04 量産型コーデでドキドキ双子デート!?
(……量産型コーデで双子デート、っていったいどうなるんだろう。
しかもぼく、男なんだけど……こんな甘々の服を着たら、またあの感覚が……)
「わわっ、ひかりお姉ちゃん可愛い~! ほら、もっとフリルが映えるポーズしてみて♪」
「ちょ、ちょっとかなたちゃん、そんな無茶ぶり――うわぁ……!」
ざわめく街の視線がいっせいにこちらを向き、思わず赤面してしまう。
まさかこんな恥ずかしい姿で、しかも“双子デート”なんて……どうしてこうなったんだろう?
――数時間前、いつもの喫茶店。そこからすべてが始まった。
ぼく――天川ひかりは、「Café Catalyst」 の扉を開けながら、少し落ち着かない心でスマホを見つめていた。
前回のメガネメイド騒動で“押しに弱いモード”に陥りかけたぼくを救ってくれた同じ体質仲間、かなたちゃん。
そのお礼をしたいと連絡したら、「じゃあ量産型コーデで双子デートしましょ!」と返ってきたのだ。
「……デ、デート? 男同士で……いや、女同士か……?しかも量産型……どうなるんだろう……」
一人で悶々としていると、カウンター越しにつむぎさんが笑みを浮かべて声をかける。
「いらっしゃい、ひかりくん。今日はかなたちゃんと待ち合わせでしょ?」
つむぎさん、なんだかウキウキしてない?
「ロッカールーム、好きに使っていいからね~。いやあ、二人の量産型姿が見られるなんて楽しみ♪」
「そ、そんな……。でも、ありがとうございます……」
そう返事をしてキョロキョロしていると、店の奥からすっと足音が近づいてきた。
中性的でほんわかした空気を纏う、”男の子版”のかなたちゃんが現れ、柔らかく微笑む。
「おはようございます、お待ちしておりました」
(男の子モードのときは、話し方とかは丁寧な感じなのかな。でも、女の子のときとあまり雰囲気変わらない? なんだかホワホワして可愛い……)
ぼくは思わず視線をそらす。どうやら、かなたちゃん本人は自然体らしく、落ち着いているようだ。
「……あ、かなたちゃん……今はかなたくん、だよね?」
「かなたちゃんでいいですよー。そのほうがしっくりくるので、では、ひかりお姉ちゃん、行きましょう」
(ひ、ひかりお姉ちゃん!?ぼく、まだ男だけど!?)
これが、自然体ってこと!?
「そ、そっか……わかった。じゃあ早速、着替えに行こっか」
こうして、ちょっとだけドキドキしながら、ぼくたちはロッカールームへ向かった。
ロッカールームに入り、かなたちゃんがバッグから取り出したのは、フリルたっぷり&リボン満載の量産型セットアップ。
甘いパステルカラーが目に飛び込んできて、思わず息を飲む。
「ひかりお姉ちゃんにはパープルをどうぞ。こちらはピンクで合わせますね。双子コーデなので並ぶと絶対可愛いですよ!」
「わ、す、すごいフリフリ……。しかもこんな短い丈……」
戸惑いながらも、頭からブラウスをかぶった瞬間、ビリッとした電流のような刺激が首筋を走る。
身体がじわじわ熱くなり、またしても、気の遠くなる感じ。
ふと気がついて、鏡をのぞく。そこにはすっかり甘い女の子になったぼくがいて――ぐるりとスカートを揺らすたび、ふわふわのフリルが踊ってみせる。
髪はふんわり巻かれ、メイクやネイルまですっかり“女の子仕様”になっている。
(うわ……予想以上に“量産型女子”になっちゃってる……!)
あまりにも甘いコーデに、なんだか、男としての”ぼく”は引っ込み気味で、女の子の気分が出てきてしまうような。
隣を見れば、かなたちゃんもピンクのセットアップに変身済み。
声のトーンすら砕けた感じで、にこっと笑った。
「わぁ……ひかりお姉ちゃん、すっごく可愛い!」
「やっぱり量産型が似合うんだね! フリフリが映えてるよ~!」
「こういう服着るとほんとに“女子”な気分……。わ、わわ、リボン多すぎ……」
軽く照れながらスカートの裾やフリルを整えていると、ロッカールームをノックする音が。
「着替え終わった? ……うわぁ~、可愛い! ほんとに双子みたいね」
「じゃあ、楽しんできなよ~!」
「はい……行ってきます……」
「いってきまーす!」
今回の靴は、黒い厚底ローファー。カフェの外へ出ると、一歩踏み出すたびにコツコツと音がする。
男だったら絶対履かない靴なのに、不思議と今はあまり違和感がない。
(でも、この高さでよく歩けるな……あっ、こんなのはじめてなのに、足取りがちゃんと安定してる……服の効果ってほんとすごい……)
スカートのフリルが風を受けてふわりと揺れ、肌に軽く触れる感覚まで妙に心地いい。
男のときなら「恥ずかしい」の一言で終わるはずなのに、今はなぜか胸が高鳴ってしまう。
「ひかりお姉ちゃん、あそこのアクセ屋さん、見てみようよ!」
「あ、うん……わ、でもこんなフリフリの格好で雑貨屋に入るとか……いや、なんか気になる。行ってみよ」
店のドアをくぐると、そこにはレースやリボン、ハートや星のモチーフがあふれるアクセサリーの天国が広がっていた。
「ふわぁ……すごい可愛い……。レースのシュシュとか、ハートのバレッタとか……」
「ふふ、ひかりお姉ちゃん、もう目がキラッキラだよ~」
かなたちゃんがいたずらっぽく笑う。
「普段なら『うわ、甘すぎ』ってスルーしそうなのに……まさに量産型モードだね!」
自分でもわかるくらい、“甘々”な言葉が口をついて出てしまう。
”男のときのぼく”なら「興味ない」って言いそうなのに。
服に完全に着られてしまったぼくは「可愛い……」と手に取って確認してしまう。
鏡で合わせてみたりして、「これどう?」とこっそりかなたちゃんに見せたり――つい、女子っぽい仕草をしてしまう。
「いいと思うよ~。あ、こっちのフリルリボンとかも似合いそう!」
「や、やめてよ……本当は、女の子じゃないのに……あ、でもこの色も可愛いかも……」
(ああ……恥ずかしいのに、楽しい……! このギャップ、やばい……)
さらに、甘いスイーツ専門店に立ち寄ったときには、いちごパフェを見て「めっちゃ映えそう……」と写真を撮る自分がいる。
(ああもう、これ完全に量産型モードに“着られてちゃってる”よ……!)
「すみませーん! 街頭スナップの企画をしてるんですけど」
少し歩いていると、カメラを持った女性が近づいてきた。
「お二人の双子コーデ、めちゃくちゃ可愛いので写真撮らせてもらえませんか?」
ぼくは一瞬「えっ」と固まるが、かなたちゃんが楽しそうに笑う。
「いいんじゃない? ね、ひかりお姉ちゃん♪」
“お姉ちゃん”呼びに周囲の人がチラチラ見ているが、もう気にしても仕方ない。
「あ、あ……まぁ、ちゃんと声かけてくれてるし……いいですよ……」
そのまま指定された場所に立ち、カメラに向かってポーズを取ってしまう。
服のイメージが染みついているせいか、自然にスカートの裾を摘み、ちょこんと首をかしげるような可愛い仕草をしてしまう。
(うわ……なんか“女の子らしさ”全開のポーズ……ぼく、どうしちゃったんだ……!?)
「ひかりお姉ちゃん、かわいい……! 私も負けないもん♪」
「そ、それ張り合う必要……ま、まぁいいか……」
カメラマンは大興奮で「SNSにアップしますね!」と言い残して去っていく。
(また絶対バズっちゃう……)と思いつつも、甘い気分に包まれている今は、「まぁいいか」と思ってしまう。
撮影を終えて歩き出そうとした矢先、「ママ……」という小さな声が耳に入る。
目をやると、幼い女の子が今にも泣き出しそうな顔で立ち尽くしている。
かなたちゃんがすぐに気づいて、ぼくの手を引いた。
「ひかりお姉ちゃん、あの子迷子っぽい……行こ!」
「う、うん!」
女の子のそばへ駆け寄ると、「ママがいなくなっちゃった……」とぽろぽろ涙を流し始める。
その姿を見た瞬間、気がつくとまるで“優しいお姉さん”にでもなったかのように声をかけていた。
「大丈夫だよ~。じゃあ、お姉ちゃんたちと一緒に探そっか? きっとすぐママに会えるからね♪」
自分でも驚くくらい自然に、完璧な女の子口調が出てしまう。
しかも、泣きそうな子の手をぎゅっと握って微笑むなんて……完全に“女子的”仕草。
男としてのぼくは内心「うわ、なんだこの口調……」と突っ込みたくなってしまう。
でも、女の子は安心したように「うん……」と頷いてくれた。
しばらく歩くと、向こうから母親が「○○ちゃーん!」と叫びながら駆け寄り、女の子は「ママー!」と飛びついていく。
「ありがとうございます……。ほんとに、少し目を離したら……」
「いえ、よかったです……ちゃんと会えて……」
そんなやり取りをしていると、さっきのカメラマンがまた現れ、「ごめんなさい、あまりにも絵になるので撮ってしまって……SNSにアップするかもしれない」と打ち明けてくる。
母親が子どもに尋ねると、「お姉ちゃんたち可愛いから、見せたい!」とにこにこ。
(こ、これフラグじゃ……!)と思いつつも、この子が安心してるならいいか、とつい苦笑いしてしまう。
迷子騒動が無事に終わり、かなたちゃんともう少し街を散策して、「Café Catalyst」に戻る。
ロッカールームで服を脱ぐと、あっという間に男の体へ戻るぼく。
甘々気分から一気に“素の自分”に近い感覚になり、途端に恥ずかしさが一気にこみ上げる。
(うわ~、あんなに甘い口調で話してたのか)
今までの何倍もの恥ずかしさに悶々としてしまう。
(ぼく……自分で“お姉ちゃん”って何さ……)
頭を抱えるぼくを見て、かなたちゃんも男の子に戻った姿で「お疲れさまでした」と微笑む。
「今日はありがとうございました。迷子の子も助けられたし、よかったですね。」
明るくかなたちゃんが言う。
「ひかりお姉ちゃんの姿や言葉で、周りもハッピーになってましたよ」
「そ、そうかな……でも、あのテンション……恥ずかしすぎる……」
かなたちゃんはふわりと笑いながら、ぼくの恥ずかしそうな表情に気づいたようだった。
「そんなに気にしなくていいと思いますよ。恥ずかしいことじゃなくて、むしろ特別なことなんですから」
「特別……?」
「あ、えっと、ちょっと大げさだったかな。実は、お医者さんに『進化系かも』って言われたことがあって……」
「進化系……?」
初めて聞く言葉に、ぼくは思わず目を丸くする。
「私たちの脳、普通の人より少しだけ特別らしいんです。服の影響を受ける体質も、その一環なのかもって」
かなたちゃんはそう言って、いつもの柔らかい笑顔を浮かべた。彼女の口ぶりはどこか軽やかで、あまり深刻には考えていない様子だ。
「もちろん、普通じゃないって聞いたときはびっくりしたけど。でも、私はこの体質を楽しんでます。ひかりお姉ちゃんも、少しずつ慣れていけばいいんですよ」
「慣れる、か……。かなたちゃんがそう言うと、なんだか心強いな……」
「ありがとう。少し怖さが減ったかも……」
かなたちゃんは「いえいえ」と首を横に振り、ほんわかと笑う。その愛らしい雰囲気は、男の子に戻っても健在だ。
夜になる前に店を出て、改札まで一緒に歩く。
スマホを確認すれば、案の定「まさに天使!?量産型美少女双子が迷子を救う!」という投稿があちこちで増えており、いいねがどんどん伸びているようだ。
「神が舞い降りた……!」「あまりの尊さに呼吸止まった」「もはや拝むしかない」と過熱気味のコメント欄に、ぼくは万バズを覚悟する。
「はぁ……やっぱりこうなるんだな……。でも、まあ、あの子が笑顔だったし……いいか。甘々モードの自分を思い返すと、うわあ……すごく恥ずかしいけど……」
「ひかりお姉ちゃんが最高に可愛かったので、みんな幸せだと思いますよ」
かなたちゃんの無邪気な言葉に、思わず頬が熱くなる。
(可愛かった、か。男としては複雑だけど……否定できないくらい完全にノってたよな、ぼく……)
そんな葛藤を抱きつつも、どこか満足感もある自分に気づく。結局、あの甘々感は嫌いじゃないのかもしれない。
こうしてぼくたちは「またね」と手を振り合い、それぞれ家路へ。
“服に着られる”なんておかしな体質だけど、かなたちゃんのおかげで楽しみ方がわかってきた気がする。
(……また量産型コーデを着る機会があるのかな……? ところで、このままぼくって、男の時でも”ひかりお姉ちゃん”って呼ばれ続けるの?)
明日、病院の先生に会うのに、なんだか楽しんじゃった……こんなんで大丈夫なのかな……?
病院――。
前回の診察では「脳が服のイメージを読み取っている可能性がある」と言われたけれど、
明日は、もっと詳しいことがわかるらしい。
「普通の人と違う脳」なんて言われて、正直まだピンときていない。
でも、かなたちゃんの「進化系かも?」って言葉が、頭の片隅で引っかかっている。
(ぼくの身体は……いったい、どうなってるんだろう?)
次第に夜が深まり、遠くで電車の音が響く。
その音を聞きながら、ぼくは静かにスマホの画面を閉じた――。
かなたちゃんも本格的に加わって、さらに賑やかになっていきます!
余談ですが、「Café Catalyst」のCatalystは「触媒」という意味です。
化学変化を引き起こす触媒、まさに、ひかりくんの変身のトリガーをイメージしました。