表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/28

04 量産型コーデでドキドキ双子デート!?

(……量産型コーデで双子デート、っていったいどうなるんだろう。

 しかもぼく、男なんだけど……こんな甘々の服を着たら、またあの感覚が……)


「わわっ、ひかりお姉ちゃん可愛い~! ほら、もっとフリルが映えるポーズしてみて♪」


「ちょ、ちょっとかなたちゃん、そんな無茶ぶり――うわぁ……!」


 ざわめく街の視線がいっせいにこちらを向き、思わず赤面してしまう。


 まさかこんな恥ずかしい姿で、しかも“双子デート”なんて……どうしてこうなったんだろう?




 ――数時間前、いつもの喫茶店。そこからすべてが始まった。


 ぼく――天川ひかりは、「Café Catalyst」 の扉を開けながら、少し落ち着かない心でスマホを見つめていた。


 前回のメガネメイド騒動で“押しに弱いモード”に陥りかけたぼくを救ってくれた同じ体質仲間、かなたちゃん。


 そのお礼をしたいと連絡したら、「じゃあ量産型コーデで双子デートしましょ!」と返ってきたのだ。


「……デ、デート? 男同士で……いや、女同士か……?しかも量産型……どうなるんだろう……」


 一人で悶々としていると、カウンター越しにつむぎさんが笑みを浮かべて声をかける。


「いらっしゃい、ひかりくん。今日はかなたちゃんと待ち合わせでしょ?」


 つむぎさん、なんだかウキウキしてない?


「ロッカールーム、好きに使っていいからね~。いやあ、二人の量産型姿が見られるなんて楽しみ♪」


「そ、そんな……。でも、ありがとうございます……」


 そう返事をしてキョロキョロしていると、店の奥からすっと足音が近づいてきた。


 中性的でほんわかした空気を纏う、”男の子版”のかなたちゃんが現れ、柔らかく微笑む。


「おはようございます、お待ちしておりました」


(男の子モードのときは、話し方とかは丁寧な感じなのかな。でも、女の子のときとあまり雰囲気変わらない? なんだかホワホワして可愛い……)


 ぼくは思わず視線をそらす。どうやら、かなたちゃん本人は自然体らしく、落ち着いているようだ。


「……あ、かなたちゃん……今はかなたくん、だよね?」


「かなたちゃんでいいですよー。そのほうがしっくりくるので、では、ひかりお姉ちゃん、行きましょう」


(ひ、ひかりお姉ちゃん!?ぼく、まだ男だけど!?)


 これが、自然体ってこと!?


「そ、そっか……わかった。じゃあ早速、着替えに行こっか」


 こうして、ちょっとだけドキドキしながら、ぼくたちはロッカールームへ向かった。




 ロッカールームに入り、かなたちゃんがバッグから取り出したのは、フリルたっぷり&リボン満載の量産型セットアップ。


 甘いパステルカラーが目に飛び込んできて、思わず息を飲む。


「ひかりお姉ちゃんにはパープルをどうぞ。こちらはピンクで合わせますね。双子コーデなので並ぶと絶対可愛いですよ!」


「わ、す、すごいフリフリ……。しかもこんな短い丈……」


 戸惑いながらも、頭からブラウスをかぶった瞬間、ビリッとした電流のような刺激が首筋を走る。


 身体がじわじわ熱くなり、またしても、気の遠くなる感じ。




 ふと気がついて、鏡をのぞく。そこにはすっかり甘い女の子になったぼくがいて――ぐるりとスカートを揺らすたび、ふわふわのフリルが踊ってみせる。


 髪はふんわり巻かれ、メイクやネイルまですっかり“女の子仕様”になっている。


(うわ……予想以上に“量産型女子”になっちゃってる……!)


 あまりにも甘いコーデに、なんだか、男としての”ぼく”は引っ込み気味で、女の子の気分が出てきてしまうような。


 隣を見れば、かなたちゃんもピンクのセットアップに変身済み。


 声のトーンすら砕けた感じで、にこっと笑った。


「わぁ……ひかりお姉ちゃん、すっごく可愛い!」


「やっぱり量産型が似合うんだね! フリフリが映えてるよ~!」


「こういう服着るとほんとに“女子”な気分……。わ、わわ、リボン多すぎ……」


 軽く照れながらスカートの裾やフリルを整えていると、ロッカールームをノックする音が。


「着替え終わった? ……うわぁ~、可愛い! ほんとに双子みたいね」


「じゃあ、楽しんできなよ~!」


「はい……行ってきます……」


「いってきまーす!」




 今回の靴は、黒い厚底ローファー。カフェの外へ出ると、一歩踏み出すたびにコツコツと音がする。


 男だったら絶対履かない靴なのに、不思議と今はあまり違和感がない。


(でも、この高さでよく歩けるな……あっ、こんなのはじめてなのに、足取りがちゃんと安定してる……服の効果ってほんとすごい……)


 スカートのフリルが風を受けてふわりと揺れ、肌に軽く触れる感覚まで妙に心地いい。


 男のときなら「恥ずかしい」の一言で終わるはずなのに、今はなぜか胸が高鳴ってしまう。


「ひかりお姉ちゃん、あそこのアクセ屋さん、見てみようよ!」


「あ、うん……わ、でもこんなフリフリの格好で雑貨屋に入るとか……いや、なんか気になる。行ってみよ」


 店のドアをくぐると、そこにはレースやリボン、ハートや星のモチーフがあふれるアクセサリーの天国が広がっていた。


「ふわぁ……すごい可愛い……。レースのシュシュとか、ハートのバレッタとか……」


「ふふ、ひかりお姉ちゃん、もう目がキラッキラだよ~」


 かなたちゃんがいたずらっぽく笑う。


「普段なら『うわ、甘すぎ』ってスルーしそうなのに……まさに量産型モードだね!」


 自分でもわかるくらい、“甘々”な言葉が口をついて出てしまう。


 ”男のときのぼく”なら「興味ない」って言いそうなのに。


 服に完全に着られてしまったぼくは「可愛い……」と手に取って確認してしまう。


 鏡で合わせてみたりして、「これどう?」とこっそりかなたちゃんに見せたり――つい、女子っぽい仕草をしてしまう。


「いいと思うよ~。あ、こっちのフリルリボンとかも似合いそう!」


「や、やめてよ……本当は、女の子じゃないのに……あ、でもこの色も可愛いかも……」


(ああ……恥ずかしいのに、楽しい……! このギャップ、やばい……)


 さらに、甘いスイーツ専門店に立ち寄ったときには、いちごパフェを見て「めっちゃ映えそう……」と写真を撮る自分がいる。


 (ああもう、これ完全に量産型モードに“着られてちゃってる”よ……!)





「すみませーん! 街頭スナップの企画をしてるんですけど」


 少し歩いていると、カメラを持った女性が近づいてきた。


「お二人の双子コーデ、めちゃくちゃ可愛いので写真撮らせてもらえませんか?」


 ぼくは一瞬「えっ」と固まるが、かなたちゃんが楽しそうに笑う。


「いいんじゃない? ね、ひかりお姉ちゃん♪」


 “お姉ちゃん”呼びに周囲の人がチラチラ見ているが、もう気にしても仕方ない。


「あ、あ……まぁ、ちゃんと声かけてくれてるし……いいですよ……」


 そのまま指定された場所に立ち、カメラに向かってポーズを取ってしまう。


 服のイメージが染みついているせいか、自然にスカートの裾を摘み、ちょこんと首をかしげるような可愛い仕草をしてしまう。


(うわ……なんか“女の子らしさ”全開のポーズ……ぼく、どうしちゃったんだ……!?)


「ひかりお姉ちゃん、かわいい……! 私も負けないもん♪」


「そ、それ張り合う必要……ま、まぁいいか……」


 カメラマンは大興奮で「SNSにアップしますね!」と言い残して去っていく。


 (また絶対バズっちゃう……)と思いつつも、甘い気分に包まれている今は、「まぁいいか」と思ってしまう。




 撮影を終えて歩き出そうとした矢先、「ママ……」という小さな声が耳に入る。


 目をやると、幼い女の子が今にも泣き出しそうな顔で立ち尽くしている。


 かなたちゃんがすぐに気づいて、ぼくの手を引いた。


「ひかりお姉ちゃん、あの子迷子っぽい……行こ!」


「う、うん!」


 女の子のそばへ駆け寄ると、「ママがいなくなっちゃった……」とぽろぽろ涙を流し始める。


 その姿を見た瞬間、気がつくとまるで“優しいお姉さん”にでもなったかのように声をかけていた。


「大丈夫だよ~。じゃあ、お姉ちゃんたちと一緒に探そっか? きっとすぐママに会えるからね♪」


 自分でも驚くくらい自然に、完璧な女の子口調が出てしまう。


 しかも、泣きそうな子の手をぎゅっと握って微笑むなんて……完全に“女子的”仕草。


 男としてのぼくは内心「うわ、なんだこの口調……」と突っ込みたくなってしまう。


 でも、女の子は安心したように「うん……」と頷いてくれた。




 しばらく歩くと、向こうから母親が「○○ちゃーん!」と叫びながら駆け寄り、女の子は「ママー!」と飛びついていく。


「ありがとうございます……。ほんとに、少し目を離したら……」


「いえ、よかったです……ちゃんと会えて……」


 そんなやり取りをしていると、さっきのカメラマンがまた現れ、「ごめんなさい、あまりにも絵になるので撮ってしまって……SNSにアップするかもしれない」と打ち明けてくる。


 母親が子どもに尋ねると、「お姉ちゃんたち可愛いから、見せたい!」とにこにこ。


 (こ、これフラグじゃ……!)と思いつつも、この子が安心してるならいいか、とつい苦笑いしてしまう。




 迷子騒動が無事に終わり、かなたちゃんともう少し街を散策して、「Café Catalyst」に戻る。


 ロッカールームで服を脱ぐと、あっという間に男の体へ戻るぼく。


 甘々気分から一気に“素の自分”に近い感覚になり、途端に恥ずかしさが一気にこみ上げる。


(うわ~、あんなに甘い口調で話してたのか)


 今までの何倍もの恥ずかしさに悶々としてしまう。


(ぼく……自分で“お姉ちゃん”って何さ……)


 頭を抱えるぼくを見て、かなたちゃんも男の子に戻った姿で「お疲れさまでした」と微笑む。


「今日はありがとうございました。迷子の子も助けられたし、よかったですね。」


 明るくかなたちゃんが言う。


「ひかりお姉ちゃんの姿や言葉で、周りもハッピーになってましたよ」


「そ、そうかな……でも、あのテンション……恥ずかしすぎる……」


 かなたちゃんはふわりと笑いながら、ぼくの恥ずかしそうな表情に気づいたようだった。


「そんなに気にしなくていいと思いますよ。恥ずかしいことじゃなくて、むしろ特別なことなんですから」


「特別……?」


「あ、えっと、ちょっと大げさだったかな。実は、お医者さんに『進化系かも』って言われたことがあって……」


「進化系……?」


 初めて聞く言葉に、ぼくは思わず目を丸くする。


「私たちの脳、普通の人より少しだけ特別らしいんです。服の影響を受ける体質も、その一環なのかもって」


 かなたちゃんはそう言って、いつもの柔らかい笑顔を浮かべた。彼女の口ぶりはどこか軽やかで、あまり深刻には考えていない様子だ。


「もちろん、普通じゃないって聞いたときはびっくりしたけど。でも、私はこの体質を楽しんでます。ひかりお姉ちゃんも、少しずつ慣れていけばいいんですよ」


「慣れる、か……。かなたちゃんがそう言うと、なんだか心強いな……」


「ありがとう。少し怖さが減ったかも……」


 かなたちゃんは「いえいえ」と首を横に振り、ほんわかと笑う。その愛らしい雰囲気は、男の子に戻っても健在だ。




 夜になる前に店を出て、改札まで一緒に歩く。


 スマホを確認すれば、案の定「まさに天使!?量産型美少女双子が迷子を救う!」という投稿があちこちで増えており、いいねがどんどん伸びているようだ。


 「神が舞い降りた……!」「あまりの尊さに呼吸止まった」「もはや拝むしかない」と過熱気味のコメント欄に、ぼくは万バズを覚悟する。


「はぁ……やっぱりこうなるんだな……。でも、まあ、あの子が笑顔だったし……いいか。甘々モードの自分を思い返すと、うわあ……すごく恥ずかしいけど……」


「ひかりお姉ちゃんが最高に可愛かったので、みんな幸せだと思いますよ」


 かなたちゃんの無邪気な言葉に、思わず頬が熱くなる。


(可愛かった、か。男としては複雑だけど……否定できないくらい完全にノってたよな、ぼく……)


 そんな葛藤を抱きつつも、どこか満足感もある自分に気づく。結局、あの甘々感は嫌いじゃないのかもしれない。


 こうしてぼくたちは「またね」と手を振り合い、それぞれ家路へ。


 “服に着られる”なんておかしな体質だけど、かなたちゃんのおかげで楽しみ方がわかってきた気がする。


 (……また量産型コーデを着る機会があるのかな……? ところで、このままぼくって、男の時でも”ひかりお姉ちゃん”って呼ばれ続けるの?)


 明日、病院の先生に会うのに、なんだか楽しんじゃった……こんなんで大丈夫なのかな……?


 病院――。


 前回の診察では「脳が服のイメージを読み取っている可能性がある」と言われたけれど、


 明日は、もっと詳しいことがわかるらしい。


 「普通の人と違う脳」なんて言われて、正直まだピンときていない。


 でも、かなたちゃんの「進化系かも?」って言葉が、頭の片隅で引っかかっている。


 (ぼくの身体は……いったい、どうなってるんだろう?)


 次第に夜が深まり、遠くで電車の音が響く。


 その音を聞きながら、ぼくは静かにスマホの画面を閉じた――。

 かなたちゃんも本格的に加わって、さらに賑やかになっていきます!


 余談ですが、「Café Catalyst」のCatalystは「触媒」という意味です。

 化学変化を引き起こす触媒、まさに、ひかりくんの変身のトリガーをイメージしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ