪にエクステをつけており、縦ロールになっている。まさに「お嬢様」といった感じだ。


「お待たせしましたわ~! わたくし、まどかと申しますの!以後、お見知りおきを!」


 先ほどの無口な少年からのあまりの変貌っぷりに、ぼくは一瞬フリーズしてしまう。


「え、え……? あなた、本当にさっきの……?」


 かなたちゃんも目をパチクリさせている。


 こ、これって、ぼくたちと同じ!?服に着られて女の子になる体質ってことだよね!?


 まどかくん、いや、まどかちゃんは優雅にスカートを揺らし、興奮気味に続ける。


「先ほどの“女の子同士の尊い抱擁”……あれを見た瞬間、わたくしの中の“百合オタク”としての情熱が弾けたのですわ! こうしてはいられないと、着替えを決行いたしましたの!」


「え、えぇ……(女の子同士? 実際は男×男なんだけど……)」


 ぼくは心の中でツッコミつつ、あまりのテンションに圧倒される。


「男と女の恋なんて興味なしですの! 女の子同士の美しさ、そこにこそ真理があるんですわ!」


「そ、そうなんだ……」


 かなたちゃんは困惑しながらも、まどかちゃんの勢いに押されて目を逸らせない。


「ひかりさん!あなたの魔法少女はまさに『解釈一致』!最高ですわ!さすが、わたくしが『同じ体質』としてチェックしてただけありますわ」


 さらっと告白する。やっぱり、さっきSNSを見ていたのはそれを確認するため……?




 派手な衣装とハイテンションのお嬢様言葉が目立ち、他のお客さんがざわざわ集まってくる。


「わあ、もう一人の魔法少女?」


「見たことないけど、スタッフさん?」


 やがて誰かが「3人そろったら絶対映えるから写真撮りたい!」と声をあげる。


「え、ちょ……この子スタッフじゃないし……」とぼくが言いかける間もなく、


「いいよ、3人で魔法少女ショット撮ろう!」という声があちらこちらから。


 まどかちゃんを見ると、「こんな尊い2人と撮っていただけるなんて光栄ですわ!」とすでにノリノリでポーズを決めている。


 かなたちゃんとぼくも巻き込まれ、“魔法少女3人”の撮影会が始まってしまう。


 パシャパシャとシャッター音が響き、店内はちょっとしたステージみたいな熱気。


 お客さんが『可愛い~!』と叫びながらカメラを構えると、まどかちゃんが『ポーズはお任せくださいませ!』とくるりとスカートを揺らし、片手を高く掲げた。


(でもこれ、ぼくもかなたちゃんも、変身前は男だし、まどかちゃんももともとは男性だったよね…… すごいカオスだけど、まあ……楽しんでもらえてるならいいか)




 やがて閉店時刻が近づき、撮影会も一旦終了。


 まどかちゃんは満足げな笑顔でカウンターへ来て、お会計を済ませて言う。


「いやですわ~、本当に尊い光景を見せていただきました! ひかりさんと、かなたさん……最高ですわ!」


 興奮冷めやらぬ、といった感じだ。


「それに、ロッカールームまで貸していただいて助かりました。このご恩は、必ずお返しさせてもらいますわね」


「え、あ、はい……ありがとうございます? っていうかお返しって……?」


「ひかりさん、かなたさん……お二人にはぜひ見ていただきたい、とびきり素敵な場所がございますの。後ほど“特別なお招き”をご用意いたしますわ♪」


 特別?それってどういう意味だろう……。


 問い返す間もなく、まどかちゃんはスカートをふんわりと揺らし、まるで舞台女優のように優雅に「では、ごきげんよう!」と華麗に手を振りながら退店していった。




 残されたぼくとかなたちゃんは、まさに“嵐が吹き荒れた”後のような気分だ。


「な、何だったんだろう、あの子……」


 嵐のような勢いで現れて去ったまどかちゃんの姿を思い浮かべながら、ぼくはため息をつく。


「すごい勢いだったね……でも、なんだか楽しそうだった」


 かなたちゃんは小首をかしげる。


 ぼくも「また来るんだろうな」と確信するようにため息をつく。




 店じまいを終えて服を脱ぐ。


 恥ずかしさが一気に襲ってくる瞬間だ。


 ふとスマホを見ると、SNSには早速「Café Catalystに魔法少女3人!?」「#謎の新キャラまどか」などの写真が散乱している。


 三人で並んだショットには「百合!」「尊い~!」というコメントが多数。


(いや、それは実際“男×男”というか、なんなら全員男なんですけどね……と言いたいけど、黙っておこう。世間の皆さんが幸せなら……)


 そう思うと、ちょっと可笑しくて笑えてくる。


 まどかちゃんが言い残した「特別なお招き」とは、一体どんなものなのだろう。


 想像もつかないが、きっとまた新たな騒動に巻き込まれることだけは確かだ。


(ああ、ぼくの“服に着られる”人生は、これからどれだけ巻き込まれていくんだろう……。でも、ちょっと楽しみかもしれない)


 そんな予感を抱きながら、ぼくは店の電気を消して扉をロックする。


 遠ざかる商店街の明かりを背に、今日の出来事を振り返る。


 頭の中には“魔法少女3ショット”の光景と、華麗に去っていくまどかちゃんの姿がしっかりと焼き付いていたのだった。

 3人目の同じ体質、まどかちゃんが登場です!

 まどかちゃんの”特別なお招き”、お楽しみに!

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